2020年 6月 4日 (木)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(5)
3人の識者に聞く「民主主義の危機と地方分権の希望」

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上田文雄・前札幌市長「議会ないがしろの風潮が危うい」

   実際に首長を経験した人は、コロナ禍における自治体の在り方をどう見ているのか。5月12日、3期にわたって札幌市長を務めた上田文雄弁護士に会って話を聞いた。

   今回の改正特措法による非常事態宣言では、国が大きな「基本的対処方針」を決め、実際には知事が要請・指示の権限を担う。その前提で、上田氏は、「地方自治が独自色を出すのは好ましい傾向だが、それは政府が十分な情報提供をせず、あまりにだらしがないことの裏返しではないか」という。

   上田氏が市長時代に真っ先に心がけていたのは「市民自治」の原則だ。そのためには情報公開はもとより、情報を迅速に提供し、市民と共有し、熟議を徹底して市民参加を促すことが必要だ。

   そうした「市民自治」の視点でみると、今回の危機にあたって政権は、政策決定のプロセスを公開し、多様な意見を出し合うというシステムの構築には程遠いのが現状だ。

「専門家会議の議論も、それをきちんと公開し、政権外の専門家に批判の場を保障することで、初めて市民が判断できる。現状では、権威による言いっ放しの情報提供にとどまり、マスコミもそれを垂れ流すだけに終わっている」

   住民に「安全安心」を保障する自治体にとっても、科学的知見に依拠して政策を決める場合には、その知見を様々な角度から検証したうえで市民にわかりやすく説明し、納得してもらうことが大切だ。期限が限られる緊急時だからこそ、「これをやれ」というのではなく、丁寧さや根気強い説得が必要になる。

   さらに上田氏は、首長が脚光を浴びる反面、それぞれの議会の存在感が希薄なことに注意を促す。たとえば神奈川県大和市では4月16日、感染拡大を防ぐために、市民にマスク着用を求める「市おもいやりマスク条例」を制定したが、これは議会の議決を経ない専決処分だった。

   大和市の条例は強制力のない「理念」条例で、先決処分にした理由は定かではない。ただ、地方自治法は、緊急時には議会の議決がなくとも専決処分を出すことを認めているが、これはあくまで例外措置であるべきだ、と上田氏はいう。

「住民の安全を守るために、その行動や権利を制限することがやむを得ない場合にも、要請や指示の必要性や、求める施策が妥当な範囲に留まっているかどうか、チェックする必要がある。その意味で、緊急時に議会をないがしろにする風潮が広がるのは危うい」

   上田氏は、今年1月末、「道警ヤジ排除事件」をめぐる国家賠償訴訟の第1回口頭弁論に際し、弁護団長として意見陳述で次のように述べた。これは2019年7月、参院選挙運動中に札幌を訪れた安倍首相にヤジを飛ばしたとして市民が道警に排除された事件を指す。

「だれかに向かって話し、共鳴したり批判したりすることは、社会的な『表現の自由』のみならず、自分の思想や内心を豊かにするという点で、『内心の自由』にも繋がっている」

   権力は、人々を説得し、その批判にさらされることで初めて施策を実行できる。それが民主主義の原則であるべきだ。しかし、「自粛」によって批判の場が失われ、「内心の自由」さえ奪われるようになれば、権力に対する抵抗力が弱まり、権力の専横を招くことになる。「危機における民主主義」の原則を見失えば、「民主主義の危機」になりかねない。上田氏はそう警告する。

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