2024年 4月 23日 (火)

厚労省「学徒動員」説は本当か 看護系大学に派遣を要望...「という趣旨ではない」

   新型コロナウイルス感染拡大による医療体制の逼迫を受け、厚生労働省が看護系の大学に、看護師免許をもつ大学院生や教員を医療機関などへ「派遣するよう要請(要望)」していると2021年1月5日に報じられ、インターネット上で「学徒動員か」などといった声があがっている。

   だが、厚労省の担当者は取材に、「『派遣を要望』という趣旨ではない。看護師免許を持つ大学院生や教員が医療機関での勤務を希望した場合、勤務できるように大学側へ配慮をお願いしたもの」と説明する。同省の「お願い」とは、どのようなものだったのか。

  • 厚生労働省が入る庁舎
    厚生労働省が入る庁舎
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ツイッターでは「学徒動員」がトレンドワードに

   5日にNHKなどが伝えたところでは、厚労省は全国の看護系の大学約280校に対し、看護師免許をもつ大学院生や教員を医療現場に「派遣」するよう要望。新型コロナウイルス感染症患者を受け入れている医療機関などが対象で、都道府県が指定した「ナースセンター」で登録を受けると調整される。賃金は当該の医療機関や都道府県が支払うという。

   「大学院生」の現場への「派遣」という報道で、ツイッターでは「学徒動員」がトレンドワードに。「もはや学徒動員じゃん」「学徒動員来たか」「現場経験がなかったり現場から遠ざかってたら即戦力とはならないだろうに」などと揶揄する声があがっている。

   一方、一般社団法人日本看護系大学協議会のウェブサイトには、「看護系大学院」について、

「看護系大学院では、看護師・保健師・助産師として働くなかで感じた疑問や課題を解決するために、必要な研究・実践・教育・管理能力を習得するためのプログラムが多数用意されています」
「大学院へ進学するタイミングについては、基本的に大学卒業後いつでも可能です。ただし、多くの大学院では、受験時に看護師・保健師・助産師として働いた経験が求められる場合もあります」

と説明がある。報じられているのは看護師免許をもっている大学院生・教員という点から、こうしたツイッター上の声に疑義を呈する反応もある。

「『派遣を要望した』という趣旨のものではありません。看護師免許を持つ大学院生や教員の方が医療機関での勤務を希望した場合、勤務できるように大学側へ配慮をお願いしたものです。もちろん(院生を医療機関に勤務させることを)強制できるものでもありません。大学院で学ぶ志の高い方が、学業と両立可能な形で医療機関の支援ができるなら、ご活躍いただければと呼びかけました」

   一連の報道について、厚労省医政局看護課の担当者は5日、J-CASTニュースの取材にそう話す。ネットで「学徒動員」などと言われていることについても「そこまでのものでは...」と困惑する。

日本看護系大学協議会に「お取り計らいくださいますよう」

   同省が出した「お願い」とは、会員約287校をもつ前出・日本看護系大学協議会への事務連絡。20年12月25日付で、医療機関への支援の協力を依頼した。同事務連絡では、「今後もクラスター発生などにより通常の診療体制の維持が困難となり、全国的に看護職員への支援が必要となることが想定されます」とし、次のように呼びかけている。

「看護系大学には、看護師等の免許を有する教員や大学院生等(以下『看護教員等』という。)が多く在籍されており、これまでも医療機関等で看護教員等の皆様には支援をいただいておりますが、感染拡大地域が広がりつつある中で、最前線で対処する看護職員の負担が増している状況であることから、更なる支援をお願いできればと存じます。そのため、貴会に所属している看護系大学に向け、医療機関等での支援の依頼について、お取り計らいくださいますよう、お願い申し上げます。

なお、医療機関等での支援にご協力していただける場合については、各都道府県看護協会や都道府県ナースセンターにおいて、新型コロナウイルス感染症対応のための人材確保の登録を受け付けておりますので、ご活用をお願いいたします」

「看護大学院生や教員に派遣等協力を依頼予定」

   前出の担当者によると、事務連絡の元になっているのは、田村憲久厚労相が20年12月25日の会見で報告した「感染拡大に伴う入院患者増加に対応するための医療提供体制パッケージ」。一般医療を確保しつつ新型コロナ感染患者への医療体制を拡充するため、「入院受入医療機関への緊急支援」「確保病床の最大限の活用」など6項目をまとめた。

   その第4項目に「人材確保」がある。このうち「看護師等の医療従事者派遣の支援」では、医療機関から重点医療機関へ医師・看護師などを派遣する場合の補助金引き上げや、潜在看護師の復職支援などを列挙。最後に、

「そのほか、日本看護系大学協議会に看護大学院生や教員に派遣等協力を依頼予定」

とあり、先の事務連絡をするに至ったという。

「人材確保のために色々やっていく中の1つとして(看護系大学協議会に)協力を呼びかけました。ここ(大学院生)だけ取り出されて注目されてしまうと、メッセージとしては間違って伝わってしまうかと思います。もちろんこれだけで人材確保しようとしているわけではありません」(前出・厚労省担当者)

「少し誤解を招いたかもしれない」

   とはいえ、「パッケージ」には「派遣等協力を依頼予定」と、「派遣」の文字が使われている。前出の担当者は次のように話した。

「派遣という場合は本来派遣元と派遣先があるので、今回の場合あまり正しくない。大学が大学院生を派遣できるわけではありません。(『派遣』という言葉は)少し誤解を招いたかもしれない。

看護系の大学院には、現場経験をしたうえで、専門性を磨きたいという方が多いと思います。そうした院生の中には、勤務していた医療機関を休業するような形で、雇用を切らずに大学院に通っている場合もあります。その場合、もともと勤務していた医療機関から関連医療機関への派遣ということもあり得ます」

   協力の呼びかけをしたのは、「あくまで看護師免許をもつ大学院生です。医療現場で新型コロナ感染患者に接する業務であれば、現場経験がなければ難しいでしょう。病院の一般病棟に大学院生が入り、玉突きで(在職の)看護師がコロナ対応に当たるということもあるでしょう」としている。また、「明示的に体制が逼迫している施設にはあげていませんが、宿泊療養ホテルなども、勤務先として排除はしていません」と話す。

   勤務する医療機関を探すにあたっては、「どこに相談すればいいか分からない場合などはナースセンターを活用してもいいですし、医療機関の求人に直接応募することなどもできます」としている。賃金は、原則的に勤務先の医療機関が支払うが、場合によっては公的な補助金も活用できるという。

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