2024年 4月 26日 (金)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(20) 日本は「グローバル対話」の促進者に

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「グローバル・ファシリテーター」とは

   では、その協調に当たって、日本ができることは何か。ここ数年、東さんは、「グローバル・ファシリテーター」こそが、日本の役割だろうと唱えてきた。

   「ファシリテーター」とは「促進者」の意味で、一般には国際会議やシンポジウムなどの場で対話を活発化し、中立的な立場で進行役を果たす人々を指す。

   東さんはこれまで、アフガニスタンや南スーダン、イエメン、シリアなどの紛争地を頻繁に訪れ、各紛争当事者の言葉に耳を傾け、それを和平合意や停戦合意後の平和構築に活かす取り組みを続けてきた。そうした経験を通して気がついたのは、戦後一度も海外で自衛隊員が人を殺したことがない特異な日本の立場だった。中東やアフリカ、アフガニスタンなどでは、すでに日本が、武力で紛争に介入したり、紛争の当事者になったりしたことがないことは、広く知れ渡っている。そうした中立的な立場で紛争当事者各派の意見を聞こうとすれば、素直に心を開いてくれることが多かった、という。

「これは、平和国家として、75年にわたって武力を行使せず、紛争地の復興や難民支援にあたってきた日本の歴史的な資産だと思う。そうした立場を活かせば、グローバルな危機に当たって、利害が対立する各国の対話の『促進者』にもなれると思います」

   もともと旧社会主義の国だったロシアや中国と、人権や民主主義を基盤とする米国などでは、価値観の対立がある。さらにその米国も、民主党政権では多国間協調に傾き、共和党政権では「多国間協調は国益に沿わない」という方向に傾くなど、政権による振れ幅が大きい。さらに米国は、どの政権においても紛争に介入してきた過去があり、「国際協調」を唱えても、すぐには聞き入れてもらえない限界も抱えている。

   自由や人権、民主主義などで米国と共通の価値観に立ち、日米協調と共に、欧州連合(EU)などとマルチの外交・通商交渉でも努力を重ねてきた日本は、いずれに対しても、ものを言いやすい立場にある、と東さんは言う。実際、日本はかつてカンボジア和平において独自の役割を果たし、今も南スーダンの和平に向けて地道な努力重ねている数少ない国だ。

   旧ソ連や米国の介入によって紛争が泥沼化したアフガニスタンでも、「ペシャワール会」で灌漑活動を進めた故・中村哲さんらの尽力によって、日本には絶大な信頼が寄せられていることを、東さんは肌で感じてきた。

   紛争地域における調停者としての役割について、政府の一部の人からは、「失敗した時に、税金の無駄になってしまう」という消極的な意見もあった。ただ東さんの考えるファシリテーターは、紛争当事者の間に入って調停を行い、双方に調停案を説得するイメージではないという。むしろ、紛争当事者が継続的に対話を行うことで、当事者自身が解決策を探していく、そんな対話のプロセスを支援する役割だ。

「もともとファシリテーターは合意という結果を残せなくても、『対話』によってそれぞれの立場を相互理解し、協調点を見いだせれば、それだけでも成果といえる。対話のプロセスそのものが大事で、結果が出せなくても感謝され、信頼される。もし政府が『ファシリテーター』を国家戦略として位置付けるなら、外務省に限らず、防衛・農水・厚労・文科など、各省庁の現場でできることはいくらでもあるはずです」

   「ファシリテーター」としてかかる費用は、人件費や旅費、会合の場所提供や警備など、インフラにかけるよりも、ずっと安い。

「トランプ政権は温室効果ガスの排出規制を決めた『パリ協定』や、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの離脱を決めた。日本はその間、多国間の枠組みを維持しようと努めてきた。そうした多国間の枠組み重視の姿勢は、各国からも評価されていると思う」

   そう語ったうえで、コロナ禍における日本の役割について、東さんはこう提案する。

「コロナ禍についていえば、日本がヨーロッパの国々などと協力しながら、将来ワクチンができた場合にそれを世界全体に速やかに普及させたり、有効な治療薬を共有したりする体制づくりを行うべく、対話を促進していく役割を果たすことはできるはず」

   米国と中国の関係悪化が続く中、まさに日本が主導的な役割を果たす気概を持つべきだと東さんは強調する。

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