2020年 10月 27日 (火)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 「コロンブスの日」めぐる祝意と抗議の現場

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   「ああやって警官が始終、あのくそコロンブスの像を子守りしてるから、何もできやしない」――(抗議デモのリーダー)。ニューヨーク市では警官が毎日24時間、市内にある複数のコロンブス像を見守っている。

   1492年にイタリア人探検家クリストファー・コロンバスがカリブ海の島に上陸した10月12日を記念する「コロンブスの日」を前に、トランプ大統領は「国民がこの日を祝うべき」との宣言文を発表した。今回のこの連載では、私が見た今年の「コロンブスの日」を、コロンブスを巡る全米の動きとともに伝える。

  • 警察が24時間見守る「コロンバス・サークル」中央にそびえるコロンブス像(2020年10月、ニューヨークで筆者撮影)
    警察が24時間見守る「コロンバス・サークル」中央にそびえるコロンブス像(2020年10月、ニューヨークで筆者撮影)
  • 警察が24時間見守る「コロンバス・サークル」中央にそびえるコロンブス像(2020年10月、ニューヨークで筆者撮影)

「今日は 先住民の日)」

   2020年のその日は、朝から冷たい雨が降っていた。ニューヨークの「コロンバス・サークル」で抗議運動があると知って私が駆けつけると、25メートルほどの高さにそびえ立つコロンブス像の周辺を、大型車を含むパトカー16台がぐるりと囲み、普段よりさらに厳重な警備体制が敷かれていた。

   抗議デモの多くは市の許可を取らずに行われるが、警官は常に情報を入手し、事前に待機している。

   雨風が強かったこともあり、ほとんどの警官は車内に待機していたが、実際に数えてみると、約90人。そのすぐそばにある「トランプ・インターナショナル・ホテル」の前後には、少なくともパトカー10台が待機していた。

   5月以降、黒人男性の白人警官による死亡事件を機に、人種差別抗議デモが大きなうねりを見せると、全米各地でコロンブス像の破壊が相次いだ。中西部ミネソタ州セントポールでは台座から引きずり下ろされ、南部バージニア州リッチモンドなどでは水の中に投げ込まれた。東部マサチューセッツ州ボストンでは、コロンブス像の頭部が切り落とされた。市が自ら、像を撤去したところもある。

   トランプ氏は6月、像や記念碑を損壊・撤去する行為に禁錮刑を科す大統領令に署名した。また、地方の法機関や警察がこうした暴力を看過した場合、連邦政府の補助金を停止するとした。

   しばらくすると、抗議デモの参加者が集まり始めた。これまでも彼らは大人数で自転車に乗り、デモを繰り広げている。20代の若者が多い中で、60代くらいの白人男性クレッグに声をかけた。

「今日は 『Indigenous People's Day(先住民の日)』だから、ここに来たんだよ。白人が侵略し、先住民の虐殺を始めた日だ。子供の頃、コロンブスは僕の英雄だった。でも数十年前に、彼と一緒に航海に出た人の記録を読み、彼らがいかに残虐に先住民を抑圧し、虐殺したかを知って、大きなショックを受けたよ」

   20代の女性は母親が黒人で、父親がアメリカ・インディアンのルーツを持つエクアドル出身だった。

   「『学校の歴史の授業でコロンブスについて教えていることは、間違っている』と両親に言われて育った」と話す。

13州はこの日を祝わず

   私たち日本人の多くも長年、「アメリカ大陸を発見」したと教えられてきたコロンブス。彼がアメリカ大陸周辺諸島に到達したことは、ヨーロッパ側から見れば「新世界発見」だったことから、そう語られてきた。

   彼にちなんで名付けられた都市や道、公園などが、全米に数多くある。私が大学時代に留学したのは、中西部オハイオ州コロンバスのすぐそば。南西部ジョージア州コロンバスにも、長く滞在したことがある。私が今これを書いているのは、ニューヨーク市コロンバス・アベニューから1ブロックの場所だ。

   「コロンブスの日」は、1937年に連邦政府公式の祝日となり、その後、10月第2月曜日に変更された。全米で大規模なパレードが行われるが、今年は新型コロナウイルス感染防止のために中止となったところが多い。

   コロンブス到着以前のはるか昔から、アメリカ大陸には先住民族が住んでいた。それを「発見」と表現するのは、ヨーロッパを視点としたものだ。しかも、住民以外でアメリカ大陸を最初に訪れたのは、コロンバスではないとされている。また彼はこれをアジアだと勘違いしたうえ、大陸本土の存在に気づかなかったばかりか、上陸もしていない。

   コロンブスはカリブ諸島で先住民を弾圧し、大虐殺を指揮した。十分な黄金を差し出さない場合には、手首を斬り落としたとも言われる。奴隷商人だった彼は、大陸でも奴隷を売買した。

   今では「コロンブスの日」の代わりに、「先住民の日」を祝う州や都市が増えている。サウスダコタ、アラスカ、アイダホなど少なくとも13州では、「コロンブスの日」を祝っていない。コロンブスを自分たちの「遺産」と見なすイタリア系アメリカ人の多くは、こうした動きに反発している。

   イタリア系アメリカ人のアントニオ(64)は、「負の遺産もわかるが、コロンブスの功績があるから、今のアメリカがある。コロンブス像は、僕らイタリア系移民の遺産や貢献の証でもあるんだ」と、近年の動きを嘆く。

   「名誉あるイタリア系やイタリア人」は他にもいるとの議論は、前々からあった。

   ニューヨークでは今年のこの日、1889年にイタリアから米国に渡り、移民や貧しい人たちのために奉仕した聖フランチェスカ・ザベリオ・カブリーニ修道女の像の除幕式が行われた。

「警官が始終、あのくそコロンブスを子守りしてる」

   デモ参加者たちは激しい雨と風の中、1時間ほど待ったが、悪天候のせいだろう、最終的に集まったのは30人弱だった。リーダーのオーランド(28)によれば、彼らのデモに反対するデモも予定されていたが、悪天候のためか、現れなかった。

   オーランドが皆に呼びかける。

「ああやって警官が始終、あのくそコロンブスを子守りしてるから、ここじゃ何もできやしない。今日は50人集まれば、予定どおり自転車のデモ行進をしようと思っていたけれど、この人数では危ない。危ないというのは、雨だけが理由じゃない。
警察はすでにバンを用意している。僕らがやっているのは、長い戦いだ。逮捕されたら、明日のデモに参加できなくなる。だから、逮捕は避けたい。今日は自転車デモは中止にして、代わりに黒人やヒスパニックが経営する店で、みんなで飲み食いするっていうのはどうだろうか。彼らを支援する方法は、デモだけじゃない」

と呼びかけた。

   普段のデモでは、数多くの自転車で車道を占拠し、正義を訴えながら行進していく。自転車を使うようになったのは、コロナ感染予防のために公共の交通機関が閉鎖したのがきっかけだった。デモに反対する勢力や警察から、自転車を盾に身を守ることもできるし、逮捕されそうになった時に逃げ切ることもできるという。

   オーランドはもともとシェフだったが、コロナの影響で失業。今は「抗議活動が自分の使命」だという。カリスマ性のある彼の眼差しとほほ笑みは、優しさを感じさせる。彼が先導し、一堂は雨の中を自転車で消えていった。

大統領が「公の建物では星条旗を掲げるように」

   10月9日、トランプ大統領は1934年の法令に従い、国民に対して宣言文を発。ツイートで、「コロンブスの日」をきちんと祝い、「公の建物では星条旗を掲げるように」と呼びかけた。

   また、「近年、過激派らがコロンブスの遺産を傷つけようとしていることは嘆かわしい」と訴えた。

   宣言文に対して、賛否両論のコメントが多数、寄せられた。その中に、興味深い動画があった。実際に起きたことではなく、創作したものかもしれない。

   車の運転席に座る男性に「この車を盗まれたと通報があった」と警官らしき人が伝える。

「盗んだだって? 発見したんだ。誰もいなくて、この車は俺が発見したから、俺のものだ。今日は何の日だ?」

   警官らしき人が答える。「コロンブスの日だ」

   コロンブスの「新世界発見」を皮肉っているのだろう。

   オハイオ州コロンバスでは、市が像を撤去した。市の名前を変更する提案も、なされている。

   同州にある大学で私がお世話になり、今もコロンバスの近くに住む元教授は、「一連のコロンブス騒動」をどう捉えているのか知りたくて、電話してみた。

   彼女はいつも、「トランプはジョークだ」と言っている人だ。

「すべてがばかげている。あんなに乱暴なやり方で像を撤去する方も、それにムキになって反対する方も。過去のことを今の事情に照らし合わせて批判し、像を撤去することに、どんな意味があるの? ほとんどの人は、像のことなんか、どうでもいいと思っているわ」

   私が「像を街中から撤去して、史実を添えて博物館に設置すべき、という意見もありますけれど」と聞いた。

「博物館にコロンブス像を展示? それこそ滑稽だわ。アメリカ人のやることなすこと、すべてがいかにばかげているかを書いて、日本の人たちに教えてあげてちょうだい」

   そう、答えが返ってきた。(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

   
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