2024年 4月 26日 (金)

リーチサイト規制も盛り込んだ改正著作権法 「海賊版」対策にどこまで活かせるか

   インターネット上に違法にアップロードされた漫画など海賊版のダウンロード(複製)を規制する著作権法の改正案が閣議決定された。政府は1年前の通常国会で成立させる腹だったが、「ネット利用が萎縮しかねない」との懸念の声を受けて法案提出が見送られていた。

   今回は批判を踏まえ、軽微なものは規制対象としないとした。ただ、海賊版との戦いはまだまだ続きそうだ。

  • 議論のきっかけとなった「漫画村」(すでに閉鎖)。法改正でどこまで取り締まれるか
    議論のきっかけとなった「漫画村」(すでに閉鎖)。法改正でどこまで取り締まれるか
  • 議論のきっかけとなった「漫画村」(すでに閉鎖)。法改正でどこまで取り締まれるか

「リーチサイト」は20年10月に施行

   改正案は、権利者の許可無くネットに上げられたコンテンツのダウンロードの規制対象を、現行の音楽と映像だけでなく、漫画や写真、論文、コンピュータープログラムなどすべてに拡大する内容。著作権侵害物だと知りながらダウンロードしたり、スクリーンショット(スクショ)したりする行為が対象で、反復・継続して違反した場合は悪質なケースとして、刑事罰も設けた。著作権者の告訴が条件で、有罪になると2年以下の懲役か200万円以下の罰金、またはその両方が科される。

   ただし、数十ページの漫画の数コマのように全体の分量から見て軽微なものや、一部に著作権侵害物が写り込んだスクショ、さらに「二次創作」やパロディーは対象にしないことにした。その他、著作物の経済的な価値やダウンロードの目的などから、著作権者の利益を不当に害しないと説明できる「特別な事情」がある場合は違法としないと、要件を絞った。改正案全体は2021年1月施行を予定。

   改正案には、海賊版サイトにネット利用者を誘導する「リーチサイト」や「リーチアプリ」の規制も盛り込んだ。違法ダウンロードする場合、通例、これらサイトやアプリを経由して海賊版サイトにアクセスするからで、最高懲役5年・罰金500万円の刑事罰も導入する。この部分は一足早く、2020年10月施行する考えだ。

   2017年秋ごろから「漫画村」(2018年4月閉鎖)が人気を集め、大きな社会問題となった。海賊版の映画や音楽、本など有償の著作物をネットで公開するのは現在でも著作権を侵害する違法行為だ。本来、作者や出版社が受けるべき利益を奪うもので、「漫画村」だけでも3000億円もの被害が生じたとの試算もある(コンテンツ海外流通促進機構。もっとも、この数字には異論も少なくない)。

   ただ、現実には、違法サイトは海外のサーバーに置くのが一般的で、運営者が簡単には分からないため、摘発は難しい。

   アップをやめさせるのが無理なら違法サイトにアクセスできなくする――ということで、当初の議論はサイトブロッキング(接続遮断)が中心だった。しかし、遮断するためには通信業者がネット利用者のアクセス先を監視しなければならず、憲法が保障する「通信の秘密」を侵害しかねないとして反発が強く、頓挫した。

   遮断が無理なら、海賊版の利用に歯止めをかけることで、海賊版でもうけられないようにすることで海賊版を抑えようとするのが今回の改正だ。

海外捜査当局との連携は...

   日本の著作権法では、自分や家族が楽しむなど限られた範囲で使うためのコピーは、著作権者の承諾なくできるとして、私的複製を広く認めている。ところが、1年前に政府が打ち出した当初案は、個人の趣味や研究、創作など、日常的に行われている活動全般に広く規制の網がかかる内容だったが、「自分限りの資料やメモとして著作物をダウンロードすることは、日常的に行われる。そこに広く違法の網がかかれば、ネット利用の萎縮を招き、知る権利や表現の自由を脅かすとの懸念」(朝日新聞2019年3月16日社説)が各方面から出され、政府は夏の参院選への影響も考慮して改正法案の提出をひとまず断念した。

   11月から文化庁の検討会を設けて議論をスタートし、1月に最終報告が出され、与党の議論を経て法案がまとまった。例えば、検討会では、「権利者の利益を不当に害する場合」だけを違法とするよう絞り込むか、否かについては意見が分かれたが、自民党内の議論で「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く」として、詐欺集団のつくった詐欺マニュアルを被害者救済団体が告発サイトに無断掲載▽ある論文を別の研究者が批判とともにサイトに無断転載▽有名タレントがお勧めイベントを紹介するためにそのポスターを無断転載したSNS――などを規制対象外として例示した。

   ただ、今回の改正だけで海賊版が根絶できるというわけではない。たとえばリーチサイト規制は今回の法改正の大きなポイントで、実効性への期待も高いが、運営側が海外のサーバーを使うなどしているため捜査しにくいといわれ、海外の捜査当局との連携も大きな課題になる。

   折りしも「漫画村」運営者の男(28)の裁判が進行中で、中心メンバーの男(38)に3月18日、東京地裁が懲役1年10カ月執行猶予3年、罰金100万円(求刑懲役3年、罰金300万円)の判決を言い渡した。それでも、出版団体が把握する海賊版サイトは今なお500以上あり、日本からのアクセス数上位10サイトだけで月間利用者は計6500万人になるという。

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