2024年 4月 26日 (金)

コロナ禍&ウクライナ侵攻で「偽情報」深刻化 欧州にみるファクトチェックの協力関係

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   コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻で、誤情報や偽情報(いわゆる「フェイクニュース」)の問題が深刻化するなか、欧州ではファクトチェック団体間の協力の枠組みが本格化しつつある。欧州の約30のファクトチェック団体を束ねているのが、欧州大学院(EUI)を中心に2020年6月に発足したコンソーシアム「欧州デジタル観測所」(the European Digital Media Observatory= EDMO)だ。

   こういった枠組みが日本にも定着する可能性はあるのか。ジャーナリストの牧野洋氏が、ファクトチェックを支援する国内団体「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)と2022年12月6日に開いたオンラインセミナーで、現地情勢を紹介した。

  • 「欧州デジタル観測所」(the European Digital Media Observatory= EDMO)のような取り組みは日本でも可能なのか(写真はEDMOウェブサイト)
    「欧州デジタル観測所」(the European Digital Media Observatory= EDMO)のような取り組みは日本でも可能なのか(写真はEDMOウェブサイト)
  • 「欧州デジタル観測所」(the European Digital Media Observatory= EDMO)のような取り組みは日本でも可能なのか(写真はEDMOウェブサイト)

プラットフォーム事業者など34社・団体が署名

   オンラインセミナーでは、EDMO関係者が来日した際のインタビューや、EDMOの本拠地があるイタリア・フィレンツェの現地取材の結果を紹介した。

   EDMOが発足した発端は、EUの行政執行機関にあたる欧州委員会が18年12月に策定した偽情報対策の行動計画。(1)偽情報の検出(2)一致協力した対応策(3)プラッフォーム事業者との連携(4)市民へのエンパワーメント、の4つが柱だ。その中で「行動規範」が制定され、プラットフォーム事業者や広告関係団体が署名したが、コロナ禍で偽情報が爆発的に増加し、「行動規範は役に立たない」という批判が続出。偽情報対策に必要なコミットメント(署名した団体・企業=シグナトリーが行わなければならないこと)が網羅されていない上、行動規範の順守を監視する仕組みがなかったことなどが原因だと考えられている。

   このことを受け、欧州委員会は行動規範を改定する方針を決め、その実行部隊の役割を担ったのがEDMOだ。行動規範の改訂版は22年6月にEDMO総会で承認され、グーグル、メタ(フェイスブック)、ツイッターといったプラットフォーム事業者、ウェブサイトの信頼性を評価する機関「ニュースガード」、イタリアのファクトチェック団体「パジェラ・ポリティカ」など34社・団体が署名した。

約30のファクトチェック団体を束ねて検証記事を1700本以上出稿

   柱は大きく(1)偽情報を拡散させるサイトを非収益化(ディマネタイズ)させる(2)政治広告とそれ以外を区別しやすくする(3)なりすましやボット(自動投稿プログラム)に対する対策を強化する(4)ユーザーのメディアリテラシーを高める取り組みを行い、偽情報を認識させて信頼できる情報源へ誘導する(5)研究者がプラットフォーム事業者のデータにアクセスし、偽情報のメカニズムを解明できるようにする(6)欧州全域をファクトチェックの対象にし、プラットフォーム事業者に対してファクトチェックの利用拡大を促す(7)行動規範の実施状況を市民に知らせる(8)行動規範が順守されているかを監視するフレームワークを設ける、の8つ。44件のコミットメント、128件の対策が盛り込まれており、シグナトリーは半年以内にコミットメントを満たして対策を導入することが求められている。

   EDMOのミゲル・マデューロ会長によると、「ロシアには、ファクトチェック組織とされつつ、ファクトチェックではなく偽情報を流す者も現れた」。行動規範の実効性を確保することで、こういった団体に対応したい考えだ。

   ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、タスクフォースを結成し、1700本以上の検証記事を出稿。英語で記事を作成、欧州内の各国語に翻訳する取り組みも進めている。

   課題となるのが、活動に必要な資金の調達だ。設立時に、行動規範の改定作業をEUから250万ユーロ(3億6000万円)で受託したほか、グーグルが5年間で総額2500万ユーロ(36億円)を、母体の欧州大学院(EUI)などでつくる「欧州メディア情報(EMI)基金」に支出することを決めている。ファクトチェック、メディアリテラシー、研究プロジェクトの3分野に配分する。EUやグーグルが意思決定に関わらない体制にするなどして、独立性を確保していると説明している。

「今は日本は平和なので、そこまで深刻な状況になっていない」

   日本では、ファクトチェックを行っている団体間の協力関係は必ずしも強くない。EDMOのような取り組みは日本でも可能なのか。牧野氏は、欧州と日本の偽情報をめぐる環境は同じではないとして、現時点では否定的だ。

「例えば中国が台湾を侵攻するという話が出てきた時に、フェイクニュース、偽情報合戦になる可能性がありうる。中国がフェイクニュースマシンを稼働させるかもしれないといった時に、アジア全域が協力してそれに対抗していこう、という時にEDMOみたいな仕組みが参考になるのではないか。ただ、今は日本は平和なので、そこまで深刻な状況になっていない」

   FIJの楊井人文事務局長も、大統領が弾劾されたり、セウォル号事故でメディアの誤報や誤情報が飛び交ったことが問題になったりした韓国では、ソウル大学(SNU)ファクトチェックセンターに30媒体が参加する取り組みが進んでいることに言及しながら

「危機意識の差は、やはりインセンティブにおいて一番大きなファクターかもしれない」

と指摘した。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)

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