2024年 4月 24日 (水)

民放AMラジオ局、大半がFM転換目指すも3局「見送り」 メリット多数も「ジレンマ」に直面

   民放ラジオ局の厳しい経営環境を背景に、AMをやめてFMに移行する流れが本格化してきた。民放AMラジオ全47社でつくる「ワイドFM(FM補完放送)対応端末普及を目指す連絡会」が2021年6月15日に記者会見し、そのうち44社が「2028年秋までにFM局となること」を目指すと発表した。残る3社は、北海道放送(HBC、札幌市)、STVラジオ(同)、秋田放送(ABS、秋田市)。あえて今回の「FM局になる」宣言に乗らなかったのはなぜなのか。

  • AMラジオ全47社のうち44社が「2028年秋までにFM局となること」を目指す(写真は「ワイドFM(FM補完放送)対応端末普及を目指す連絡会」提供)
    AMラジオ全47社のうち44社が「2028年秋までにFM局となること」を目指す(写真は「ワイドFM(FM補完放送)対応端末普及を目指す連絡会」提供)
  • AMラジオ全47社のうち44社が「2028年秋までにFM局となること」を目指す(写真は「ワイドFM(FM補完放送)対応端末普及を目指す連絡会」提供)

2023年11月頃にAM停波の「実証実験」

   AM停波論が本格化することになったきっかけは、日本民間放送連盟(民放連)が19年3月に総務省に対して行った要望だ。要望では、ラジオの営業収入が右肩下がりなのに加えて、AMの大規模送信施設を、放送を続けたまま同じ敷地内で更新することは困難で、「民放ラジオ事業者の財政力で実施できる設備投資には、限界がある」と訴えた。すでにAM局が並行して行っている「ワイドFM」(FM補完放送)の制度を見直して「AM放送からFM放送への転換や両放送の併用を可能とするよう制度を整備する」ことを求めた。放送局の免許は5年ごとに更新される仕組みで、次回の更新は23年。民放連は23年までに、AMを一部地域で一時的に停止できる「実証実験」のための制度を整え、遅くとも28年までに「AM放送事業者の経営判断によって」AMからのFMへの一本化や、AMとFMの併用を全国的に可能にするように求めた。

   これを受ける形で、20年11月には総務省が実証実験の具体的な案を公表し、意見を募集(パブリックコメント)している。公表案によると、最初の実証実験は23年11月頃の見通しで、停波の時期は3か月~1年程度を想定。FMへの移行で「ある程度世帯・エリアカバー率が低下することはやむを得ない」とする一方で、世帯カバー率は、FMのみで放送を行っているラジオ局と同様の、約90%を満たすように求めている。

   「連絡会」の発表によると、47社中21社が実証実験への参加を表明。この21社のうち14社はAMの親局を停波し、残り7社は親局の送信を続けながら中継局のみ停波して参加する。

FMを「親局」として運用、AMを補完的に続ける選択肢も

   28年の免許更新時には、FM局を「親局」として運用する一方で、AMを停波せず補完的に続ける選択肢も残されている。連絡会の記者会見で登壇者からは

「AM停波に関しては、極めて重要な経営判断になるので、おそらく、『今のうちにいつ停波する』というようなことを決めきれている局はないと思う。おそらく、停波の予定時期の何年か前に最終判断するという形になる」(森谷和郎・ニッポン放送取締役)
「方向としては、『FMを放送ネットワークの中心に置いて、FM局になっていく』とお考えいただければ」(入江清彦・TBSラジオ取締役会長)

といった発言が相次ぎ、44社がどのような形で「FM局になる」かは流動的だ。現時点では、TBSラジオ、ニッポン放送、文化放送の在京3社が「早ければ、2028年秋の再免許時でのAM停波実現を目指す」としているほか、中国放送(RCC、広島市)は、今回の発表について

「このたびの宣言の趣旨の一つはワイドFMの普及促進にあり、弊社もこの宣言に名を連ねてワイドFMの認知拡大や受信機の一層の普及を進めてまいります」

などと説明する文書をウェブサイトに掲載。23年の実証実験には参加しないとして、

「少なくとも2025年秋まではAMが停波するエリアはありません」

としている。なお、NHKは20年8月に発表した21~23年度の経営計画で、2波あるAM放送を1波に減らす方針を示している。

パブコメで「カバー率低下やむなし」に賛同相次ぐ

   多くのAM局が懸念するのが、実証実験案に示されたカバーエリアの問題だ。AMの電波はFMよりも届く範囲が広い。そのため、AM並みのカバーエリアをFMで維持しようとすると多数の中継局を建設しなければならず、設備投資の負担が重くなる。

   実証実験案には56の放送事業者からパブリックコメントが寄せられ、そのうち16事業者が「『ある程度世帯・エリアカバー率が低下することはやむを得ない』との考え方に賛同」し、29事業者が「世帯カバー率について、地域ごとの地形的事情に応じた柔軟な対応を要望」した。例えば文化放送は、

「AM電波とFM 電波の伝搬特性の違いから、AM放送のエリアの全てをFM放送でカバーするためには相当数の中継局の置局が必要になるものと考えられ、現状のAMラジオ事業者の経営状態に鑑みると、現実的に厳しい状況です」

と訴えている。

   北海道と秋田の3社が、現時点で「FM局になる」宣言への参加を見送っているのは、この「中継局」問題が関係している。特に北海道はカバーエリアが広大でハードルが高い。北海道のFM専業局、エフエム北海道(AIR-G'、札幌市)は、札幌市の手稲山の親局以外に、旭川や函館など道内10か所に中継局を設置して約90%の世帯カバー率を実現している。それでも、HBCとSTVがAMの中継局を置いている稚内や根室はカバーできていない。両社が現時点で運用しているFMの送信所は手稲山のみ。仮にFM転換しようとすればAIR-G'並みの設備投資が求められることになる上、それでもAMと比べてサービスエリアが狭くなる可能性が高い。両社は札幌以外にFM送信所を設置する計画について「現時点では全く未定」と口をそろえる。

   秋田のABSは、総務省が掲げる世帯カバー率90%に向けた「ロードマップが描けない」と話し、設備投資のための経営体力の問題を挙げている。現時点でABSが運用するFM局は、秋田市の大森山公園にある親局のみ。28年までにカバー率を90%に上げられる程度に中継局を設置できる見通しが立たないため、「(今回の宣言に)参加しないという経営判断」をしたという。

   さらに、今回の宣言に参加することになると、他局と協力しながらワイドFMに対応した端末の普及活動にも参加することになる。だが、ABSのリスナーからすれば「対応端末を宣伝しておきながら、FM化はしないのか」といった事態になりかねない。こういった事情も、参加見送りの判断を後押しした。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)

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