2024年 4月 19日 (金)

副業OKと過労死の微妙な関係 「労働時間の管理」は本当にできる?

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   大手企業による副業解禁の動きが広がってきた。アサヒビールが2020年1月から社員の副業の容認に踏み切ったほか、19年10月、みずほフィナンシャルグループ(FG)も副業や兼業を認めるなど、業種を超えて拡大中だ。政府も副業の労災認定をしやすい仕組みを作るなど法改正に動き出しているが、依然課題もある。

   アサヒビールは5年以上の勤務経験がある社員約3000人を対象に副業を認めることにした。これまでは60歳以上の定年退職後に再雇用したシニアスタッフに限っていたが、一気に拡大した。副業規定を改訂し、社員からの届け出を審査し、本業に支障がない範囲で会社側が認める制度だという。副業容認について同社は、「社員のキャリア形成に生かしてもらいたい」などと狙いを説明している。専門的な知識や能力を身につけ、人脈を広げることで、本業にもプラスの効果をもたらすことを期待している。

  • 副業のメリットとデメリットは・・・(画像はイメージ)
    副業のメリットとデメリットは・・・(画像はイメージ)
  • 副業のメリットとデメリットは・・・(画像はイメージ)

政府も推進

   みずほFGはメガバンクとしては初めて行員の副業や兼業を認めたことで注目を集めた。同社も社員のキャリア形成を挙げるが、「柔軟な働き方をアピールしなければ、優秀な人材が集められない」ことが大きな理由だとされる。海外の巨大IT企業などに人材が流れるケースは実際に増えている。副業容認は積極的な理由というより、多様な働き方を提示しなければ企業の成長を揺るがしかねず、やむを得ない判断という側面もあるようだ。

   IT企業では、サイボウズが副業OKの会社として知られ、ベンチャー企業のなかには、専業を禁止する会社まで出現しており、自由な発想や他社・他業界との協力・協業の必要性が高いだけに、副業解禁では先行している。

   こうした民間の動きは、行政のスタンスと無関係ではない。政府は「働き方改革実行計画」で、イノベーション創出を目的に副業・兼業の推進を宣言しており、副業・兼業の推進に向けたガイドラインの策定やモデル就業規則の改定など、既存の制度改正に動いている。日本では起業が少ないことが、イノベーション低迷の一因という見方が背景にある。会社を辞めて、収入ゼロでの企業はリスクが高いが、副業が容認されれば、本業で給料をもらいながら、新たな事業にチャレンジでき、起業しやすいという判断だ。

   起業のプラス・マイナスを整理すると、メリットは、▽社員の社外での人脈拡大▽新規事業の創発・イノベーションの拡大▽社員のモチベーションの向上▽優秀な人材の定着など。デメリットは、▽従業員の過重労働▽業務効率の低下▽情報漏洩のリスク▽労務管理等の事務煩雑化などが考えられる。

解禁は一気に進む?様子見が多い?

   実際に、企業が解禁に一気に動くかは微妙。パーソル総合研究所が2019年に企業の人事担当者1000人に対して実施した調査では、副業・兼業を「全面的に認めている」13.9%、「企業が設定した条件をクリアした場合に認めている」36.1%、「全面的に禁止」50%と真っ二つに分かれ、全面禁止のうちの7割は「今後も全面的に禁止していく」としている。

   さらに、深刻な「過労死」問題は続いている。厚生労働省の労働政策審議会は2019年12月、副業や兼業で仕事を掛け持ちしている人の労災を認定する際、複数の事業所の労働時間を合算したうえで算出した残業時間を基に判断するという報告書をまとめた。20年度中にも労働保険法などを改正する見通しだ。だが、副業が一般化した場合、労働者が自身の健康をきちんと管理できるのだろうか。

   具体的に考えてみると、労働時間の管理では、企業側が副業との通算の労働時間を把握し、過重労働になっていないかをチェックすることが必要になる。そのためには「従業員から副業・兼業として労働した時間を明確に申告してもらう」「週何時間までの副業・兼業であれば容認する」といった条件を設ける必要があるだろうが、それで本当に過労死を防げるか、疑問視する声が根強い。

   過労死問題の専門家は「高い能力を生かして副業として起業などをしているのは生活に余裕がある一部の人に過ぎず、副業している人の多くは生活が苦しくて、副業で働かざるを得ない人。成果主義が広がる中で、働き方改革の名のもとに残業を減らすとの掛け声で労働時間を少なく申告することが横行している。労働時間の管理は一社だけでも難しいのが実態で、過労死が増える懸念は強い」と警鐘を鳴らす。

   ある大手企業幹部が「企業にとってはまだまだ不透明な部分が多く、大半の企業はしばらく様子見を続けるのではないか」と語るように、副業容認は一気に広がりはしないとの見方が少なくない。

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