2024年 4月 25日 (木)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(29) 米国はバイデン政権下で分断を克服できるか

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ポピュリズムは産業基盤転換期に台頭しやすい

   古矢さんによると、このように産業基盤が転換する時期、政治的には「ポピュリズム」が生まれやすい。実際、ポピュリズムという言葉自体、1890年代の米国で農民運動の中から生まれた新語だったという。

   19世紀末の米国のポピュリズムも、トランプ現象に伴うポピュリズムも、共通に二つの側面を併せ持つ社会運動である。その一つは、衰退の危機に直面した人びとの不満や憤懣に訴えるデマゴーギーという側面である。社会の中軸を担ってきたという主流意識を持つ衰退階層の不満は、自らの衰退を招いた原因としてスケープゴートや陰謀の存在を求める社会心理を生みがちである。19世紀末の農民運動にはメイソンやユダヤ人が秘密の国際組織によって権力を握っているという陰謀論がつきまとったし、現在のトランプ大統領支持者の間に広がった陰謀論「Qアノン」もその変種で、トランプ大統領を陥れようとする「ディープ・ステート」の存在が、広く信じられるにいたっている。

   ポピュリズムの二つめの側面は、より建設的に経済的苦境の打開を政治制度の改変や国家介入の拡大によって成し遂げようとする方向である。

   1890年代の農民運動は、鉄道や倉庫の国有化を求めたり、倉庫を農民の結成する協同組合のネットワークが所有し運営する方向を模索したりする建設的社会運動でもあった。こうした改革運動から、1901年にはアメリカ社会党も生まれている。つまり、陰謀やデマの一方で、こうした社会主義的、共同体的・コモン・ウエルズ的な流れを生むのが当時のポピュリズムのもう一つの側面だった。

   実はこの二つはその後も、ヤヌスのように、ポピュリズムの二つの顔となってくる、と古矢さんはいう。

   2016年には予備選挙でトランプ氏が3千万票を取ったが、民主党の予備選でもサンダース候補が3千万票を獲得した。

   「陰謀論」を振りまくトランプ陣営と、「民主社会主義者」を自称するサンダースの陣営とは一見正反対に見えるが、ポピュリズムの歴史的な出自を振り返れば、その双面神の二つの顔とみるのが自然だ。

「サンダース現象は、左に大きく舵を切って、政治によって格差社会を変えるしかない、と訴え、マイノリティや若い世代をひきつけた。結果的に前回はそれがクリントン候補との激しい対立を生み、民主党の分裂からトランプ氏の勝利につながった。しかし、この流れは今も民主党内では健在で、サンダース議員だけでなく、エリザベス・ウォーレン、アレクサンドリア・オシオ=コルテスらがマイノリティや若い世代の女性たちをひきつけている。バイデン次期大統領は、この勢力とも折り合っていかねばならないでしょう」

   だがサンダースやウォーレンらによるラディカルな社会変革に成算はあるのだろうか。古矢さんは、19世紀末との大きな違いを指摘する。

   「当時は労働者も無産化し、抑圧された労働者による労働組合運動も盛んになっていった。今のアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL・CIO)の前身も生まれつつあった。つまり、労働運動は上り坂であり、資本に対抗する労農提携の基盤があったことになる。しかし、今日ではネオリベラリズムとグローバル化の進んだ過去40年間に労組が壊滅的に衰退し、金融資本に対する強固な労農提携など望むべくもない。

   それでは、例えば今回の大統領選で活発化した「ブラック・ライブズ・マター(BLM)]運動のような人種差別や格差を超える動きは、その連帯の基盤とはならないだろうか。古矢さんは、それは日本で想像する以上に難しいだろうという。

「自分を何者かと規定するアイデンティティ・ポリテックスを経済的な再分配の運動と結びつけるのは容易ではない。白人中産階級には白人の誇りがあり、だから『多文化主義やポリティカル・コレクトネス』の時代、自分たちこそが、ないがしろにされ差別されている、と考えがちだ。BLM運動の担い手たちが、ラストベルトの白人労働者たちと暮らしが厳しくなるという経済的共通項をとおして彼らと連帯しようとしても、互いのアイデンティティが邪魔をして他を排除する傾向は克服できないであろう。むしろ白人労働者は、今人種的デマゴーグに惹かれがちなのである」
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