「産後パパ育休」スタート1年、賛否分かれる 「助かる」「邪魔でストレス」ママの本音

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   「男性の産休」といわれる「産後パパ育休」(出生時育児休業)制度が2022年10月1日から始まって1年がたった。この新たな子育て支援策は定着しているのだろうか。

   働く主婦・主夫層のホンネを探る調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2023年10月11日、就労志向のある主婦層を中心とした女性だけを対象に意識調査を行なった。

   女性たちから「家事育児の経験が夫の視野を広げる」と歓迎の声がある一方、「かえって妻のストレスがたまる」と批判の声もあがった。どういうことか、調査担当者に聞いた。

  • 生まれたらすぐ産後パパ育休をとろう(写真はイメージ)
    生まれたらすぐ産後パパ育休をとろう(写真はイメージ)
  • (図表1)産後パパ育休制度(厚生労働省公式サイトより)
    (図表1)産後パパ育休制度(厚生労働省公式サイトより)
  • (図表2)産後パパ育休の認知度の推移(しゅふJOB総研調べ)
    (図表2)産後パパ育休の認知度の推移(しゅふJOB総研調べ)
  • (図表3)産後パパ育休のメリット・ランキング(しゅふJOB総研調べ)
    (図表3)産後パパ育休のメリット・ランキング(しゅふJOB総研調べ)
  • (図表4)産後パパ育休のデメリット・ランキング(しゅふJOB総研調べ)
    (図表4)産後パパ育休のデメリット・ランキング(しゅふJOB総研調べ)
  • 生まれたらすぐ産後パパ育休をとろう(写真はイメージ)
  • (図表1)産後パパ育休制度(厚生労働省公式サイトより)
  • (図表2)産後パパ育休の認知度の推移(しゅふJOB総研調べ)
  • (図表3)産後パパ育休のメリット・ランキング(しゅふJOB総研調べ)
  • (図表4)産後パパ育休のデメリット・ランキング(しゅふJOB総研調べ)

メリット1位「パパの視野が広がる」

   厚生労働省の公式サイト「産後パパ育休(出生時育児休業)が10月1日から施行されます」(2022年8月22日付)などによると、「産後パパ育休」とは、妻の出産後に夫がこれまで以上に休暇を取りやすくするための制度で、2022年4月1日から改正育児休業法が3段階で施行されたことに伴い、同年10月1日に第2段階として新設された。

   【図表1】の赤色の矢印がその仕組みだ。それまでの育休とは別に、生後8週間以内に4週間(28日間)を限度として2回に分けてとることができる休業で、1歳までに取得できる育児休業と別に取ることができる制度だ。

   たとえば、妻の出産に立ち会った直後からの退院・出生届提出など、一番大変な時期に2週間、さらに間を置いて、退院してきた母子の身の回りの世話に2週間と、集中してとることができる。そして、いったん職場に復帰した後、再び2週間休むなど、より柔軟に夫も「産休」と「育休」を活用できる。

   ところで、「産後パパ育休」、スタートから1年たったが、女性たちの間での認知と評価はいかほどか。

   「しゅふJOB総研」の就労志向のある主婦層637人から有効回答を得た調査(2023年9月12日~19日)によると、まず「産後パパ育休」が始まっていることを知っているか聞くと、「知っていた」(54.3%)、「知らなかった」(45.7%)と、過半数の人が知っていると答えた。

   1年前(2022年9月)の制度新設直前の同じ調査に比べると、知っている人が2割近く増えており、「産後パパ育休」が浸透していることがうかがえる【図表2】。

   「産後パパ育休」のメリットを聞くと(複数回答)、「家事育児の経験が夫の視野を広げる」(56.8%)、「夫と子どもが、かけがいのない時間を過ごすことができる」(54.0%)、「妻のストレスが軽減される」(47.4%)といった意見がトップスリーだった【図表3】。

   一方、デメリットを聞くと(複数回答)、「夫が家事育児をせず、かえって妻のストレスが溜まる」(44.4%)という、いわゆる「取るだけ育休」の頼りにならない夫がダントツ1位に。次いで「昇進が遅れるなど、夫のキャリアダウンにつながる」(22.0%)、「休業期間中に夫の仕事勘が鈍る」(21.4%)といった夫の仕事への影響を心配する意見が目立った【図表4】。

「育休から戻ったとき、会社に席があるのか心配」

   フリーコメントでは、「産後パパ育休」のメリットに賛成する声が多くよせられた。

「子どもを産み育ててみて初めて知ったのですが、とにかく産後は大変です!特に産後3か月は壮絶です。核家族で、母と子2人きりでは、どんだけ根性出しても壊れてしまいそうです。私の夫は育休取れなくて、産後1か月は残業無しで帰ってきてくれましたが、それだけでもとても助かりました」(40代:フリー/自営業)
「ママが1日にしていることを何日も続けてやってみるのはよいこと。どれだけ大変か知ってほしい」(40代:今は働いていない)
「短い期間でも家事と育児をパパが担当することで家族の絆が深まると思います」(50代:パート/アルバイト)

   一方、デメリットを指摘する意見も少なくなった。

「ちゃんと家事育児に参加する夫ならよいが、家のことをやろうともせず遊んでばかりの夫なら、本当に邪魔なので、育休とか取らずに大人しく働いて金を稼いてきてほしい。育休よりむしろ、乳児扶養手当とかの名目でドンとあげてベビーシッターとか雇えるようにすれば妻も楽になっていいのに」(40代:SOHO/在宅ワーク)
「夫が育休を『休み』だとか『手伝う』くらいに思っているケースがある。その概念を取っ払わないと、いつまでも日本の妻の負担は減らないし、少子化対策にならないと思います」(50代:その他の働き方)
「パパが本当に育休しているか、妻やパートナーの報告書の提出義務があればいいと思う」(30代:パート/アルバイト)

   また、企業側に理解を求める意見が相次いだ。

「育休から戻ったときに、席があるのか心配。異動になりそう」(40代:パート/アルバイト)
「まとまった休みではなく、必要な時に1日ずつ有休のような感じで取れたらいいと思う。たとえば子どもの健診日、子どもが病気の時、妻が体力的・精神的につらい日など。それなら、夫がただ長期間休んでいて家事育児をしないなどの事態にならず、有効に使えると思う」(40代:正社員)

ママはパパに企業の「新人教育」するつもりで

   このように賛否両論がある産後パパ育休をどう活用したらよいか。J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――今回の調査、1年前と比較して周知が進んだという結果が出ましたが。

川上敬太郎さん 周知が進んだことを除いて、大きな変化は見られないと感じました。また、周知が進んだと言ってもまだ半分強という状況ですから、あくまで1年前よりは進んだということであり、国民に広く認知されているとまでは言えないようです。

――フリーコメントをみても、賛否両論に分かれていますね。

川上さん 育児は長期間に及びますが、産後うつなど特に出産直後の大変さを認識している人は、産後パパ育休への期待感がより強いように思います。

――反対側に、「邪魔でかえってストレスになる」といった、いわゆる「取るだけ育休」に対する批判の意見もみられました。

川上さん 産後パパ育休やその後の育休、日々の育児の様子などを見る中で、パパが取り組む育児への不信感が根強いことの裏返しなのではないかと感じます。

一方で、育児に一所懸命取り組んでいるパパも少なくありません。「パパの育休=取るだけ育休」という図式は、未来永劫変わらないと決めつけてしまうのではなく、パパの育児に対するママたちの期待値が上がっていることを踏まえ、こうした批判が、逆に、産後パパ育休制度を実効性あるものにしていくための改善余地を示してくれていると受け止めたほうが良いのではないでしょうか。

――その問題になっている「取るだけ育休」の夫婦ですが、川上さんならパパ側、ママ側にどうアドバイスしますか。

川上さん パパ側はまず、産後パパ育休を含めた育休は「休み」ではないことを認識する必要があります。育休を取得したのに、家でゴロゴロしてゲームや動画鑑賞に没頭していては意味がないのです。

家事も同じですが、育児は手伝うものではありません。自らが主体となって携わっていただきたい。主体になるということは、基本的に一人ですべてに対処できるということであり、育児で何をしなければならないかの全体像が見えるということです。

仕事なら、転職したり、新しい部署に配属されたりすれば、まず、そこでの業務を一通り覚えることから始めると思います。そして、一通りの業務が自分でできるようになったら、はじめて能動的に動けるようになります。その点、育児も家事も構造は同じです。

――ママ側はどうですか。

川上さん ママ側も、育児が初めてなら、そもそもパパと状況は同じ。ただ、たいていの場合、ママは自分が育児の主体であることを初めから認識しています。その点、パパは育児の主体だと認識していない人が多く意識差があります。

これまでの日本社会の慣習や生活のあり方などから、悪気なく生じてしまった意識差という面もあります。この意識差は感情的なズレを引き起こしやすく、染みついた感覚から抜け出せないまま、育児に主体的に取り組もうとしないパパにイライラする原因となりえます。

パパの人格を含めて頭ごなしに否定してしまわず、パパの中にある「育児に対する認識」という部分に、まずは焦点を合わせ、プロ意識がまだ芽生えていない新人に教え込んで育成するような感覚で状況を捉えたほうが、多少なりともイライラを緩和させやすくなるのではないでしょうか。

育休で養った「家オペ力」が、仕事でも役立つ

――企業の「新人教育」みたいなものですか。ところで、フリーコメントには、「会社の体制を変えないと変わらない」と危惧を抱く声が散見されます。デメリットの2位が「夫のキャリアダウンにつながる」です。

川上さん とても重要な指摘だと思います。そもそも、有休が柔軟に取れるような職場環境であれば、生まれたばかりの下の子をママが見て、パパは上の子の授業参観に出るといった連携がしやすくなるなど、産後パパ育休のような制度を使わなくても対処できる育児家事上の課題はたくさんあります。お子さんのことはできるだけ自分が中心となって育て、パパには仕事優先で頑張って欲しいと考えているママも少なくありません。

一方、有休もきちんととれないような職場だと、そもそも産後パパ育休がどの程度機能するのかも疑問です。休みが取りやすい職場環境をどう構築できるかが根本的な鍵を握っています。

――ところで、川上さんは日ごろから、産後パパ育休が「家(いえ)オペ力」という貴重なスキルをつける経験になると、非常にユニークかつ大事な指摘をされています。「家オペ力」とは何ですか。

川上さん 家オペ力とは、家周りの仕事をオペレーションする力の略称です。よく、家事育児に専念している期間のことをブランクなどと呼びますが、実際にはブランクなどではなく、その間も家オペ力が磨かれている成長期間なのです。家オペ力を見てください。

家事や育児など、家周りの仕事に真摯に取り組めば取り組むほど、さまざまなソフトスキルが磨かれます。例えば、多くの人が集まるご近所さんやPTAなどの場で磨かれるコミュニケーションスキル。

毎日、家族が飽きないように、かつ栄養バランスと家計なども考えながら最適な食事の献立を考える企画力。一日3食を家族4人分作る場合、年間で「3食×4人×365日=4380食」の料理を毎日作り続ける実行力などです。

ほかにも、マネジメント力やリーダーシップ、コスト改善力などさまざまな場面を通してさまざまなソフトスキルが磨かれます。ソフトスキルは、資格や職歴など限られた範囲でしか機能しないハードスキルとは異なり、あらゆる職種のあらゆる職場で機能するポータブル(持ち運びできる)スキルです。

仕事はもちろん、人としての成長も促してくれる万能スキルと言えます。

「パパたちも頑張っています」

――「家オペ力」は育休後の仕事にも活用できるわけですね。産後パパ育休はこれからどんどん進んでいくでしょうか? パパたちへのエールがあればお願いします。

川上さん まだまだパパたちへの不信感も根強い状況ではありますが、パパたちも頑張っています。これまで家族の生活を支えるために必死になって仕事に没頭してきた中で、育児や家事にも積極的に携わらなければならないという負担の上乗せ感は、パパたちの間に少なからずあると思います。

ただ、仕事と育児の両立はママだけの悩みになっていた歪(いびつ)な状況から、いまはパパたちも同じ悩みを共有しようとしつつある過渡期にあります。仕事で新人に最初からすべてを求めても簡単には上手くいかないように、少しずつ前進していくのだと思います。

パパたちには、自分たちも育児の主体であることを認識し、ママたちとの間にある意識差を埋める努力を進めていっていただきたい。

また、長期的には学校教育で子どものころから、育児や家事は女性、仕事は男性とイメージを決められてしまう性別役割分業の矛盾、および育児も家事も仕事も性別によって決められるものではないことなどを学習するカリキュラムを組み込んでいく必要もあるのではないでしょうか。

(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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