2025年6月28日よりホストクラブでは、営業するにあたっての新ルールが追加された。風俗営業法を取らずに営業する「無許可営業」の禁止や、広告宣伝のNGワード設定、売春あっせんや脅迫行為への罰則導入など、締め付けを強化。国は悪質店の撤廃を目指すべく、より一層力を入れているらしい。営業許可や脅迫行為などは誰もが禁則事項だと理解することだが、広告のあまりのNGワードの多さに、歓楽街の住人たちは驚きを隠せないでいる。当たり前のように使用していた「○億円プレイヤー」や「支配人」などの名目でさえ禁じられ、SNSでは大きな話題を呼んだ。規制をかけ、被害に遭う女性を減らすのが一番の狙いなのだろう。しかし、今現在はホストクラブやそれらの職業に関わる人々にも影響を及ぼし、何とも言えぬ状況を招いている。正直なところ、傍から見ていると「規制が果たして正しいものだったのか?」と疑問が浮かぶくらいだ。ホストクラブの規制で蜂の巣状態 飛び火は外の人間にも売掛金の規制がかかった時も、歓楽街は大騒ぎだった。さらに今までの常識がひっくり返されると、ホストクラブを運営するグループは早急な対応をせざるを得ない。決まり文句だった「○億円の男」などの文言が禁止となると、街頭の看板やSNSでの打ち出し方を大きく変える必要が出てくるのだ。資金が潤沢な大手グループは派手に宣伝を行っているため、NGワードの設定は大打撃。歓楽街とは縁がない人からすれば「あの広告は意味があるのか」と思うものの、某ホストグループのオーナー曰く、宣伝カーや看板は相当な影響力をもたらすそうだ。キャストの宣材写真+○億円プレイヤーといったポスターを見て来店へつながるケースも非常に多く、「入り口」となる大切なモノが撤廃されるのは痛手だろう。どのグループも広告費に高いお金を払っているのだから、絶対に回収したいのが本音である。表現の規制が強まるなら、今までとは別のやり方で多方面にアプローチをすべきだが、あいにくホストのセールスポイントは顔と肩書き。この2つの要素がそろって初めて興味を持つ人が多いせいで、どちらか一方が奪われると本当に苦しい状況を強いられる。ダメージは働き手だけではなく、彼らを裏側から支えるデザイナーやカメラマンにも飛び火した。規制により自由に制作物を生み出せなくなったことから、広告を縮小するグループが現れた。すると、今まで担当していた人々への依頼数が減り、結果的に収入に困るクリエイターが増えてしまう。夜働く人間だけの問題に思えるが、実は予想外のところで頭を抱える人が続々と増えている。歓楽街には夜職専門のカメラマンやポスターデザインを行うフリーランスが多く、今後もルール変更や規制の緩和がない限り、違う道を選ぶほかないだろう。規制による客のトーンダウン、ホストクラブが生き残る術は?ホストクラブで大金を落とす女性は「優越感に浸りたい」、「自分だけにしかない特別感を味わいたい」という想いが非常に強い。承認欲求や自己顕示欲が抑えきれない人も多く、日常での「何か」が物足りないから足繁く店に通うのだ。手が届きづらいハイクラスな男性を欲するなら、指名するホストの肩書は絶対に外せないポイントの1つ。ホストクラブにおける役職陣はキャストとしての優秀さを表すバロメーターであり、指名客にとって担当の肩書き=最高のステイタスだ。よく結婚相手がハイスペ男子で「うちの旦那、すごいのよ」と自分のことのように自慢する女性がいるが、役職に目がくらむホスト狂いはこの手のタイプと酷似している。彼女たちは自慢できる男性を隣に置くだけではなく、競い合うのも好きだ。店内の売り上げバトルに燃える女性は一定数いて、高額オーダーで勝ち抜くと妙な快感を覚えるらしい。そもそも売り上げバトルやランキングの提示は働き手の意識を高めるものなのだが、同時に客同士の戦闘心に火をつける作用もある。新ルールにより肩書き禁止、競い合いやランキング発表も撤廃となれば、「なんだかやる気が失せた」と、お金を使う人口が減る可能性が高いかもしれない。今までそのあたりを楽しんだ客からすると、淡々と金を落とし続けたところで味気ないからだ。歓楽街はもう、役職や売り上げバトルで客を引っ張るだけでは通用しない時代へと突入した。今後ずっと同じ規制が続くかはわからないけれど、今はたいへんやりづらい状況である。ルール改変後のホストが生き抜くには、従来の概念を取り払ったエンターテインメント性を身につけなければならないだろう。別の方向へと考えをシフトし、かつてのやり方を切り離すのが一番の課題といえる。悪質ホストの行為はいただけないが、規制を強めたところで根本解決にはならないと筆者は考える。厳しい罰則になればなるほどグレーゾーンの道が出てくるもので、ホストクラブに類似したビジネスは他にも存在するからだ。「Aがだめなら、Bへ」と客がふらり、ふらりと動けばルール改変の意味をなさない。夜のお店だけではなく他に影響を与えているのも、「規制があるから良い方向へ転ぶとも限らない」と私が思う理由の一つ。表向きだけ綺麗に整えても、裏の世界がさらに澱むならその政策は「失敗」でしかないのである。【プロフィール】たかなし亜妖/2016年にセクシー女優デビュー、2018年半ばに引退しゲーム会社に転職。シナリオライターとして文章のイロハを学び、のちにフリーライターとして独立する。現在は業界の裏側や夜職の実態、漫画レビューなど幅広いジャンルのコラムを執筆中。
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