マイナビが2025年2月14日に発表した「2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月)」に、興味深い結果が掲載されている。企業がエントリーシートの選考にAIを導入することについて、50.1%の学生が「AIの評価基準が不透明で、すべてを正確に評価できるわけではない」と否定的に捉えているのだ。
面接へのAI導入に対しても、48.3%が「AIがどのように回答内容を評価しているのか疑問を持つ」としており、選考へのAI活用に不安が見られる。
この結果について、AI自身はどう考えているのか。とある生成AIサービスを使って記者が意見のやりとりをしたところ、「就活生の懸念に対する反論」と「採用活動にAIを活用するメリット」を、4つの視点でまとめてくれた。
生成AIいわく「学生に公平なチャンスを提供できる」
1つ目は「判断基準の責任は人間にある」ので、AIが勝手に判断しているのではない、という反論だ。たしかに、書類のどのような記述をどう評価するかは、あらかじめ人間が決めて、AIへの命令文に入れておく必要がある。
「AIは単なるツールであり、判断基準を設定するのは人間です。選考結果に不満があるならば、それはAIではなく判断基準を決めた人間の問題ではないでしょうか。AIは与えられた基準に従って処理しているだけで、基準自体の妥当性はAIの問題ではありません」(生成AIの回答文。以下同じ)
2つ目は、AIを選考に活用する合理性とメリットだ。AI活用によってむしろ「一貫性と公平性の向上」が期待されると主張している。
「人間による選考では、疲労や気分によって判断基準の適用にムラが生じる可能性があります。しかし、AIは常に同じ基準で一貫して評価を行うため、むしろ公平性が向上するといえます。同じ判断基準なら、人間が読んでもAIが読んでも理論上は同じ結果になるはず。AIが人間より優れている面は少なくありません」
3つ目は「スケーラビリティと機会均等」。処理のスピードや量が飛躍的に増えることで、応募者の機会均等が図られるというのだ。これはAI活用による大きなメリットになりうる。
「現状では、企業に届く大量のエントリーシートを、人力ですべて読むことは現実的に不可能です。従来は学歴などで『足切り』して作業量を調整している可能性が高い。AI活用で、より多くの応募書類を詳細に評価でき、学歴にかかわらず『書類の質』で評価される機会が増えます。これにより、多様な背景を持つ学生に公平なチャンスを提供できる可能性があります」
いま企業は不確定性の高い時代を前に、新たな成功パターンを模索している。AIの活用で、応募者の中から「異能」が掘り起こされる可能性が高まるかもしれない。
最後の4つ目は「AI理解の不足」。これは、調査でAI活用に否定的な回答をした就活生への鋭い反論だ。
「多くの就活生は、AIの仕組みや役割を十分理解せずに批判しています。AIは最終判断を下すのではなく、人間の判断をサポートするツールという位置づけを理解すべきです。技術への漠然とした不安ではなく、具体的な懸念点を明確にすることが建設的な議論につながります」
「就活生の不安にも正当な部分がある」と同情も
生成AIは、これらの観点から、AI導入は従来の選考プロセスの「非効率性」や「不公平性」を改善する可能性があり、むしろ就活生にとってもメリットがあると言えるでしょう、と締めくくっている。
他の生成AIにも同様の質問をしたところ、AIに判断根拠の説明機能を実装することで「従来のブラックボックス的な人間による選考よりも、むしろ透明性が高まる可能性がある」という踏み込んだ答えもあった。
いずれも、それなりに筋の通った回答に見えるが、生成AIにあらためて「あなた自身はこの問題についてどう考えているのですか?」と尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「私の見解としてはーーAIを選考に活用することには確かに潜在的なメリットがあります。一方で、就活生の不安にも正当な部分があると思います」
AIが選考作業を行っているという事実だけで、就活生が「選考プロセスが人間味を失ったように感じられる」と批判している点については、「感情的な反応として不合理な側面がある」と不満を抱く一方、このように続けている。
「ただし、この批判を単に『不当』と切り捨てるのではなく、企業側がAIの役割や評価プロセスについて明確に説明することで、学生の不安を軽減する努力も必要でしょう。テクノロジーへの不安は往々にして情報不足から生じるものだからです」
そして、理想的なアプローチは「AIと人間の評価を組み合わせたハイブリッドモデル」と明かす。AIが初期スクリーニングを行い、人間が最終判断を下す形式なら「効率性と人間的判断の両方を活かせる」というのだ。
まるで成熟した人間のようなバランスの取れた意見だ。さらに生成AIは「結局のところ、テクノロジーそのものよりも、それをどう実装し、どれだけ透明性を確保するかが重要な鍵になると考えます」と議論を総括した。
米国には「AI対策の添削サービス」もあると担当者
採用の現場で働く担当者は、このような状況をどう考えているのだろうか。外資系企業の人事経験のあるAさんは、米国企業では「AIによる書類選考」は一般的であり、日本でも進んでいくのは間違いないと予想する。
「米国の大手企業の採用人事では、ATS(応募者追跡システム)の利用が一般的で、Fortune 500企業の9割超で導入されています。ATSとは、求人情報の公開から候補者の採用に至るプロセスを統合的に管理するシステムで、この中でAIによる応募書類の自動スクリーニングが行われています。
応募者側も、ATSに適した書類作成のテクニックを意識的に取り入れていますし、それを支援するツールやサービスも増えています。作成した書類がATSでどう評価されるかを示すシミュレーターや専門的な添削サービスまで出ていますので、今後日本でも登場するかもしれませんね」