自民党の高市早苗・新総裁は、週明けの2025年10月6日に幹事長など党内人事に着手、その後に与野党各党との連立協議に向き合うことになる。4日には、連立与党だった公明党との初の党首会談で靖国神社参拝問題などの懸念をぶつけられ、立ち上がりからきな臭い。15日にも、初めての女性首相が選出される見通しだが、いばらの道が予想され、一部では早くも「短命政権」の予想も出始めた。公明党が「連立継続に3条件」を示した高市新総裁は、自民党の人事と裏金議員の処遇について、国政選挙を経たことなどを理由に「(裏金問題は)人事に影響はない」「どうしてその人を選んだのか説明する」として前向きだ。しかし、総裁選で高市氏を支持した萩生田光一元政調会長を要職に起用すれば、世論の反発も予想される。直近の衆参両院選挙で自民党転落の大きな原因となった「裏金問題」への「新政権の向き合い方」が問われるからだ。世論の反応が吉と出るか凶と出るか。次の心配は、公明党との連立が継続できるか。公明党の斉藤鉄夫代表は4日夕、選出されたばかりの高市新総裁との会談で、自民党への「懸念」として、(1)政治とカネの問題(2)靖国神社への参拝をめぐる歴史認識(3)外国人との共生、について「率直にぶつけ、その解消無くして連立政権はない」と直言した。次の会談で、高市氏の回答によっては、これまで20年余り続いた自公連立が危機的な局面に追い込まれかねない。昨年に続き「決選投票」となるのか他方、野党との連立協議は、国民民主党が軸になると予想されるが、これは時間がかかりそうだ。このままでは、首班指名投票での過半数は確保できそうになく、昨年秋の石破首相と同様「決選投票」となりそうだ。2024年は、30年ぶり5回目の「決選投票」だった。30年前の決選投票は、「村山富市VS海部俊樹」(1994年)。細川連立政権で転落した自民党が、政権復帰を狙い、さきがけと組んで社会党の村山委員長を擁立。これに、新生党や公明党が推した海部氏が対抗した。それ以来だった。麻生、茂木ら見せつけた「派閥の力」今回の総裁選「決選投票」では、「小泉有利」とされた議員票を、高市氏が一気に「85票」上乗せして小泉進次郎候補を上回った。その背景に、麻生太郎元首相や茂木敏充・元幹事長らの動きがあった、とされる。自民党本部で議員投票が始まる直前に、麻生氏は「決選投票に残った場合、高市氏に投票するよう」43人の同派議員に伝えた。3日には茂木氏と会い、「最終的に勝ち馬に乗って影響力を狙うのでは」との見方が流れていた。岸田政権で「解消」されたはずの「派閥」が、総裁選の最終場面で、「現役」の麻生派をはじめとして「まさかの復活」、高市氏を担ぎ上げた。「副総裁」就任も予想される麻生氏ら長老が、今後の高市政権のなかで、「総裁選の貸しを返してもらう」格好で、影響力を広げると見られる。自民党が目指した「解党的な出直し」の観点から見れば、総裁選でも裏金問題批判にこたえる政治資金改革の議論はほとんど見られず、高市政権でも改革は停滞することになりそうだ。石破(前)首相の動きもバランスを崩す恐れ石破茂・前総裁は、新総裁選出直後のあいさつで、「あそこまではっきり『ワーク・ライフ・バランスやめた』といわれると、大丈夫か、という気はしなくはないが」と冗談交じりに皮肉った。直前の、新総裁あいさつで、高市氏が「私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる。働いて、働いて、働いて、働いていく」と興奮気味に叫んだことを指している。「全国過労死を考える家族の会」の代表世話人は「国のトップに立とうとする人の発言とは思えない」と驚いたと報じられていた。「前総裁」となった石破首相が10日にも発出しようと準備を進めている「戦後80年見解」について、以前から高市氏は反対していた。「衆院議員ではなく、首相として出すのであれば明確に反対だ」。首相名で出すことは「政府の立場だとされてしまっては困るので反対だ」と述べた(朝日新聞9月25日)。高市氏は、安倍元首相が発出した「戦後70年談話」の作成に関わっている。この問題も火種の一つである。石破氏が発出に踏み切れば、混乱が広がる恐れがある。(政治ジャーナリスト 菅沼栄一郎)