2021年 4月 12日 (月)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
フェンスと兵士に囲まれたワシントンに怒る市民

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   米議事堂乱入事件の翌日(2021年1月7日)、黒人差別などに抗議する人たちの「聖地」とも言えるホワイト・ハウス前の「ブラック・ライブズ・マター・プラザ」では、「BLACK LIVES MATTER」の大旗が悠々とはためいていた。

   フェンスの反対側では、トランプ支持者の女性3人が祈りを捧げている。しばらくすると、高齢の男性が「TRUMP」の大旗を手にやってきて、反トランプ派の男性と穏やかに意見を交わし始めた。

  • ワシントンにある議事堂前のフェンスに供えられたバラ。その傍らでフェンスにしがみつき、嘆き悲しむ女性(2021年1月、筆者撮影)
    ワシントンにある議事堂前のフェンスに供えられたバラ。その傍らでフェンスにしがみつき、嘆き悲しむ女性(2021年1月、筆者撮影)
  • ワシントンにある議事堂前のフェンスに供えられたバラ。その傍らでフェンスにしがみつき、嘆き悲しむ女性(2021年1月、筆者撮影)

「こんなワシントンを見たことがない」

   そこへトランプ支持や星条旗の大旗を翻した車の列が現れ、「Thank you, President Trump(ありがとう、トランプ大統領)」「God bless America(アメリカに神の御加護がありますように」などと放送する声と延々と続くクラクションの音が静寂を破った。

   通りがかった若者が、車の列に向かって罵声を浴びせた。

   事件の翌日から、議会議事堂周辺を中心に高さ2メートルほどのフェンスやブロックが設置され、警官や州兵が日に日に増えている。全米から集まったトランプ支持者たちが、自分たちの住む町へ次々と帰り姿を消すと、ワシントンは再び民主党支持者が圧倒的に多いブルーの街へと戻っていった。今回の大統領選で、トランプ大統領に投票した人は、5%にも満たない。

   議事堂の東側に広がる住宅街で出会った40代の男性は、「僕はこのすぐそばに住んでいる。あいつらのせいで、ここがフェンスと兵士に囲まれ、戦場のようだ。こんなワシントンをこれまで見たことがない。この街からとっとと出ていけ」と怒りを露わにした。

「どのニュースを見ているかによって、住む世界が違ってしまう」

   友人と2人で散歩していた50代の女性は、「暴力的な事件が起きるのは、わかっていた」と言う。

「これまでも、トランプ支持者がこの街に集まるたびに、暴力沙汰が起きていた。私はこの4年間で何十回とBLM(ブラック・ライブズ・マター)などの抗議デモに参加したけれど、私たちは暴力的なんかじゃないわ。ANTIFA(アンティファ、人種差別などに激しく抗議する集団)は、そのうちのごく一部で、どうしても必要であれば、暴力的になることもあるという程度よ」

   私が「最初に暴力的な行動に出るのは、極右の方なんですね」と尋ねると、「まぁ、事はそんなに単純なわけじゃないけれどね」と答え、「暴力的なのは極右で、共和党支持者が皆、そうだと言っているわけじゃないのよ」と断った。

   女性は続ける。

「今回、市長も市民に『外に出ないように、そして彼らに対する抗議デモもしないように』と警告していたのよ。私も食料や飲み物を買い込んで、外出しなくて済むように準備していた。BLMの運動家やANTIFAも、おとなしくしていたわ。
   私たちが望む大統領が、勝利したのだから。でも、あの人たちは、それを認めなかった。議事堂の中に乱入するなんて、そんなことは想像もしなかったし、理解に苦しむわ。怒りと悲しみでいっぱいよ。今回、大規模抗議集会に参加し、行進した人たち全員が、暴力を支持したとは言わないけれど、その責任は全員にあると思うわ」

   議会議事堂の写真を撮っていた30代くらいの男性は、事件後、この辺りがどうなっているか知りたくてやってきたという。

「あの惨事を引き起こした人たちは、自分たちの考えが正しいと信じて疑わない。僕たちがニュースから受ける影響は、とても大きい。どのニュースを見ているかによって、住む世界がまったく違ってしまう。彼らと僕たちとでは、世界がまったく異なってしまったんだ」

事件で亡くなった警察官の写真

   議事堂前(西側)の広場の一角には、今回の事件で亡くなったブライアン・D・シックニック巡査(42)の何枚もの写真飾られ、数多くの星条旗と花が添えられていた。

   その場にいた50代くらいの女性は、「あんな美しい建物なのに。ひどいことを。何の敬意も見られない。あの像がまさに語っているわ」と言って、目の前の「平和記念碑(The Peace Monument)」の頂上を指さした。

   この碑は、南北戦争における海軍の死傷者を悼むもので、頂上に立つ「悲しみ(Grief)という名の女性が顔を覆い、「歴史(History)という名の女性の肩を借りて、泣いている。

   そこから数メートル離れた場所で、20、30代くらいの男女6人が座り込み、大きな色紙にマジックで「D.C.=OUR HOME(ワシントンは私たちの故郷)」「SAY NO TO AMERICAN FASCISM(アメリカのファシズムにノーと声をあげよ)」などと書いていた。

   夫の仕事で何年か日本で暮らした経験があるという女性マルギトは、夫と一緒にその場にいた。

   彼女は今回の事件に触れ、「議事堂であんなことが起きるなんて。何かせずにいられなかったの。議事堂のすぐそばについ先日まで美しく飾られたクリスマスツリーがあって、市民はみんな自由にそこで写真を撮ったりできたのよ」と、議事堂とクリスマスツリーを背景に夫と一緒に写っている写真を携帯で私に見せた。

   犬を連れて歩いていた男性が、議事堂前の柵に貼られた一枚の白い紙の前で足を止め、写真を撮り始めた。

   そこには「I♡DEMOCRACY」(注=♡はLOVEの意味のハートマーク)と書かれていた。

   皮肉にもあの日、トランプ支持者たちもよく口にしていた言葉が、「Democracy(民主主義)」だった。

   次回は1月18日に、バイデン次期大統領就任式(1月20日)直前の今も、「反トランプ」デモを続ける人たちを、ANTIFAのメンバーも含め、紹介する。

(次回に続く)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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