「日本人ファースト」と「排外主義反対」参院選でぶつかる 政府が避けてきた「移民政策」突きつけられた現実

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   2025年7月20日に投票された参議院選では、躍進した参政党の演説会で、「日本人ファースト」に拍手する有権者の叫びと「排外主義反対」のプラカードの声がぶつかり合った。石破茂首相はあわてて選挙中に「外国人との秩序ある共生社会推進室」を発足させたが、移民問題に正面から取り組んでこなかった日本政治を象徴していた。

  • 石破茂首相(2025年6月23日撮影)
    石破茂首相(2025年6月23日撮影)
  • 参政党・神谷宗幣代表(2025年7月20日撮影)
    参政党・神谷宗幣代表(2025年7月20日撮影)
  • 石破茂首相(2025年6月23日撮影)
  • 参政党・神谷宗幣代表(2025年7月20日撮影)

参政党に押されて首相が作った「推進室」

   在留外国人が約376万人(24年末)と急増するなかで、「外国人問題」は、石破首相の退陣時期とは関係なく、次の自民党総裁選びや、これと向き合う野党の政策論議では「待ったなし(ファースト)の課題」となる。ヤジを飛ばしていた有権者も、自分の身の回りで急激に増え始めた外国人とどうつきあっていくか、外国人問題の現実と本質を深く知る必要に迫られていることが表面化した。

   石破首相は急きょ設置した「推進室」の初会合で、「一部の外国人による犯罪や迷惑行為、各種制度の不適切な利用など、国民が不安や不公平を感じる状況も生じている」とあいさつ。出入国在留管理の適正化や社会保険料などの未納防止、土地取得の管理などの課題をあげ、自治体との情報共有や制度の見直しに省庁の枠を越えて取り組むよう指示した。

2070年の日本の総人口は外国人が1割に

   歴代の政府は、「移民政策」という言葉を避けてきた経緯がある。岸田文雄首相(当時)は2024年5月の参院本会議でこう答弁した。

「政府として、一定規模の外国人やその家族を、期限を設けることなく受け入れることで国家を維持する、いわゆる移民政策を取る考えはない」。

   これより10年前の「骨太の方針2014」では、「外国人材の活用は、移民政策ではない」と強弁していた。

   「移民政策」を避けてきた理由を、鈴木江理子・国士舘大教授は、こう推測する。「政府が、移民ではなく『外国人材』という言葉にこだわるのは、欧米諸国が直面している移民問題とは無縁だと、人びとの警戒心や不安を払拭する意図がある」(日経新聞。24年8月8日)。鈴木教授はさらに語る。「家族帯同が可能で、永住や国籍取得への道が開かれている定住型の外国人を移民ととらえれば、日本で暮らす外国人の8割が移民だ。日本生まれの2世や3世も増えている」。直近の将来推計人口(23年4月)によれば、2070年の日本の総人口は8700万人で、外国人が1割を占める、とされる。

欧州で「排外主義」政党が伸長した

   「自国民ファースト」はトランプ米大統領だけではない。同じ看板を掲げる政党は欧州でも躍進している。2月のドイツの総選挙で、「ドイツのための選択肢(AfD)」が第2党へ躍進した。ドイツでは、移民への政府の支援が手厚いことなどから不満が高まり、移民排斥を掲げる政党への支持が集まっていた。オーストリアでも、移民の流入によって、多様な欧州の言語と文化が均質化されてしまうことを強く拒んできた自由党(FPÖ)が、昨年9月の国民議会(下院)選で初めて第1党に躍進した。

   ただし、鈴木教授によれば、欧州のこれまでの移民政策は日本より進んでおり、ドイツやフランス、韓国などでは公用語学習の公的支援制度がある。日本では、外国人は義務教育の対象ではなく、日本語学習機会の提供も未だに自治体任せだ。日本と同様に受け入れ後発国で低出生率に悩む韓国では、在韓外国人処遇基本法や多文化家族支援法を制定し、社会統合プログラムを実施している。

有権者も外国人問題の理解、学習を迫られる

   参院選では、ほかの与野党も参政党の「外国人政策公約」を追いかけた。

   自民党は5月、在留外国人への対応を議論する関係会合を急きょ発足。外国人による運転免許証の切り替えや不動産取得に関する規制強化を公約とした。(朝日新聞7月8日)公明党は「不法滞在者ゼロ」、日本維新の会は「就労目的の外国人は、わが国経済の成長に貢献し得る人材に限って受け入れ」と訴えた。国民民主党は、外国人の社会保険の運用見直しなどを掲げた。立憲民主党や共産党、れいわ新選組、社民党は規制に抑制的だ。立憲は外国人旅行者への消費税免税制度の見直しを掲げつつ、「多文化共生社会を作ることが基本」(野田佳彦代表)と訴えた。

   しかし、「付け焼刃」感は免れない。差別禁止や永住資格、国籍取得、政治参加や保険、労働市場など、広範囲にわたる多文化共生社会の課題を議論する必要がある。

   マンション高騰の原因や、知らぬ間に隣町の山林を買われていた場合の対策は個別の規制でも足りる。課題別の丁寧な議論が、政治の世界だけでなく、ご近所での外国人論議にも必要になる。これから予想される「自民党総裁選」や、ひょっとしてあるかも知れない「与野党政界再編成」議論の中でも、外国人の問題は一番の課題になるだろう。

(ジャーナリスト 菅沼栄一郎)

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