2024年 4月 24日 (水)

20代官僚9人が「働き方改革」に乗り出した きっかけは河野氏...省庁越えた「ミライの霞ヶ関」への思い

   省庁の垣根を越えた官僚有志が「霞ヶ関の働き方改革」に乗り出す。集まった9人は全員20代、入省1~3年目と若い。「若手が考えるミライの霞ヶ関プロジェクト」の名で2020年11月、活動を開始したこのグループ。「霞ヶ関をもっと良い政策づくりの場にしたい」という思いが根幹にある。

   立ち上げの決め手となったのは、河野太郎行政改革担当相の就任だったという。プロジェクト発足の経緯、具体的な活動、そこにかける思いを聞いた。(なお、記事で紹介するプロジェクトメンバーの発言は、あくまで個人的な意見であり、所属組織を代表するものではない。)

  • 河野太郎行政改革担当相に提言した「若手が考えるミライの霞が関プロジェクト」のメンバー
    河野太郎行政改革担当相に提言した「若手が考えるミライの霞が関プロジェクト」のメンバー
  • 河野太郎行政改革担当相に提言した「若手が考えるミライの霞が関プロジェクト」のメンバー

「問題だと思いつつ変わらなかった慣習や制度が変わりつつある」

「集まったメンバーは、『霞ヶ関をもっと良い政策を作れる場所にできないか』という問題意識を持っていました。世の中をより良くしたい思いで行政官を志したのに、今は果たせていないのではないかというもどかしさがあります」

   プロジェクトメンバーの1人、経済産業省に入って3年目の上田悠久(はるか)さん(26)が11月27日、J-CASTニュースの取材にそう話した。

   「若手が考えるミライの霞が関プロジェクト」は、立ち上げとともにツイッター(@miraigaseki)を開設して情報発信を続けている。「note」でも11月19日、プロジェクトへの思いなどを3000字超にわたって投稿。ここでその全文は紹介しないが、「政策をつくる現場にいる私たちと皆さんの距離をもっと近づけて、たくさんある社会課題を本当に解決できるようになっていきたい」「そのために、霞が関の『人と組織の改革』を進めて、様々な業種の方とこれからの日本について、立場を超えて一緒に作っていきたい」といった未来の霞ヶ関像を詳細に書いている。

   プロジェクト立ち上げのきっかけは、9月に発足した菅義偉内閣で、河野行革担当相が就任したことだった。

「河野大臣は就任してすぐ、『青枠』や『こより綴じ』の廃止を決めました。これは閣議決定の文書に用いられるもので、印刷用紙に青い枠があって、印刷される文字とこの青枠との間隔が厳密に決められていました。印刷して2~3ミリずれたら、もう文書として受け付けてもらえません。50部ほどの文書を1ミリ単位で正確に印刷しなければならず、定規で測って、アウトだったら刷り直すという作業をしていました。

印刷した文書は、紙ができるだけ傷つかないよう『こより』で穴を開けて紐でとじるという作業もしていました。こうした作業は『機械で穴開けできるのになぜこよりなんだ』と疑問に思った職員もいました。

河野大臣の就任を機に、1つ1つは小さいことですが、問題だと思いつつ変わらなかった慣習や制度が変わりつつあると思いました。そこで私と同期の職員との間で、今回のプロジェクト発足の議論が盛り上がり、関心ある若手職員に声をかけて集まりました」(上田さん)

   メンバーは経産省のほか、厚生労働省、総務省、環境省などに身を置く9人。活動は業務外に個人として行い、所属組織での業務とは切り離している。

働き方改革に向けた「業務の『見える化』」

   省庁をより良い政策作りの場にしていくため、まず着手しているのが「働き方改革」。それ自体は省庁単位で進んでいるが、省庁によって進展に差がある。プロジェクトを通じ、省庁横断で働き方改革をしたい考えだ。

   働き方改革を重視する理由は、「入省以来『バックオフィス業務が多い』と思っていました」と、日々の業務で感じていた疑問が発端となっている。

「試行的に1~3年目の若手職員に10月、業務に関するアンケート調査を実施しました。すると、全体で見ても1週間のうち6割の時間をバックオフィス業務に使っていたことが分かりました。その多くは総括業務と庶務業務が占め、直接の政策立案につながらない業務が多くなっていました。

もっとテクノロジーを活用し、省力化できる業務が多いのではないかと思いました。なぜこんなに長時間労働しているんだろうと漠然と思っていましたが、実態が見えてきました」(上田さん)

   アンケートを取った職員は、残業時間も上半期平均で1か月89時間。ピークの5月は103時間だったという。新型コロナウイルスの対応に追われ、朝8時に始業して深夜2時ごろまで働くケースもあった。コロナ対応をきっかけに、省庁におけるデジタル化の遅れを痛感したメンバーもいたという。

   ただ、回答者は若手職員13人。今後はまず省庁全体で正確な実態を把握するため、広範な労働実態調査を行うべきだと考えている。

「業務を『見える化』するのが大事だと思います。今回のアンケートは入省1~3年目でしたが、範囲を広げ、職種・階級別に業務ごとの所要時間を把握することが必要不可欠と思っています。

調査の方法も工夫する余地があります。今回私たちは、協力してくれる方々に手書きで30分ごとにどんな業務をしたのか記録してもらいました。詳細な行動記録を調べるには限界がありました。民間企業では、働く方の後ろにストップウォッチを持った調査員が待機し、何に何分かかったかを細かく記録する方法も取られています。そうした手法を用いることも検討すべきと思っています」(上田さん)

   「見える化」ができたら、次は「業務の整理」をしたい考え。(1)必要性の低い業務=廃止(2)必要性は高いが、職員以外でもできる業務=タスクシフト(3)必要性は高く、職員が行うべき業務=省力化――という整理だ。

   (1)の例としては官邸での会議資料、国会答弁者の手持ち資料のペーパーレス化、(2)は定型業務の外部委託、雇用条件向上による事務処理能力の高い人材の採用、(3)はフォーマット化やクラウド化による発注・提出作業の効率化、などをそれぞれ挙げる。

河野氏「今、霞ヶ関の多くの若手のグループから意見や提案を伺っている」

   プロジェクトはすでに次の動きを始めている。11月19日、前出の未来の霞ヶ関像や、政策立案・実行に集中できる時間を捻出するための働き方改革、そのための労働実態調査などについて、実際に河野氏に提言した。

   河野氏も霞ヶ関の働き方改革に前向きだ。11月18日のブログでは、20代の国家公務員総合職(いわゆるキャリア官僚)の自己都合退職者が、19年度は13年度(21人)から4倍以上にあたる87人に増えたことへ危機感を示した。「国家公務員の働き方改革を進め、霞ヶ関をホワイト化して、優秀な人材が今後とも霞ヶ関に来てくれるような努力をしっかりと続けていきます」としていた。

   河野氏は11月24日の会見でも、霞ヶ関の若手の退職に対する問題意識を問われ、「長時間労働」と「仕事のやりがい欠如」を指摘。「特に若手に関しては、志を持って入ってくれたにもかかわらず、国に関する実務というよりは様々なロジ業務になってしまっているところがあろうかと思います。長時間労働については今、在庁時間の確認をしています。とりあえず10~11月と思っていますが、必要とあれば続けていくことも考えなければいけない。まず見える化を進めながら、必要な措置をとっていきたいと思っています」と方針を示し、こう述べていた。

「仕事のやりがいにつきましては、今、霞ヶ関の多くの若手のグループから意見や提案を伺っているところです。聞いてみると、確かにそんなことまでやらなければいけないのかというものがございますので、そういうものはまず1つずつ、つぶせるものはしっかりつぶし込んでいきたいと思っています」

   上田さんは、若手の辞職が増えている現状に「悔しさはあります。社会をよりよくしていきたいと思った志ある方、優秀な先輩方が去っていく。それを見るのは私個人としても悲しかったし、日本のためにも勿体ないと思います」と表情を曇らせる。それだけに、先の河野氏の発言を受け、

「私たちの提言の趣旨が伝わったのだろうと思いました。労働実態調査は働き方改革の第一歩です。河野大臣の検討状況を注視しながら、私たちは自分たちの省庁でできることに取り組んでいきたいです」

と手応えを感じている。

「独りよがりにならない」という姿勢

   プロジェクトは働き方改革以外にも、官民交流の拡大、データ分析の充実、人材の多様化、行政が持つデータの利活用促進、中長期的に政策を企画立案する専門組織を各層ごとに設置、といった「未来志向の組織づくり」に向けた施策を検討している。20~30代の若手を集めた勉強会なども実施したい考えで、さらには「SNSで勉強会の成果などを発信し、広く議論できるオープンな場づくりを企画しています」という。

   前出のnoteでは、政策立案に際して「独りよがりにならない」という言葉が何度か登場する。そこにはメンバー自身の経験にもとづく思いも反映されている。

「私は学生のころから現場の方々の思いを大事にした行政官になりたいと思っていました。大学のフィールドスタディ型プログラムで、自治体と組んで地域の課題解決に取り組んだことがあります。私は地域の当事者ではないので、住民の方々に普段困っていることや感じていることを直接聞いて回りました。

群馬県南牧(なんもく)村という高齢化率日本一の村では、救急車を呼んでも30分かかる。自分たちの車で病院に行こうとしても、付き添いの方も70歳を超えていることも多い。高齢化していったらどうしていけばいいのか分からない――。そんな話を聞いて、初めて課題に対して住民の方々と同じような認識を持てると感じました。解決策を考え、実行するにも現場の声を聞かないと、机上の空論で動きません。

もちろん、こうした経験がそのまま国の仕事に活用できるわけではありませんが、霞ヶ関は閉じるのではなくオープンに、民間企業やNPO法人など現場のいろいろな声を聞きながら、ニーズに沿った政策を作りたいと思うようになりました」(上田さん)

   別のメンバー、環境省に入省して2年目で現在内閣官房の成長戦略会議事務局に出向している古市真里奈さん(27)も、取材に対し、こんな思いを明かす。

「環境省は『霞ヶ関のベンチャー』と言われることも多いです。政策も、温暖化対策など1人1人の行動を変えていかないと解決できない課題を多く扱っています。官だけの考えを伝えるのでなく、国民の皆様に働きかけるやり方をするべきだと、入省して身をもって感じていました。だから『独りよがり』にならないように、自分たちが考えていることを等身大に感じてもらいながら、一緒に議論して考えていきたいという思いがあります」

   前出のnoteも、こんな言葉で締めくくられている。「この活動に興味を持ってくださった方は、ぜひTwitterのDMにて、ご連絡いただけると嬉しいです。『ミライ』をつくっていく一員として、ぜひ皆で一緒に議論していきましょう!」。若手の挑戦が始まっている。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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