2024年 4月 19日 (金)

8か月の未納で失った「一生分の障害年金」 年97万円がゼロに...手足3本失った僕が直面した現実

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   事故で手足を3本失った山田千紘さん(30)は障害等級が最も重度な1級だが、「障害年金」を受給できていない。保険料の納付義務が生じる20歳になった後、定められた期間分を納付していなかったためだ。

   「もちろん僕に落ち度がある」という山田さん。代償は大きかった。障害基礎年金の受給額は年額約97万円。障害がある中で何かとお金はかかる。手足を失った絶望に加え、金銭面での不安ものしかかった。山田さんが当時を振り返り、その後前向きになるまでの気持ちの変化を語る。

   【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)

  • 山田千紘さん
    山田千紘さん
  • 山田千紘さん

病院に来て泣きながら話した母

   19歳の時に家庭の事情で大学を中退した後、半年ほどのアルバイト生活を経て、ケーブルテレビの会社に就職しました。20歳になってから8か月後のことです。その就職から2か月後、電車事故に遭って右手と両足を失い、障害者になりました。

   20歳になってから就職するまでの8か月間、僕は納めるべき国民年金の保険料を納付していませんでした。当時の僕は目の前の生活をするお金に余裕がなく、年金を軽視していたのかもしれません。国民年金は過去2年までなら後から納付できるということだったので、「正社員として働くようになってからまとめて納めよう」くらいに思っていました。

   ところが、いざ働き始めて2か月で交通事故に遭って、厳しい現実に直面しました。

   障害年金を受給するには、障害の原因になったケガの初診日前日から数えて2か月前までの被保険者期間のうち、3分の2以上の期間で保険料を納付するか、免除されるかしていないといけません。僕は20歳で被保険者になってから10か月の時に事故に遭ったので、8か月間のうち6か月分を納める必要がある計算になります。でも未納だったから、障害年金は受給できないということでした。

   僕は障害等級が最も重度な1級で、もし障害基礎年金を受給できた場合、現在の支給額は年に約97万円です。それが一生受給できません。20歳以上60歳未満なら年金保険料を納付しないといけないので、「20歳になったら払えよ」と言われたらその通りです。もちろん僕に落ち度がありました。

   とはいえ受給できないと知った時、ショックは大きかったです。受給できないことを年金事務所に聞いた母親が、病院に来て泣きながら僕に話したのをよく覚えています。リハビリを終えた後、自分でも年金事務所に行って、受給できないことをちゃんと説明してもらいました。

「働いて稼がないといけない」

   障害年金をずっと受けられないと考えた時、「手足3本をなくしたのに、両親にお金の面でも苦労をかけてしまうのか」という現実が突き付けられました。事故でどん底になっていたところから、少しずつ前向きになれていたタイミングで、また突き落とされるような現実でした。

   入院中、両親は毎日のように病院に来てくれました。病院のスタッフも楽しく接してくれました。それで逆に「僕はみんなに迷惑をかけるために生き残っちゃったのかな」と考えてしまって本当につらかったです。一番追い込まれた時は「死んだ方が良かった」と思っていました。

   でも、変えられない現実だからこそ「社会復帰しないといけない。働いて稼がないといけない」という思いが徐々に沸き上がりました。病院で寝ている場合じゃない。受給できない分まで稼げる人間になろうと。マイナスな現実だけど、プラスに解釈するしかありませんでした。

   手足を失い、障害年金も受給できない。そうしたショックから立ち直った時、自立を決意しました。人の手を借りず、自力で生活するし、お金も稼ぐんだと。

他人事ではなく自分事として考えてもらえたら

   入院生活はじめ、障害があることで色々なお金がかかってくる中で、障害年金があるかないかでは負担が全然違いました。受給できないことに弁解の余地はないけど、当時は障害者になることも想定していなかったし、障害年金の受給要件を調べておこうなどとは考えもしていなかったです。

   今はポジティブな力に変えて進んでいくことができています。僕がこうした経験をして思うのは、先のことは誰にも分からないということ。だからこそ備えは必要だと思いました。年金保険料の納付も、貯金もそう。若い時は将来の備えまであまり考えられないかもしれないし、僕の話も他人事だと思うかもしれない。障害年金をもらえなかったことを「自分が悪いじゃん」と思う人もいるでしょう。でも、いつどこで誰がどうなるかは分かりません。この話を通じて、備えについて自分事として考えてもらえたらいいなと思います。

(構成:J-CASTニュース編集部 青木正典)

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