2024年 4月 27日 (土)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(14) 世界第3の感染者数インドにみる「経済再開」と「防止策」

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   インドの新型コロナの感染者が2020年7月17日、百万人を越えた。百万人突破は米、ブラジルに次いで3番目だ。3月下旬、全土に「世界最大の都市封鎖(ロックダウン)」を発動したインドで、なぜ今になって感染が急拡大したのか。「経済活動再開」と「感染防止策」の両立は、かくも難しい。

  •      (マンガ:山井教雄)
         (マンガ:山井教雄)
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世界最大のロックダウンを実施したが

   インドのモディ首相は3月24日午後8時からテレビに出演し、緊張した面持ちで全国民に呼びかけた。首相は、その2日前から実施していた「日中14時間の外出自粛」への協力に感謝したあと、さらなる措置が必要だと訴えた。

    「ソーシャル・ディスタンシングだけが、このパンデミックに打ち勝つ選択肢だ。今夜零時をもって、全インドは完全な都市封鎖に入る。友よ、国民よ、21日間、家に留まってほしい。この21日間は死活的だ。もしこの21日を踏みとどまることができなければ、この国やあなた方の家族は21年前に逆戻りし、多くの家族は永遠に破壊されるだろう」

   両手の身振りを交えながら、白髪白髯のモディ首相はそう熱弁をふるった。演説では、「ともかく、家の境界を越えないでほしい」と繰り返し、古代叙事詩「ラーマーヤナ」に出てくる「結界」を引き合いに、「その先に出れば、コロナという災いが待ち受けている」と警告した。

   もちろん、モディ首相はその演説で、必需品の供給は確保するといい、都市封鎖で経済的な打撃を受ける困窮者には、小麦などの優先割り当てをすると言及したが、実施は演説開始からわずか4時間後のことだ。世界第2の人口大国にいる13億人は、こうして厳格なロックダウン下に置かれることになった。

   3月24日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、モディ首相の演説後にインド内務省はロックダウンに伴う「ガイドライン」を出し、詳細を明らかにした。それによると、国防、警察、財務など主要機関を除く全公館や役所、公園、学校、寺院などが閉鎖される。医療機関やメディア、インターネットに関わる業種も例外とする。さらに空路、鉄路、道路も閉鎖され、必需品の運搬や消防、警察、治安などだけが通行を許される。

   国民の暮らしにかかわる分野では、食料品店、薬局、ガソリンスタンド、銀行や、食品など必需品の配達も認められる。しかしそれ以外のレストランや店舗などは閉鎖になる。また、葬儀では参列者が20人未満に制限される。こうした措置に違反すれば、2005年の災害管理法に基づき、最大2年間の懲役が科せられるという。

   フランスなどと比べても、きわめて厳格なロックダウンであったことがわかる。

   その後、インド政府は、3度にわたって都市封鎖を延長した。在インド日本大使館のサイトによると、経過は次のようなものだ。

   1)4月14日付(この日の感染者1万363人、死者339人)5月3日までの延長を発表

   2)5月2日付(感染者3万7336人、死者1218人)5月4日から2週間の延長を発表

   3)5月19日(感染者10万1139人、死者3万1636人)5月31日までの延長を発表。ロックダウンに関する新たなガイドラインを示す。引き続き国内・国際線航空、メトロ鉄道サービスは停止。教育機関の閉鎖,映画館やモールなども営業停止。午後7時~午前7時までの原則外出禁止。自動車やバスなどの移動は一定の制限の下で許可。

   ところが、こうした厳しいロックダウンの延長ののち、インド政府は5月30日になって、突然段階的な緩和の方向に舵を切った。制限緩和は次のようなものだ。ちなみに、この2日後の時点で感染者は19万535人、死者は5394人だった。

   政府はこの日、封鎖ゾーンを除いて,今後ロックダウン措置を段階的に解除する方針を示し、解除に向けた新たなガイドラインを出した。それによると、ホテル,レストラン,ショッピング・モールは6月8日から営業を再開できる。州間や州内の人や物資の移動も制限がなくなる。他方,ガイドラインでは,州政府が独自に特定の活動を禁止・制限することもできるとしており、6月1日にデリー準州政府は,ホテルやレストランの営業を引き続き禁止し,モールなども閉鎖を継続すると発表した。

   「段階的解除」が、感染の広がりに応じて「まだら模様」になるのは、どこの国でも同じだ。問題は、この時点での「段階的解除」が適切かどうか、という点にある。それぞれの時点での感染者数、死者数に今一度注意を払っていただきたい。

   政府が3度目の延長を決めた時点で、感染者数はすでに最初に感染が広がった中国を上回る規模になっていた。それは、「段階的な解除」を決めた2日後には、倍近くにまで膨れ上がっていた。つまり、感染の抑え込みに目途が立ったから解除に舵を切ったのではなく、まだ勢いが衰えないのを知りつつも、方針転換せざるを得なかったと考えるのが適当だろう。

   その背景に何があったのだろう。

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