岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち バーの客も怒鳴り合う大統領選討論会の夜

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公的医療保険、コロナ、経済......

   目の前のテレビ画面に、米中西部オハイオ州の会場にトランプ大統領とバイデン前副大統領が現れる様子が映し出された。

   公的医療保険についてバイデン氏が、「トランプには何のプランもない」と攻撃したのに対し、トランプ氏が「オバマケアは保険料が高すぎる。ひどい制度だ」とやり返すと、ジョナサンが大声で、「オバマケアのせいで毎年、800〜1200ドルも罰金を払わされることになったんだ 」と怒りを露わにした。

   すると、後ろのテーブルにいた、このバーの店員で黒人男性のエイサー(35)が、「オバマケアで誰もが医療保険に加入できるようになったのは、当時、バイデンが副大統領だったからだ」と反論。ここでも、激しい言い合いが始まった。

   2014年にオバマケアが施行されると、医療保険の加入が義務付けられ、2016年までに無保険者の割合は半減した一方で、無保険者には罰金が課され、その額は年々急騰していった。

   討論中、質問に答えようとしないバイデン氏にトランプ氏が横槍を入れると、バイデン氏が「おい、黙れよ!(Will you shut up, man?)」と言い放ち、バーで見ていた人たちが一斉に笑った。

   「shut up」はかなりきつい表現で、私も高校時代に初めて渡米した時、「うるさい」と言う程度の気持ちでこの表現を使い、ホストマザーに厳しく叱られたことがある。

   バイデン氏がトランプ氏について「この道化師、いや、この人(this clown, I mean, this person)」と言い直した時にも、笑いが起きた。

   後ろのテーブルにいた男性4人のうち、3人はバイデン、1人はトランプ支持だった。脇のテーブルでは、韓国系やフィリピン系の男性たちが、終始、静かにテレビ画面を見つめていた。

   バイデン氏がトランプ氏のコロナ対応を批判すると、トランプ支持のポールが立ち上がってテレビ画面を指しながら、「それはこの国の責任か? チャイナだろ! チャイナ!」と怒鳴り散らした。

   「うるさい! 黙れ!」とジョナサン。

   すると、後ろのテーブルから誰かが、「マスクをしろ!」と画面のトランプ氏に向かって叫んだ。

   経済は「V字型」の回復を見せているとのトランプ氏の主張に、後ろのテーブルにすわっていたメキシコ系アメリカ人(44)が声を上げる。

「違う! 白人至上主義だ! 黒人やヒスパニック系にこんなに失業者がいるじゃないか! 消え失せろ! 株価が戻ったからって、みんなが株を持てるわけじゃない。経済とは関係ない!」

   彼の話を聞くために近くに移動すると、「でも実際、俺は株で大儲けしたんだ」と私の耳元でささやき、笑った。

   さらに、トランプ氏が2016年度と2017年度の連邦所得税を750ドル(約8万円)しか払っていないと報道されたことに話題が移り、トランプ支持のポールが大声で叫んだ。

「そんなことをやってのけるなんて、トランプは天才だな。税金なんて払いたいやつ、いないだろ」
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