2024年 4月 18日 (木)

パラアスリートに「なんでこういう体なの?」 幼い子供の一言に、身体障害の当事者が感じたこと

   東京パラリンピックは大熱戦のうちに幕を閉じた。この盛り上がりは、今後のパラスポーツ人気、ひいてはダイバーシティ推進に繋がるきっかけになるだろうか。

   20歳の時に左手以外の手足3本を事故で失い、現在は仕事をしながらYouTubeやSNSなどで障害に関する情報発信もしている山田千紘さん(29)は、パラリンピックをめぐり、身近な人との間で「嬉しい出来事」があったという。大会を通じて感じた世の中の変化について、山田さんが語る。

【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)

  • 山田千紘さんと、「KNOCK」総料理長・梶原政之さんの息子さん
    山田千紘さんと、「KNOCK」総料理長・梶原政之さんの息子さん
  • 山田千紘さん(右)と、「KNOCK」総料理長・梶原政之さん(左上)とその息子さん
    山田千紘さん(右)と、「KNOCK」総料理長・梶原政之さん(左上)とその息子さん
  • 山田千紘さんと、「KNOCK」総料理長・梶原政之さんの息子さん
  • 山田千紘さん(右)と、「KNOCK」総料理長・梶原政之さん(左上)とその息子さん

友人同士で、会社内で、パラリンピックの話題に

   障害者がもっと見慣れた存在、当たり前にいる存在の世の中へ、変わるきっかけになってほしい。僕は東京パラリンピックに、開幕前からそんな期待をしていました。一方で、この大会を通して変わりそうになければ、もうずっとダメかもしれないという不安もありました。

   いざ蓋を開けたら、東京パラリンピックは想像を超える盛り上がりでした。自国開催に加え、メダルラッシュが続いたこともあり、過去の大会より遥かに多くの人がテレビの前で観戦していたと思います。

   パラリンピックで熱くなれた背景にはもちろん、選手たちの努力があります。1年延期、無観客開催で、コンディションやモチベーションを上げるのが難しかった中、素晴らしいパフォーマンスを発揮していました。パラリンピックに懸けてきた思いが伝わってくる。伝わってくるから、見た人が感動する。感動はメディアもキャッチし、メディアがさらに多くの人に伝えていく。そんな良いサイクルになっていたように思います。

   最終日、車いすバスケ男子の決勝・アメリカ戦は、手に汗握る熱戦でした。車いすバスケは僕もプレーしていた経験があって、選手たちのプレーに夢中になりました。立って行うバスケをしてきた僕の友達も、「車いすバスケはあまり見たことなかったけど超面白い」と話していました。会社でも「あの試合見た?」「ボッチャって奥が深いな」とか、パラリンピックの話をする人が多かったです。僕より熱中して観戦している人もいました。

パラリンピックでパラアスリートに興味を持った子供との出会い

   嬉しかった出来事があります。僕が好きな東京・六本木の「KNOCK」というイタリア料理店を先日訪れた時のことです。総料理長のカズさんこと梶原政之さんと元々親交があって、その日カズさんは休みだったけど、店に来てくれました。理由は幼い息子さんがパラリンピックを見て、パラアスリートに興味を持ったからでした。

   色々な競技を見る中で、「なんでこの人はこういう体なの?」とか色々と聞かれたそうです。そこでカズさんが、手足を3本なくした僕の話をしたら、息子さんが「会ってみたい」と言ったようで、その話を聞いて僕も「ぜひ会いたいです!」と即答しました。

   実際に会うと、その子は最初人見知りでした。でも遊んでいるうちにだんだん打ち解けて、僕が右腕でハイタッチをお願いしたらタッチしてくれました。「ここ、手と足がないんだよ」と僕の体の説明をしても不思議がらなくて、僕が話すと目を輝かせて聞いてくれました。帰り際に左手で抱っこして、一緒に写真を撮りました。

   小さい子供が障害に興味を持ってくれたことが本当に嬉しかったです。それも、障害というものを認知しただけではなく、受け入れていた。パラリンピックが子供に「多様性」について考えるきっかけを与えてくれたと、肌で感じた出来事でした。

障害者は当たり前に世の中にいる

   「ダイバーシティ」が叫ばれる世の中で、実際にパラスポーツへの認識、さらには障害者に対する認識に、前向きな変化が起きていると感じた東京パラリンピックでした。そして、大事なのはこれからです。

   パラリンピックの熱を冷まさないためにどうするかは、社会全体で考えていくことです。その中でも各メディアには、アスリートからの「バトン」を繋いでもらいたいなと思います。パラリンピック以外にもたくさんある、様々なパラ競技大会を取り上げてもらって、それを見たファンが試合会場に足を運ぶ。そうやって周りからパラスポーツを盛り立てる空気を作っていく。こういうことは、メディアだからこそできることです。

   僕もパラ陸上や車いすラグビーは何度も現地観戦してきました。やっぱり生で見ると、より興奮や感動があります。今は新型コロナウイルスの影響で現地に行くのは難しいかもしれませんが、少しでも多くの人に興味の熱が続いて、行動に移ってくれたらいいなと思います。東京パラリンピックからそうした動きに繋がっていくことで、ゆくゆくは健常者と障害者の間にある「壁」がなくなっていってほしいですね。

   世の中にはアスリートに限らず、僕みたいにサラリーマンとして生計を立てている障害者もいます。知り合いにも片足がない美容師や、車いすの税理士、いろんなフィールドで活躍している人が大勢います。障害者は当たり前に世の中にいる。多くの人が東京パラリンピックを機に、そういったことも知ってもらえたらいいなと思います。僕自身これからも、自分にできる範囲で障害についての情報発信を継続していきます。

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