米原駅「湖北のおはなし」井筒屋も撤退...「駅弁」が大ピンチ 全国約80業者まで減少、生き残りの道は

   2025年2月末、米原駅の駅弁業者、井筒屋が駅弁事業を終了した。

   滋賀県にある米原駅は、東海道新幹線と北陸本線の乗り換え駅として、多くの人が利用していた。また東海道本線も接続しており、鉄道の一大ジャンクションとして機能していた駅だった。

   そういう駅では、旅行中の空腹を満たすために、駅弁を買う人が多く、また駅そばなども売れていた。ほかには、駅の売店でお菓子や飲み物を買う人や、新聞・雑誌を購入する人もよくいた。

   以前は鉄道で遠くに出かける際には、長時間の移動となり、食事を途中で手配しなければならないことも多かった。その際に駅弁というのは非常にありがたい存在だった。安いものも高いものもあり、ふつうの幕の内弁当もあればご当地の名産品を盛り込んだものも売られていて、非常に重宝するものだった。

   鉄道の時刻表には各地の駅弁が掲載され、名物駅弁を紹介する本も多く見られた。

  • 鳥栖駅「焼麦弁当」
    鳥栖駅「焼麦弁当」
  • 福井駅「越前かにめし」
    福井駅「越前かにめし」
  • 東京駅「二段重 山」
    東京駅「二段重 山」
  • 鳥栖駅「焼麦弁当」
  • 福井駅「越前かにめし」
  • 東京駅「二段重 山」

鉄道の要衝で売られていた駅弁

   街自体は有名ではないのに、駅弁でその名を知られる駅というのもあった。たとえば信越本線の横川駅は、「峠の釜めし」の存在で多くの人に知られていた。

   米原駅も、井筒屋の「湖北のおはなし」があったからこそ、知名度の高い駅だった。

   横川駅にせよ米原駅にせよ、停車時間が長かったり乗り換えがあったりで、ホームに人が行きかう駅である。待ち時間を利用して購入する、というのがよく見られた。

   しかし横川駅は、高崎から長野まで新幹線が開業する際に、横川から軽井沢は廃線となり、行き止まりの駅になった。

   米原駅も駅弁が売りにくい状況になっている。北陸新幹線が金沢から敦賀まで延伸し、米原経由で福井方面に向かっていた人たちが北陸新幹線を利用するようになり、乗り換え客が減った。しかも米原~敦賀間という短時間の特急だと、車内で駅弁を食べようという気にはならない。米原を利用する人は、北陸方面と名古屋方面を行き来する人だけになり、場合によっては敦賀・米原と短時間で複数回の乗り換えをする必要が発生する。

   そうなると、駅弁を食べようという気にはならない。井筒屋は今後の見通しを厳しいものだと感じ、事業を終了したと考えられる。

   しかし、こういった時代でも生き残っている駅弁業者はある。横川駅の荻野屋もその一つだ。

大量生産の駅弁が主に

   1960年代には400以上の駅弁業者があった。一駅に2つ以上の業者があることもざらだった。しかし現在では、80業者程度しかないという状況になっている。主要駅でないと、あるいは主要駅であっても駅弁の業者がない。

   長野駅にて地元の駅弁業者として長年続いていたナカジマ会館は、2007年に駅弁事業をやめ、不動産事業を中心としている。中央本線の甲府駅では、かつては甲陽軒という駅弁業者があったものの、すでになくなっている。

   県庁所在地駅でも、駅弁業者が成り立たないという現実が起こっているのだ。

   現在の駅弁業者は、大都会の駅でないと成り立たない。大量生産の駅弁が主である。

   東京駅や新大阪駅、仙台駅、新潟駅などは多くの駅弁があることで知られている駅である。

   だが地方にも元気な駅弁業者は多くある。東京駅や新大阪駅にある、各地の駅弁を集めたセレクトショップ(例えば東京なら「駅弁屋 祭」)にどんどん商品を出していく業者だ。またそういった業者は、催事などの展開にも熱心だ。京王百貨店の「駅弁大会」にはよく出店している。

   「牛肉どまん中」で知られる山形新幹線の米沢駅で駅弁を販売している新杵屋は、「駅弁屋 祭」での販売にも熱心である。また、中央本線の小淵沢駅で駅弁を販売している丸政は、名物駅弁を次々と送り出し、業界内で確固たる地位を占めている。

   前述の横川駅「荻野屋」は、ドライブインや高速道路のサービスエリア、都市部での販売など企業努力を続けている。

   いっぽうで東京駅の駅弁は、以前は「まずい」と言われていたが、現在は改良に改良を重ね、おいしいものが多く登場している。

   働く人が足りないといった問題は地方の駅弁業者にはある。列車の速達化などで購入されにくくなっている事実もある。だが都市部への進出や催事などの販売で生き残っている業者も存在するのだ。

   駅弁業界を取り巻く状況の悪化で消えていく業者がいるものの、生き残るところは攻めの経営をしていると言える。(小林拓矢)


筆者プロフィール

こばやし・たくや/1979年山梨県甲府市生まれ。鉄道などを中心にフリーライターとして執筆活動を行っている。著書『京急 最新の凄い話』(KAWADE夢文庫)、『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)。

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