2020年 6月 4日 (木)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(5)
3人の識者に聞く「民主主義の危機と地方分権の希望」

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山口二郎法政大教授が指摘する「政権の空洞化」が起きた理由

   こうした国と地方自治体の関係の変化をどう考えればよいのだろうか。

   長く北大で教えた山口二郎氏に5月15日、ZOOMインタビューでそう尋ねた。山口氏は、この変化の根底には、安倍政権のガバナンス(統治能力)の危機があり、それに対する国民の不信がコロナ禍によって増幅された結果だろうと指摘する。

   クルーズ船「ダイアモンド・プリンセス号」での感染拡大が続いた初期段階、国会での論戦の中心は、「桜を見る会」の「政治枠」や、前日の夕食会での経費をめぐる疑惑、森友学園をめぐる公文書改ざん問題で財務省近畿財務局の職員が自殺した問題の責任の所在などにあった。

   「政府が情報を公開し、国民と情報を共有し、公文書に残して検証に耐えるようにするというのは、近代の民主国家の基本動作だ。数々の疑惑を通して、安倍政権が、そうした基本動作ができていなかったことが明らかになったところに、コロナ禍が広がり、さらに政府への不信が広がった」という。

   だが、歴代最長の宰相で、「1強」をうたわれた政権が、なぜこれほど重大な危機管理で力を発揮できないのか。私がそう尋ねると、山口氏の答えは明快だった。

   それは、90年代以降の選挙制度改革で政党の求心力を高め、内閣府の強化を進めた一方で、政権中枢の立案能力が低下し、脆弱化するという「政権の空洞化」が進行した帰結だという。

   戦後日本の政治システムは、長く権力の多元的分散を基調とし、予定調和的に政策の落としどころを探るというスタイルをとってきた。経済が右肩上がりで成長する時代はそれでよかった。だがバブル崩壊と少子高齢化、人口減少の難題に直面した90年代に、日本の政界は二つの局面で統治システムを改革し、打開を図ろうとした。

   一つは94年にそれまでの中選挙区制から小選挙区比例代表制に移行し、政党交付金を導入したことだ。これによって派閥の力は弱まり、政党指導部の求心力が飛躍的に高まった。

   もう一つは90年代の橋本龍太郎政権以来続いた官邸の権限強化の流れだ。これは08年の内閣人事局の創設で加速し、官邸が各省庁の幹部の人事を掌握するまでになった。

   だがこうして政党、内閣の求心力が高まったのに、それが社会に対するグリップを強め、政策で社会を誘導する能力の強化には結びつかなかった。官僚たちは政策能力で競うよりも、「忖度」競争で内閣に取り入ろうとするようになり、経産省や警察など出身の一部の官邸側近が力を握るようになった。つまり、政権の求心力の強化と、それとは裏腹の政策能力の低下が同時に進行したのが「1強」の内実だったのではないか。

   市井の人々の苦労が分からないという点で、「アベノマスク」の配布は、今回のコロナ禍で、安倍政権の人心遊離を喜劇的に象徴する出来事だった。補正予算の経済対策の中身を見ても、政府はコロナ危機に直面する人々の苦境や希望に応えているとは思えない。そう山口氏は指摘する。

「その点でいえば、政権の無策を埋める形で自治体の首長が登場し、その指導力が住民の安心・安全に直結するという事態は、戦後初めての体験だったのではないか」
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