「娘にとって私は外れなのかな」「プレッシャーでしかないです...」 若者言葉「親ガチャ」に苦しむ子育て世代

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   子どもは親を選べず、生まれた家庭で人生が決まる――。近年、「親ガチャ」というワードが急速に広まる中、子どもから親ガチャ失敗と言われるのではないか、もし自分が子どもを持ったら親ガチャ失敗に違いない、と不安を抱える子育て世代がいる。

   この言葉は、若者世代を中心に"親ガチャ失敗した"と自分の境遇を嘆くように使われる。しかし最近では、他人の家庭の経済状況や親子関係などに対し、第三者が"親ガチャ失敗ですね"と批判する際に使われることも少なくない。

   一時的な流行語として終わらず、定着した感がある親ガチャ。この言葉に不安や悩みを抱える子育て世代3人に話を聞いた(全2回)。

  • 今回取材に応じたミホさん(仮名・30代)
    今回取材に応じたミホさん(仮名・30代)
  • 今回取材に応じたミホさん(仮名・30代)

子どもは親を選べず、生まれた家庭で人生が決まる

   『現代用語の基礎知識2023』(自由国民社)は、親ガチャを以下のように説明する。

親ガチャ:「子どもは親を選べない」――それをカプセルトイという抽選式の玩具購入方式の呼び名や、中身がランダムで決まるソーシャルゲームのアイテム課金方式になぞらえたインターネットスラング。

   自分の親が「当たり」か「外れ」なのかは、主に(1)経済的要因(2)遺伝的要因(3)関係的要因という3点から評価されると同書は指摘する。つまり、親の経済状況、容姿や身長といった遺伝的要素、親子の関係などで自分の人生が決まるという考えだ。

   2021年の「新語・流行語大賞」トップ10に選ばれたこの言葉は、同年の「大辞泉が選ぶ新語大賞」でも大賞に選ばれた。その後も、23年度の大学入学共通テストで「親ガチャ」を想起させる問題が出題されてSNSで話題になった。

   親ガチャが話題になった当時は、この言葉の是非についてメディアでも盛んに議論になった。しかし最近では、新聞やネットニュースの見出しや本文で「親ガチャ」というフレーズが当たり前のように登場することも少なくない。

   "子どもは親を選べず、生まれた家庭で人生が決まる"という考えが定着しつつある中、親ガチャを指摘される側の子育て世代はどのように感じているのだろうか。

「親ガチャという言葉はプレッシャーでしかない」

   金銭的に余裕のない家庭に生まれた娘にとって、私は親ガチャ外れなのかな――。そんな思いを打ち明けるのは、西日本在住で専業主婦のミサキさん(仮名・30代)だ。同い年の夫と0歳の娘の家族3人で暮らしている。

   地元の国立大を卒業したミサキさんは、地元の零細企業に就職。婚活パーティーで知り合った夫と30歳のときに結婚した。当時の世帯年収は約600万円だったが、ミサキさんは出産を機に会社を退職せざるを得なかったため、現在は約300万円で暮らす。

   "子どもを持つべきかどうか"を悩んでいたミサキさんは、当時の不安を次のように振り返った。

「出産や子育てにかかる費用、日々の生活費など、今の収入ではお金が足りないのではないかという不安がありました。何とかやりくりするしかないですが、みんなが持っているおもちゃを買ってあげられない、旅行に行けないなど娘に悲しい思いをさせてしまうのではないかという不安もありました」

   現在も家庭の状況について不安や悩みを抱えている。1LDKの賃貸物件に3人で住むには狭く感じるものの引っ越しする費用がない。育児の難易度が高くて全く思うようにいかない。求職活動をしているが、0歳の娘がいる自分を雇う会社はあるのか。

   娘にとって親ガチャ失敗なのではないかと思う理由について、ミサキさんは「まず私が親になるほど成長できていなかったように思います」と吐露する。

「産後うつになってしまい母に手伝ってもらってばかりで、娘と2人の時は一緒に号泣したり、何も分からない娘にイライラしたり怒ってしまったりと、心にほとんど余裕がないです」

   経済的にも全く余裕がないというミサキさん。「これから先、娘がやりたいことや欲しいものを叶えてあげられないことも多いのかな」と懸念もある。

   妊娠前に親ガチャという言葉を知った時は「上手いこと言うな」と感じた。子どもが行きたい学校に通えない、就きたい仕事に就職できないといったことは家庭環境の影響で十分あり得ると共感を示しつつも、次のように語った。

「年収が低いことを『努力不足』と言われることも多いように感じますが、努力だけではどうにもならないこともあると思います(私の場合はたしかに努力不足なのかもしれませんが)。実際親になってみたら親ガチャという言葉はプレッシャーでしかないです...」

   育児と仕事の両立でまた産後うつのような状態になるのではないか、働いても給料が上がらない、理想の母親像と自分がかけ離れている――そんな不安を抱えながらも、ミサキさんは今の状況をどうにか解決に向かわせたいと述べる。

「出来ることなら娘の近くで成長を見守りたいですが、現状を改善するには泣く泣く保育園に預けて働くしかないと思っています」

「親にされたことや教えを娘に押し付けてしまうのではないか」

   子どもから親ガチャ失敗だと思われたくないと感じる子育て世代もいる。

   関東在住で医療関係の仕事に就くアイさん(仮名・29歳)は、幼いころから両親のしつけが厳しかったため、0歳の娘に「知らず知らずのうちに親にされたことや教えを娘に押し付けてしまうのではないか」と思いを口にした。

   アイさんは小学生だったころを振り返り、マラソン大会や習字大会で入賞した表彰状などを自宅に持ち帰って報告しても、親から一切の興味を示されなかったと語る。一方、兄の表彰状は額縁に飾られていた。

「これが原因かは定かではありませんが、とても自己肯定感が低い子どもだったと現在は感じております。何をするにも親の反応を一番に考える子どもだったんです」

   そんな両親から絶縁を切り出されたことをきっかけに、今では一切の交流はない。アイさんが親になってから「当時の母は家事に仕事に育児と1人で全て背負っており大変だっただろうな」と感じたというが、親になったからこそ、両親のしつけは過剰だったとも感じている。

   現在30歳の夫と0歳の娘の3人家族で暮らしているアイさんが、両親の考えに自らの思考が支配されていると感じたのは、夫に出会ったことがきっかけだった。

   育児が大変で家事に手が回らないときに「出来ない自分に問題がある」と考えてしまうが、夫は「出来ないものは出来ないのだから諦めたりやらなかったり、外注したりしよう」と考えるという。

   なぜアイさんはそう考えてしまうのか。その理由を「親から努力するようにとか、『狭き門より入れ』というように楽より大変なことをした方が人間は成長するというしつけを受けてきたから」だと分析している。

   親に言われたことが自分の価値観になっているというアイさんは、親のしつけは極端で良くなかったと思いつつも、その価値観を無意識のうちに娘に押し付けてしまうのではないかと不安になると、心境を打ち明ける。

   親ガチャについて「私は言葉の通りだと思います」とするアイさんは、次のように共感する理由を説明した。

「親ガチャに対して批判的に言う方は、綺麗事だと思ってます。もしくは、自分が恵まれた環境で不自由さを感じたことがないからなのではと思います。よく育ててもらった親に失礼だとかそういう意見を目にしますが、人間として当たり前の生活を子どもが送れるように親が努めるのは、子どもを作った以上親の責任だと思います」

   今抱えている不安は今後解決に向かいそうなのか。そう尋ねると、「正直分かりません。これから成長する娘に同じことをするのではと思うと不安です」と述べた。

「自分も子どもに虐待して私と同じ思いをさせちゃうのが嫌」

   自分が子どもを持ったら親ガチャ失敗に違いない――。そんな思いで、子どもを持たない決断をした30代の女性もいる。

   関東在住で保険関係の仕事に就くミホさん(仮名・30代)は、40代の夫と2人で暮らしている。現在は医師から心因性の病気と診断されたため、仕事を休職している。

   幼いころから、母から虐待を受けていたと話すミホさんは、子どもが好きじゃないと公言していた夫と結婚する時に「子どもは持たない」と2人で決めた。大学に入学するまで中部地方に住んでいたミホさんは、幼少期を次のように振り返る。

「私の母は結構ヒステリックで、当時は気に入らないことがあると、途中で家を出て行ったり、物を投げたり、分厚い漫画雑誌を投げつけたりすることが結構あって。イライラして爆発すると何でもしちゃう人で、私が高熱で寝込んでいたのに、家を出て行かれちゃうこともありました」

   「お前を産まなきゃよかった」「お前を産んだせいで不幸になった」――こうした言葉を繰り返し言われたミホさんは、ストレスの影響で幼少期の記憶の一部がないという。中高時代には、精神科医に「君が受けているのは虐待だから、一回お母さんから離れよう」と言われ、一時的に入院することもあった。

   服は3回以上着ないと洗濯できず、風呂に入れないときもあった。シャンプーがもったいないという理由で、母から髪を短くされることも続いた。

   ミホさんが子どもを持たないと決めたのは、「自分に子どもができた時に虐待するかもしれない。そんな人間が子どもを持つのはどうなんだろう」と感じているからだ。

「自分も子どもに虐待して私と同じ思いをさせちゃうのが嫌だなという思いが強くて。私は母にちゃんと愛されなかったことがすごく嫌で、苦しかったので。その思いを自分の子どもにさせたくないので『持たない方がいいな』と思っていて」

   ミホさんの母もミホさんの祖母から虐待を受けていた。「私自身、どうしても虐待の連鎖を信じてしまっています。母も、母の母、つまり祖母から結構酷い扱いを受けていたって聞いてます」と話す。

   大学生のころ、母から「私は学校に行くのに制服も買ってもらえなかったけど、私の妹は買ってもらっていた」という話も聞いたことがあるという。

   また、ミホさんの父の親戚が住む中部地方にミホさん一家は住んでおり、ミホさんの母は父の親戚から「なんで第1子で女(編注:ミホさん)を産んだんだ」と責められることもあった。ミホさんに弟ができたのは約6年後のことだった。

「親の経済状況にまで発展しちゃってて、それは違うんじゃないか」

   父はどうだったのか。ミホさんは「男尊女卑みたいなところがあって。母の育児とか家事に口を出すもんじゃないと思ってるんですよ」と振り返る。当時都内に務めていた父が中部地方の家に帰宅するのは、月に1、2回程度だった。

   都内の大学に進学することに反対していた母と違い、父は許してくれたが、「積極的に子どもを保護したりせず、母が苛立っているときに私を責めたりすることもありました」と語る。大学に進学するタイミングで父は癌で亡くなったという。

   大学に進学したミホさんは、体調を崩して中退することになる。その後はフリーターとして仕事を転々としながら、病院に通いつつ1人暮らしを続けた。そこで出会ったのが現在の夫だ。結婚後もパートの仕事を続け、3年前に今の保険関係の仕事に就いた。

   「虐待の連鎖」を信じるミホさんは、親ガチャについて次のように述べる。

「私は『虐待する親』がそうじゃないかという認識です。親に恵まれなかった子どもは外れで、そもそも愛してくれる親はみんな大当たりなんです、私からすれば。私は子どもを愛せるか分からないから、私が親だったら外れじゃないですか」

   現在も親からの虐待がフラッシュバックするミホさん。友人が子どもに可愛い服を着せたり、子どもを抱きしめてあげたり、手をつないだりしたという話を聞いたとき、「私はそれをしてもらったことがなかったな」と感じるという。

   ミホさんは「私が持っていないものを子どもに与えなきゃいけないということは絶対に辛くなると思うんです」とし、夫と結婚する時に子どもを持たないことを2人で決めた。

「親ガチャは虐待を受けたコミュニティで発生した言葉だと思っていて、親ガチャはあると思っています。実際にあるなって身に染みているので。でも今は、親の経済状況にまで発展しちゃってて、それは違うんじゃないかなと思うんですよ」

   例えば親の収入に関して「親ガチャ失敗した」という投稿を見たとき、心苦しく感じるという。「私的には、親で辛い思いをした人に出会ったときに、『親ガチャ失敗しちゃうこともあるよね』という慰めとか共感に使ってるだけで、今の広がり方はおかしいとずっと思ってました」と心境を明かした。

   現在の休職には、母から受けた完璧主義という教育が影響している。ミスをすると口を聞いてもらえず手が飛んでくることもあった。ミホさんは「失敗が怖くて、大きな責任を任せられることも怖い」と話す。仕事をストレスに感じていなくても、急にご飯が食べられなくなり、吐き気が続いた。

   虐待の影響で今も苦しむミホさん。しかし、そんな母との関係が変わりつつある。かつては体調を崩すと「何やってんの、馬鹿じゃないの」と辛辣な言葉を浴びせてきた母だったが、今は「大丈夫なの?しっかり休みなさい」と電話で心配される。

「母との縁を切りたくて頑張ってたんですけど、母は縁を切られることが無理みたいで、色んな手で接触してくる人で。あと母も年を取って丸くなって...」

   母の変わり様に「人ってこんなに変わるんだ」と驚きを隠せなかった。現在は「多少警戒しつつも、数か月に1回ぐらい電話するぐらいなんですけど...。今度は母が弟の近況を愚痴交じりで言ってくる」という関係にあるという。

   そんな母について、ミホさんは「全面的に、すごい仲良い普通の親子みたいになれるといったら無理なんですけど。母の気持ちも分かるし、母が今変わってきてもいるので。まぁ連絡取ったりするなら...って感じですね。難しいですね、親子ってね」と語った。

   【予告】連載の後編は、親ガチャ事情に詳しい筑波大の土井隆義教授(社会学)に、子育て世代が親ガチャに苦しむ理由を尋ねました。8月13日10時の公開を予定しています。

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