2020年 10月 23日 (金)

お前のせいで感染が拡がる―「コロナ差別」に遭った訪問看護師が、あえて体験をツイートした理由

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   「なぜ看護師が外を歩いている」。訪問看護師の女性は、停めていた会社の車に乗ろうとした時、突然呼び止められた。「お前のせいで感染が拡がるだろう」。次々に偏見に満ちた罵声を浴びせられた。

   新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い、医療従事者への差別や偏見が報告されている。この女性も、まさにその1人。自らの体験をツイッターで明かすと、大きな反響を呼んだ。「医療に携わる方が私の経験を知っていたら、もし同じことが起きた時、一歩引いて受け止められるんじゃないか」。女性は取材に、投稿に込めた思いを明かした。

  • 訪問看護師の女性が「コロナ差別」の体験を投稿(写真はイメージです)
    訪問看護師の女性が「コロナ差別」の体験を投稿(写真はイメージです)
  • 訪問看護師の女性が「コロナ差別」の体験を投稿(写真はイメージです)

「とにかく迷惑だから外を歩くな」

   「悲しいことがありました」。女性が投稿したのは2020年3月30日。この日、訪問看護を終えて車に戻ろうとすると、車に書かれた社名を見ている男性がいた。訪問看護と書いてあることから「お前は看護師か」と聞かれた。「はい」と頷くと、男性の表情が強張った。「なぜ看護師が外を歩いている」「お前のせいで感染が拡がるだろう」

   女性は自身の仕事について説明。だが「そんな事は知らない。看護師が外を歩くなんて言語道断だ」と理解されない。さらに「お前の患者にもコロナはいるだろう、そいつの家を教えろ」。女性は、守秘義務もあって教えられないことや、もし新型コロナウイルス感染が分かったら適切に届け出ることなどを伝えた。それでも罵声は止まず、男性は「捨て台詞」とともに去って行った。「とにかく迷惑だから外を歩くな」

   こうした体験談に続き、女性は訪問看護師の存在を知ってもらいたいとメッセージをつづっている。おむつ交換など生活の介助から、人工呼吸器のケア、終末期の看取りまで、携わることは幅広い。患者の自宅は当然、病院のように医療機器が整っていない。緊急の連絡があれば昼夜問わず駆けつける。

   女性は「コロナに関係なく、極端な事を言えばわたしたちが行かなければ重症化する・ご家族と共倒れになる患者さんがいるのです」とし、「そんな看護師たちがいることを、知って下さい。不必要な差別や偏見で傷つけないで下さい。どうか、嫌な思いをする医療関係者が、これ以上増えませんように」と願った。

   訪問看護は在宅医療の1つ。公益財団法人・日本訪問看護財団のウェブサイトによると、地域の訪問看護ステーションなどに詰める看護師が、主治医と密に連携しながら患者の住まいを訪問する。看護の内容は医療上の各種ケアだけでなく、日常生活の支援、心理的支援、患者家族からの相談など多岐にわたる。

「私が訪問看護をしている意義って何なんだ」

   投稿者の女性は関東地方の訪問看護ステーションに勤めている。J-CASTニュースの4月2日の取材に応じ、「ツイッターやニュースで医療従事者に差別や偏見があるという話は何となく聞いていましたが、まさか自分にも起きるとは...突然言われてショックでした」と当時の状況を明かした。

「新型コロナウイルスに関して今回のような罵声を受けたことは初めてでした。最初は『あれ、私いま何を言われてる...?』と驚き、怖かったです。最後は捨て台詞を言われて去っていかれましたが、『なぜこんなことを言われないといけないのだろう...』と悲しくなりました。訪問看護師の認知度はまだまだ低いですし、先が見えない新型コロナウイルスの拡大で、誰しも疲れ切っているでしょうから仕方がないとも思いました。でも突然罵声を浴びて、『私が訪問看護をしている意義って何なんだ』と悩んでしまいました」

   それでも、相手の男性に対しては「とにかく感情を逆撫でしないように」対応した。看護する患者のためだったという。

「事業所の車に戻るタイミングだったので、もしかしたらその男性に、患者さんの自宅から出る瞬間を見られていたかもしれません。そうなると、私が強い態度に出てしまったら、患者さんに被害が及ぶかもしれない。団地の中での出来事でしたが、同じ団地内にうちの他のスタッフが訪問看護している患者さんの自宅もあります。だからあくまで冷静に、説明に徹しました。ただ悪いことはしてないので、謝りはしませんでした」

   投稿は3日時点で4万回近くリツイートされたが、拡散のスピードに戸惑った。「なぜ警察を呼ばなかった」「看護師なら悲しいとか言ってる場合じゃない」という旨の言葉も届いたという。女性は「私自身は気が弱いんです...。途中で怖くなって、削除してしまおうとか、鍵(非公開)アカウントにしてしまおうと考えました」というが、やはり残しておくことを決めた。

「頂いたコメントにはすべて目を通すようにしていました。その中で『同じようなことを言われました』という方を何人か見かけました。私だけじゃない、これからも他の医療関係者に同じことが起きると思いました。その時、もし私の経験を知っていたら『ああ、本当にあるんだ』と一歩引いて冷静になれるんじゃないかと考えました。私の経験談が誰かの役に立ち、心無い言葉もワンクッション置いて捉えられるようになれば、と思いました。

それと、私に色々と言ってこられたあの男性も不安があったと思います。訪問看護がどんなものかもご存知ではありませんでした。私たちの仕事を知ってもらえたら、不安を感じる人も減るのではないかと思い、ツイッターの投稿はそのままにしておくことにしました」

志村けんさんの訃報で「それまで以上に頻繁に質問を受けるように」

   女性は大学卒業後、病院勤務の看護師として働いていたが、とにかく忙しかった。「自分が未熟なせいでもあるのですが、患者さんから声をかけられてもじっくりお話を聞けないことに、葛藤がありました」。訪問看護師になり、決められた時間は1人の患者とその家族にだけ向き合えている。「患者さんの中には、医師には遠慮してしまっても、看護師だったら気軽に話せるという方もいます」という。

   新型コロナウイルス感染防止のため、福祉施設などでは面会制限が増えている。一方、訪問診療については行政から、厳重な感染対策をしたうえで継続するよう通達されているという。女性の周囲に感染が疑われる患者やスタッフは、取材時点でいない。

   女性の訪問先の患者は高齢者が多く、外出機会がいっそう減っている。訪問時は、新型コロナウイルスに関する相談も多い。

「患者さんの不安が強くなっており、訪問時にお話をする時間は長くなっています。テレビつけているお宅も多く、放送された情報から『こういう時はどうしたらいいの?』と聞かれます。

患者さんに不安な症状があるかどうかを聞き、気になる症状があれば主治医に報告します。抱いているのは漠然とした不安なんだと思います。漠然としすぎて、何をどう聞けばいいか分からない患者さんもいます。どこまでご安心いただけているかは分かりませんが、丁寧に説明したり、『またいつでも電話くださいね』とお伝えしたりして、ご納得いただけるケースは多いと感じています。

志村けんさんが先日お亡くなりになって、かなりショックを受けている方が多いです。志村さんの訃報の後、それまで以上に頻繁に質問を受けるようになりました」

「『この地域には訪問看護師がいるから自宅で暮らせる』という安心感を」

   訪問は多い日で7~8人になる。曜日ごとに訪問する患者は決まっており、1回の訪問時間は30分や1時間などと定められている。週5日の勤務だが、休日も緊急時に備えて待機する「オンコール」と呼ばれる当番日があり、深夜や朝方に電話が入ることもある。

   女性は今回のツイッターへの投稿で、先のとおり自分たちの存在を「知って下さい」と訴えかけた。自身の役割を取材に、こう話していた。

「訪問看護は地域医療への貢献という感覚が強いです。希望して自宅で過ごす患者さんもいれば、やむを得ず退院しなければならない方もいます。病院を出されて行き場がない、施設に入るお金もない、だから自宅にいるしかない。そんな方もいます。

患者さんが何年も入院していると、その病院のベッドをずっと使い続けることになります。入院が必要な患者さんは病院に、自宅で療養できる方は自宅に、それぞれいられることが大切です。

私は訪問看護師として、地域の方々に『この地域には訪問看護師がいるから自宅で暮らせる』という安心感を持てるようになってほしいです。何かあった時に呼んだら駆けつける存在があると分かったら、ご自宅でも笑って生活できるのではないかと思っています」

   医療従事者に対する差別的な言動をめぐっては、政府の対策本部が3月28日に決定し、厚生労働省ウェブサイトで公表している「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」の中でも、「感染者・濃厚接触者や、診療に携わった医療機関・医療関係者その他の対策に携わった方々に対する誤解や偏見に基づく差別を行わないことの呼びかけ」を行い、「行動変容に資する啓発を進めるとともに、冷静な対応をお願いする」と示されている。

   日本赤十字社は、公表する「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応する職員のためのサポートガイド」の中でこう言及している。

「未知のウイルスは私たちを不安に駆り立て、ウイルスを連想させるものへの嫌悪・差別・偏見を生み出し、人と人との間の連帯感や信頼感を破壊します。私たちの誰もが、これら3つの感染症の影響を受けていますが、最前線で対応する職員はその影響を最も強く受けることになります。COVID-19対応においては、感染対策(第1の感染症対策)はもちろんのこと、第2、第3の感染症が職員に与える影響を考慮に入れながらCOVID-19対応者へのサポート体制を構築していくことが極めて重要となります」

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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