2024年 4月 24日 (水)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
復活祭を「コロナ受難」の中で迎える米国

ネットで礼拝、パレードはバーチャルに

   ニューヨークに住む高齢の友人を元気づけようと、先日、数か月ぶりに電話した。30年来の知り合いだが、自分の年齢を明かさない。おそらく80代だろう。

   彼女はセントラルパークに作られたテントの「野戦病院」のすぐそばに住んでいる。家にこもり、感染拡大、医療崩壊、死者数増加――と繰り返し流れるニュースを見て、不安に駆られているに違いない。経済的にも決して豊かなほうではない。

   ところが、電話に出た彼女の明るい声に、私は驚いた。テレビでコロナのニュースを流しているのが、大音量で聞こえてくる。

   歩くペースがかなり遅くなったものの、ひとり暮らしの彼女は、今も自分で食料の買い出しに行っている。

   「でも、なるべく外出の回数を減らしたいから、それも10日に1度。近所のスーパーで、高齢者に限定した時間を設けているから、その時に行くの。外出はそれだけ。知り合いを見かけたら、声をかけられないようにコソコソ隠れてるわ。この前なんか、うちのアパートのエレベーターに、あとから乗ってきた人に、『お願い、乗らないで』って叫んじゃったわ」と笑う。

   通い続けていた教会は閉鎖しているため、ネットで礼拝を守っているという。

「ねぇ、信じられる? 世界じゅう、そう、世界じゅうで今、こんなことになっているのよ。しかもスペイン風邪だか何だか以来、100年ぶりに。神がこの災いをもたらしたとは言わない。もちろん、宗教を信じている人も、信じていない人もいる。でも私を含めて今、多くの人が、静かな時間を与えられ、自分の内なる声に耳を傾けて、自分とは何かを探しているわ。本当の意味で、聖なる時を過ごしている気がするの」

   毎年、復活祭の日曜日には、ニューヨークのマンハッタンの五番街が歩行者天国になり、世界最大規模の「イースター・パレード」が繰り広げられる。個性豊かな手作りの帽子をかぶった人たちが、ファッションショーさながらに闊歩する。

   これも、今年はもちろん、中止になった。

   いつもこのパレードを楽しみにしていた別の友人が、「今年のパレードは特別よ」と言う。

   家でそれぞれが着飾り、テレビ・ウエブ会議ツール「Zoom」を使った「バーチャルなパレード」が企画されているという。

   不安で不自由な生活を強いられながらも、コロナの収束をじっと待ちながら、人々は前を向いて生きていこうとしている。(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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