「高齢者はキャッシュレス決済が苦手」というのは、本当だろうか?たとえば、2024年暮れから2025年初め頃まで、全国18事業者29路線で実施した「完全キャッシュレス路線バス」の実証実験ではどうだったか。この報告書を紐解けば、「どの世代が完全キャッシュレスバスに関して好意的か、そうでないか」ということが一目でわかるのだ。それによると、デジタルネイティブであるはずの10代は、意外にも完全キャッシュレスバスの存在に戸惑っているようだ。「完全キャッシュレス」で困るのは誰?キャッシュレス決済が普及した現在、それでも「スマホが使えない人はどうすればよいのか?」という声がある。ひとつには、交通系ICカードを使う手があるだろう。残高チャージの方法さえ覚えればあとは簡単だ。認識パッドにカードをかざすだけである。むしろ、財布から小銭を取り出す方が大変かもしれない。現金お断りの完全キャッシュレスバスの実証実験が24年11月から開始され、約4か月の間にさまざまなデータが収集された。この実証実験は、国土交通省が主導するプロジェクトだ。全国的規模で行われたこの実験でわかったことは、「高齢者は意外にもキャッシュレス決済に慣れている」という事実である。国交省がまとめた『令和6年度完全キャッシュレスバス実証運行報告書』という資料を見ていこう。2024年11月1日~2025年2月28日まで実施された利用者アンケートには、10代以下から80代以上までの年齢層の1274人から回答が集まった(43ページ)。まずは、完全キャッシュレスバスの賛否について。このバスの導入を「進めてほしい」と答えた人は64.8%、「進めてほしくない」と答えた人は13.9%という結果が出た。完全キャッシュレスバスはおおむね好評だったといえるが、問題は「(導入を)進めてほしくない」と答えた人の世代別内訳である。対象を10代以下に絞ると、「進めてほしい」が57.9%、「進めてほしくない」が28.4%だった。なお、60代では「進めてほしい」が66.3%、「進めてほしくない」が10.2%である。意外にも、全世代の中で10代以下が最も「進めてほしくない」と答えた人の割合が多かったのだ。それに次ぐのは20代で、「進めてほしい」が66.2%、「進めてほしくない」が15.8%だった(44ページ)。では、完全キャッシュレスバスに反対する理由は何だろうか?これに関して、全世代共通で最多数だったのが「スマートフォンの電池切れやカードの故障、アプリのエラーなどが不安」という回答である。次に多いのが「災害時・システムの障害などで使えなくなると困る」だが、10代以下と20代に限れば、「現金に慣れている」という回答が第2位(47ページ)。驚くことに、Z世代後半からα世代の若者は、60代や70代よりも「現金派」の割合が多かった。「子供にスマホを持たせたいが、自由にアプリをダウンロードさせたくない」の声この背景には、やはり「スマホ」と「クレジットカード」にあるのではないか。20代のうち、こと学生はまだクレカを持っていない可能性も少なくないだろう。そのうえで、自分自身の収入がないうちはデビットカードやネットバンキング、そしてそこから紐付けられるモバイル決済チャージなども彼らにとってはやや敷居が高いということか。これが10代以下であればなおさらだ。小学生であれば持っていてもそれは「キッズスマホ」だろうし、中学・高校生になってスマホを持ち始めても、場合によってはアプリのダウンロードを親が制限しているというケースもありそうだ。筆者自身、「子供にスマホを持たせたいが、自由にアプリをダウンロードさせたくない」「課金やキャッシュレス決済等、お金を使う使い方は避けたい。どうしたらいいか?」という親からの声はよく聞く。やはり10代は、大人のようにスマホを自由に利用できるわけでないのだ。また、10代の以下が毎月のお小遣いを現金でもらっているとしたら、それをわざわざキャッシュレス決済の残高にする必要性はあまりない。つまるところ、キャッシュレス決済とは、自身の所得を確立させている大人が選択できる手段である。そのような事情が、報告書の数字に表れている。(澤田真一)
記事に戻る