2020年 6月 4日 (木)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(5)
3人の識者に聞く「民主主義の危機と地方分権の希望」

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森啓・元北大教授「中央政府と自治体は横に補完し合う関係」

   森氏は神奈川県職員として長く働き、自治総合研究センターの研究部長として自治体交流を呼びかけ、「日本自治体学会」の創設者の1人になった。一貫して「官治・集権型」の地方自治を「自治・分権型」に転換するよう提唱し、まちづくりや情報公開、環境アセスメント、政策評価などの動きを後押ししてこられた。北海道に移ってからも、1990年から16年間にわたって職員や市民が地方自治の在り方を学ぶ「北海道土曜講座」を開いてきた。5月17日、その森氏に電話で話を聞いた。

   森氏の答えは明快だった。

「今の日本で問われているのは、自治体は、住民の命と暮らしを守るために、何を根拠に、どこまで施策を打ち出していいのか、という問題だ。私は、その根拠はあるし、独自の施策を打ち出していい、むしろやるべきという考えだ」

   森氏はその「根拠」を二つ挙げた。第一は、橋本政権下の1996年12月6日の衆院予算委員会で、当時の大森政輔・内閣法制局長官が、菅直人議員に対して答えた内容だ。大森長官は「行政権は、内閣に属する」という憲法第65条の意味について、「行政権は原則として内閣に属する。逆に言いますと、地方公共団体に属する行政執行権を除いた意味における行政の主体は、最高行政機関としての内閣である」と答弁した。森氏は、この答弁によって、従来は上下の関係にあるとされた中央政府と自治体が、横に補完し合う関係として認められた、と指摘する。

   第二の根拠は、2000年に施行された「地方分権一括法」だ。これによって、国の機関委任事務は廃止され、国と地方自治体は法的にも上下関係ではなく、対等・協力の関係に切り替わった、と森氏は言う。もちろん、財源が乏しく、実質的には中央政府の力が圧倒的に強いのが現実だ。国の方針に盾突けば、国から、しっぺ返しをされる恐れもある。

   しかし、今回のように国の対応が後手に回り、行政の責任者が緊急事態宣言の基準を明確に示せない場合は、北海道のように独自に宣言を発したり、大阪府のように独自のモデルを示したりすることは、やってもよいし、やるべきだ、と森氏は言う。

「自治体によっては、国からの指示待ちが習い性になっているところもある。しかし、命と暮らしを守る緊急事態の場合は、憲法8章の地方自治の本旨に即して責任と義務を果たすべきだろう。国レベルの全国基準を尊重する必要はあるが、地域には独自の事情や条件、環境がある。都道府県、市町村それぞれが、地元の大学と連携し、専門家や有識者と相談しながら、きめ細かな実効ある基準を打ち出して競い合い、感染防止に役立ててほしい」

   コロナ禍は、この国にとって、あるいは「民主主義の危機」と、「民主主義の新たな可能性」の分岐点になるかもしれない。3人の話を伺って、そう思った。

ジャーナリスト 外岡秀俊




●外岡秀俊プロフィール
そとおか・ひでとし ジャーナリスト、北大公共政策大学院(HOPS)公共政策学研究センター上席研究員
1953年生まれ。東京大学法学部在学中に石川啄木をテーマにした『北帰行』(河出書房新社)で文藝賞を受賞。77年、朝日新聞社に入社、ニューヨーク特派員、編集委員、ヨーロッパ総局長などを経て、東京本社編集局長。同社を退職後は震災報道と沖縄報道を主な守備範囲として取材・執筆活動を展開。『地震と社会』『アジアへ』『傍観者からの手紙』(ともにみすず書房)『3・11複合被災』(岩波新書)、『震災と原発 国家の過ち』(朝日新書)などのジャーナリストとしての著書のほかに、中原清一郎のペンネームで小説『カノン』『人の昏れ方』(ともに河出書房新社)なども発表している。

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