2020年 11月 24日 (火)

「消費者保護に名を借りた悪法」出版業界が「消費税総額表示」に反発する理由と、財務省の見解

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   消費税の「総額表示」が話題だ。商品の販売やサービスの提供を行う課税事業者は、取引価格を表示する際に、原則として外税ではなく、消費税額を含めた総額(税込み価格)を表示しなければならない。しかし2度にわたる消費税率の引上げに際し、値札の貼り替えなどの事務負担に配慮する観点から、特例として、2021年3月31日までの間、「現に表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置」を講じていれば税込価格を表示することを要しないこととされている。この期間がもうすぐ終了することを受けて、SNS上では総額表示義務の免除を望む声が高まっている。

   総額表示義務に反対する声は、日本チェーンストア協会など小売業からもあがっているが、特に注目されているのが出版業界だ。きっかけとなったのは、ツイッター上のハッシュタグ運動「#出版物の総額表示義務化に反対します」が広まったことだ。

   出版物は商品としての寿命が長いため、総額表示義務が課せられると、消費税率の変動ごとに対応する必要があることから、コスト増によって絶版となる作品もあるのではと指摘されている。

  • ツイッター上のハッシュタグ運動「#出版物の総額表示義務化に反対します」が広まった
    ツイッター上のハッシュタグ運動「#出版物の総額表示義務化に反対します」が広まった
  • 消費者庁による「令和2年9月物価モニター調査結果(速報) 」より
    消費者庁による「令和2年9月物価モニター調査結果(速報) 」より
  • ツイッター上のハッシュタグ運動「#出版物の総額表示義務化に反対します」が広まった
  • 消費者庁による「令和2年9月物価モニター調査結果(速報) 」より

「各現場に手間や負担を強いるのは愚策以外の何物でもない」

   出版業界などの情報を伝える文化通信社が2020年9月14日、出版物においても総額表示の義務が課されることがほぼ確定したと報じたことを受けて、SNS上の作家や編集者たちは「#出版物の総額表示義務化に反対します」を用いてツイートを行った。すると、書店や中小規模の出版社もこのハッシュタグ運動に参入し、広まっていった。

   このハッシュタグ運動の解説動画をYouTube上に投稿した晶文社は、J-CASTニュースの取材に対して、メールでこう述べる。

「願わくば法の改正、最低でも特措法の期間延長を御願いしたい」(社長室・川崎俊さん)

   晶文社編集部の安藤聡さんはYouTubeの動画内で、本が長期間店頭に並ぶ商品であることを訴え、外税表示を守る方向で議論をしていく必要があるのではないかと述べる。総額表示義務が課されていると、消費税率が変動するたびに価格転嫁対応に追われることになる。しかし外税表示であれば、これらのコストがかからないとしている。

   業界団体からも、出版物への総額表示義務の免除を求める声が上がっている。中小出版社で構成された一般社団法人「日本出版者協議会(出版協)」は2020年9月23日、公式サイト上に「消費税総額表示義務の特例の『無期限延長』、『外税表示』許容の恒久化を強く要望する」を掲示した。「定価 〇〇円+税」などのいわゆる「外税表示」の許容を求めている。同協会は、J-CASTニュースの取材に対しては、こう述べる。

「そもそも、価格表示のしかたを国が一律に統制しようとすること自体に無理があると思います。総額表示義務は、消費者保護に名を借りた悪法でしかありません。まして現在のコロナ禍で、出版はじめ多くの産業が打撃を受け、小売の現場がさまざまな対応に追われているなか、総額表記の義務化により各現場に手間や負担を強いるのは愚策以外の何物でもないと考えます」

   日本書籍出版協会(書協)と日本雑誌協会(雑協)も、J-CASTニュースの取材に対し連名で回答。総額表示義務の免除が終了することを受けて、19年から財務省・国税庁と協議を行っていると明かした。

「財務省に対しては昨年末から総額表示義務免除の延長の要望を続けています。要望書という形で改めて提出するかは未定です」

   書協と雑協はかつて、財務大臣に対して総額表示義務の免除を求める要望書を提出している。

消費税と出版業界、総額表示をめぐる30年

   消費税が導入された1989年、メーカーが小売価格を決める「再販商品」である出版物は、公正取引委員会の指導や、書店や取次からの希望で、総額表示に対応した。しかしこの対応には膨大なコストがかかってしまい、絶版や廃版となる書籍も現れた。(2020年9月16日J-CASTニュース配信、「『#出版物の総額表示義務化に反対します』作家・編集者から危惧相次ぐ理由」)このような事態を避けるため1997年、消費税が5%に上がる際には外税表示を採用した。

   しかし2004年に改正消費税法が成立し、総額表示は出版物に限らず、法的に義務化された。書協・雑協含む出版業界4団体はこれに先立ち2003年、財務大臣に対し「消費税の価格表示に関する要望書」を提出。しかしこの要望は通らず、当時の税率(5%)を含めた総額表示を、なんらかの形で行うことが必要となった。

   それから10年後、再び税率が変動することになった。今回は、2014年4月から19年10月にかけて、消費税が段階的に2回引き上げられることを考慮し、引き上げ後1年半は総額表示義務を免除の特例が定められた(平成25年法律第41号「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」)。しかし21年4月からは、特例期間が終わり、再び総額表示が義務化される。そのために、現在の税率(10%)を反映した総額を表示しなければならない。

2004年と現在では、異なる事情も...

   書協・雑協は現在、2004年の総額表示義務化は、1989年の消費税導入時と比べると、流通上大きな混乱はなかったと振り返る。書籍自体でなく、スリップ上部の丸い突出部分「ボウズ」に総額表示を行うことで、コストを抑えた対応ができたためである。しかし現在は2004年当時と異なり、スリップが用いられなくなってきているという。そのために、スリップを復活させるか、総額表示用のしおりを設けるか、帯を印刷し直すなどの対応で、各社のコスト負担が発生するだろうという見通しを語った。

   出版協は、中小出版社にとってスリップの印刷や挟み込みは大きな負担であるとして、すでに書店店頭に出回っている既刊本まで含めて厳格に適用されれば、対応はほぼ不可能だとしている。

「少量多品種のロングテール商品を持つ中小出版社にとって、スリップ(現在はスリップレス化が進んでいるため、総額表記用の新たなしおり等)の印刷、挟み込み、在庫管理など大きな負担になります。
 仮にスリップ『ボーズ』等への総額表示で対応するにしても、今後さらに消費税が変更されれば、市場にある既刊在庫は間違った総額を表記したものとなりますので、市場に無用な混乱を生じさせますし、出版社も入れ換えのための負担を繰り返すことになります」

   出版協によれば、出版協(当時は流対協=出版流通対策協議会)の会員社や中小出版社の多くは、総額表示が義務化された2004年以降も外税表示を行っているが、それでも大きな混乱はなかったという。(総額表示義務を行わなかった場合、罰則などは存在しないが、場合によっては行政指導が入る可能性がある。)

「結果として外税表記は、流通段階、特に消費者と向き合う書店でも大きな混乱等はなく受け入れられました。この状態が、2013年の『消費税転嫁対策特別措置法』で追認された形になりました。『消費税転嫁対策特別措置法』施行後の消費税率の8%、10%への引き上げを通して、外税表示は主流になっています」

   書協と雑協も、総額表示義務の免除の特例が導入された2013年から外税表示を行っているが、読者や消費者の間にも浸透しているという見方を示している。

外税表示は主流? 消費者庁の調査結果

   そこでJ-CASTニュースは、財務省に電話で取材を行った。財務省主税局の担当者は、消費者は総額表示を望んでいるのではないか、という見方を示す。これの根拠となるのが、消費者庁が実施している「物価モニター」である。最新の「令和2年9月物価モニター調査結果(速報)」を参照すると、「あなたが最も分かりやすいと思う表示は、上記のいずれでしょうか」という問いには、30.5%もの人が「税込価格のみ」を選択していている。何らかの形で税込み価格の表示を求める声は、90%を超えるとしている。

2020年9月16日に発表された「令和2年9月物価モニター調査結果(速報)」
2020年9月16日に発表された「令和2年9月物価モニター調査結果(速報)」

   また財務省の担当者は、特例終了後も外税表示を禁じるものではないと説明する。外税表示に加えて、総額表示を行っていれば問題ないとし、現在多くの出版社が行っているスリップでの対応だけでなく、シールやしおりでの対応も可能で、何らかの形で総額が消費者に対して提示することを要請している。詳細については、書協や出版協のガイドラインといった業界内の解説などが詳しいとしながらも、表示方法などの不明点があれば相談に応じると述べた。

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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