2024年 4月 19日 (金)

トランプ信者とコロナ陰謀論者は似ている? 大統領選潜入の記者が感じた「極論の危うさ」

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   「今日、アメリカの民主主義が死んだ」――衝撃的なフレーズがプロローグに書かれている。「ユニクロ潜入一年」「潜入ルポamazon帝国」で知られるジャーナリストの横田増生さんの新著「トランプ信者潜入一年」だ。

   現地2021年1月6日に発生した、米連邦議会襲撃事件。以前からアメリカ大統領選挙を取材したいとの意欲を持っていた横田さんは2019年12月からトランプ陣営にボランティアとして潜入しながら大統領選挙を取材。その結果、連邦議会が襲撃されるという「民主主義の死」を現場で目にしたのだった。

   22年2月28日刊行の「トランプ信者潜入一年」は、その潜入取材の始まりから襲撃事件を目にするまでをまとめた書籍だ。J-CASTニュース編集部は、著者の横田さんに潜入取材の裏側、そして、アメリカの民主主義をどう感じたかについて聞いた。

(聞き手・構成/J-CASTニュース編集部 坂下朋永)

  • 「トランプ信者潜入一年」を上梓したジャーナリストの横田増生さん
    「トランプ信者潜入一年」を上梓したジャーナリストの横田増生さん
  • 現地時間2021年1月6日に発生した「連邦議事堂襲撃事件」の様子(写真:ZUMA Press/アフロ)
    現地時間2021年1月6日に発生した「連邦議事堂襲撃事件」の様子(写真:ZUMA Press/アフロ)
  • 「トランプ信者潜入一年」を上梓したジャーナリストの横田増生さん
  • 現地時間2021年1月6日に発生した「連邦議事堂襲撃事件」の様子(写真:ZUMA Press/アフロ)

目の当たりにしたのは、「熱狂」だった

   書籍は横田さんが2019年12月中旬にミシガン州内でアパートを借り、翌20年1月下旬に同州のランシングにある共和党の支部で、同党の大統領選挙のボランティアとしての登録を済ませるところから始まる。

   ジャーナリストとして5年間のビザを取得していたという横田さん。同書では、ビザでジャーナリストであることが明らかになるリスクを排除すべく、現地で運転免許証を取得するなど入念な準備をした上で取材を始めたことが明かされる。

   横田さんは、戸別訪問に参加するなど党員として活動しながら、当時、現職だったドナルド・トランプ大統領が共和党候補として党内をまとめるべく各地で行っていた支援者集会にも足を運んだ。そこで目の当たりにしたのは、トランプの支持者が熱狂する姿だったという。

――「トランプ信者潜入一年」の1章に書いてありましたが、横田さんが参加した支援者集会のうち、最初に参加したのはオハイオ州のトレドで行われた支援者集会だったんですね。会場内の雰囲気はどんな感じでしたか。

横田:まさに、「熱狂」でした。加えて、選挙ですから「敵がいる」という要素が加わるので、その熱狂はさらに強いものとなります。会場内には「Sleepy Joe!」(寝惚けたバイデン)のように、ジョー・バイデン大統領を揶揄する声が上がっていました。

――「熱狂」というのは、具体的にはどんな感じでしょう。何かに例えられたりしますか?

横田:会場内はさながら「コンサート会場」だったとでも言えば良いでしょうか。とにかく、「支持者たちが熱かった」です。

支援者集会の際にボランティアに配られたパス

――本のプロローグには、大統領選挙が終わった後の2021年1月6日に発生した連邦議事堂襲撃事件を目の当たりにして、「今日、アメリカの民主主義が死んだ」という衝撃的な言葉があります。民主主義の象徴である選挙の結果をトランプ信者が破壊しようとしたわけですが、取材開始時点ではここまでの惨劇を見てしまうと予想はしていたのでしょうか。

横田:襲撃事件が起こるとしたら、それは、トランプが負けない限り起こらなかったでしょうから、どちらが勝つか分からない取材開始時には、当然ながら全く予想してなかったですね。何せ、「連邦議事堂が襲撃される」なんて、前代未聞でしたからね。目撃する当日まで、全く想像できなかったです。

――今回の潜入取材を思い立ったきっかけをお教えください。

横田:以前からアメリカ大統領選挙は以前から取材したいと思っていたのと、トランプがどういう人物なのかということに強く関心を持っていたことですね。

「トランプ支持者」と「トランプ信者」の違いは?

   同書では戸別訪問で、そして、支援者集会で出会ったトランプ支持者に対し、横田さんがジャーナリストであることを伏せつつ取材を行っていく様子が描写されている。さまざまなバックグラウンドを持つ人に話を聞く中で明らかになったのは、潜入取材だからこそ触れられるトランプ支持者の本音だったと横田さんは語る。


2022年2月28日刊行の「トランプ信者潜入一年」

――1章「トランプ劇場に魅せられて」には、「トランプも興味深いのだが、トランプ支持者の話もそれ以上に面白い」という横田さんの感想が出て来ます。実際私も読んでいてそう思いました。

横田:何というか......「トランプに将来を託している」という感覚でしょうか。「トランプを支持すれば、素晴らしい世界がやって来る」という思いでしょうか。トランプ支持者が言う素晴らしい世界とは、「減税が実施される」「福祉に頼る人が減っていく」といった、人々が自助の精神を持つようになっていくという要素があるんですが、これらの論点をトランプは叶えてくれるという思いがあるように感じました。

――本に出てくる「トランプ支持者」と「トランプ信者」の違いについてお教えください。

横田:本を書く上で気を付けたのは、「トランプ支持者」は「大統領選挙においてトランプに投票した」という人のことです。一方、「トランプ信者」は「トランプに投票し、かつ、選挙後に『トランプは負けてない!』と主張した人」のことです。そういうわけで、「支持者の中に信者がいる」という構造です。なお、トランプ信者は負けを認めない際に「選挙が盗まれた!」という表現をよく使っていました。

中指を立てられて思った「潜入取材して良かった」

――本には戸別訪問中に2回、「中指を立てられた瞬間」があったと書かれています。

横田:1回目は相手の男性がかなり真剣な表情で怒りながらだったので、中指を立てられたことよりも、ガラス戸越しで至近距離のその怒りの表情に背筋が凍りました。日本で中指を立てるのはどこか冗談めかした雰囲気が拭えませんが、アメリカではケンカになっておかしくないサインですから、そうであるがゆえに怒りの真剣さに恐怖しました。

――なるほど......。

横田:2回目は戸別訪問すべく、「この家はまだ行ってないな」と思いつつ、その家の周りを歩いていたら、男性から窓越しに中指を立てられました。私はアメリカで大学生活も含めて5年生活しましたが、日常生活で中指を立てられたことはありませんでした。あと思ったのは、「私自身に中指を立てたのではなく、『トランプ陣営のボランティア』に対して中指を立てたのだろう」ということ。この2人とは会話はしていませんが、恐らく、民主党支持者だったんでしょう。

――でしょうね......。


中指を立てられた際にかぶっていたというトランプ陣営の帽子
横田:思ったのは、やはり、「潜入取材をして良かった」ということです。というのは、もし、ジャーナリストの身分を明かした上で取材をしていたら、中指を立てるなんていう「本音」に出会うことはなかったでしょう。やっぱり、ジャーナリストに対しては「書かれる」という前提を意識して本当の気持ちに「お化粧」をしてしまいますが、相手にその心配をさせなければ、本音が垣間見える瞬間に出会えるんですよ。

次の大統領選挙にトランプは立候補するのか

――エピローグとプロローグの両方で、横田さんは2020年の大統領選挙でアメリカの民主主義が危機に瀕したことを振り返っていらっしゃいます。また、プロローグでは併せて、「これは果たして、日本とは関係のない対岸の火事なのだろうか」としつつ、「日本において新型コロナをはじめとしたさまざまな論点において、いつしか極論が目立ち始めてはいまいか」との警鐘を鳴らしていますね。これは一体どういうことなんでしょうか。

横田:民主主義って、「話し合い」で成り立つものだと思うんです。で、「話し合い」って「歩み寄り」だと思うんですよ。となると、極論ばかりではそもそも歩み寄りができず、双方が「お前は敵だ!」と罵り合うだけの状況に陥ってしまいますからね。

――確かに。罵り合いは民主主義とは逆の行為ですよね。

横田:日本の政治家にも極論が好きな気質の方はいますし、そのような政治家の主張を喜ぶという有権者もまた存在します。そう考えると、日本でも極論ばかりがはびこるという展開もないとは言えないと思うんです。現に、2020年の大統領選挙では「票の集計の機械に不正があった」といった、およそ信じがたい主張が出て来たほか、日本ではコロナ以降に出現した「マスク警察」や、その反対の「ノーマスク集団」なんてのは、その萌芽にも思えます。

――極論が出ている時点で、日米の状況は似ているということでしょうか?

横田:そういうことです。アメリカではマスクの必要性やワクチンの必要性について極論が並び立つ中、トランプはコロナ流行が始まった直後は、「コロナの致死率はインフルエンザと大差ない」といった、これまたものすごい極論を主張し、その後、「パニックを起こしたくなかったからだ」とその極論を語った理由を説明しました。

これを見て、さすがにトランプ支持者の中でも、少しでも科学をかじったことがある人たちの間で不信感が広がったというのはあると思います。そういう意味では、コロナが「トランプがいかに危険な人物であるかを浮き彫りにした」ということはあるかもしれません。

――2024年の大統領選挙にトランプは立候補するんでしょうか。

横田:今の勢いのままなら、共和党内で再び大統領候補に指名されそうな感はあります。それはすなわち、トランプが三度、大統領選挙に立候補するということです。トランプ自身は出る気満々ですし、他の候補の人気は今のところ弱い。ただ、トランプは大統領選挙では2回連続で総得票数では過半数を得ていませんから、決して、「選挙に強い候補」とは言えません。一方のバイデン大統領ですが、現職ながら、あまり人気は高いとは言えないので、2024年の大統領選挙に向けて、事態は混沌としていると言えます。

――最後の質問になりますが、横田さんは2024年の大統領選挙に取材には行かれるんでしょうか。

横田:誰か行かせてくれるなら(笑) また、トランプが出馬するなら行きたいですね。私は連邦議事堂襲撃事件を見て、トランプの政治生命は終わったと思ったのですが、どうもそうではなかったようですからね。これは意外でした。なので、本人が立候補するなら、ぜひ行きたいですね。

横田増生さん プロフィール

よこた・ますお 1965年、福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学科で修士号を取得。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。2020年、「潜入ルポ amazon帝国」で第19回新潮ドキュメント賞を受賞。主な著書に、「仁義なき宅配」「ユニクロ潜入一年」など。

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