自民・公明党の連立が崩壊した多党化状況のなかで、2025年10月21日にも行われる首班指名選挙をめぐって、主要5党の駆け引きが激しくなっている。衆院比較第一党の自民党(196議席)と日本維新の会(35議席)が連立政権を視野に政策協議を始めることで合意。国民民主党(27議席)の調整も先行気味だ。しかし、首班指名の先に見える「数合わせ政権」の行方は多難だ。なかでも、高市総裁の積極的な経済政策などに党内の異論を抱える自民党は、野党との連立協議のなかで、党内の亀裂が拡大する懸念がある。維新急展開、吉村共同代表、政策協議まとまれば「首相指名も高市氏に投票」維新の吉村洋文・共同代表は15日夜に急きょ上京、藤田文武・共同代表とともに、高市総裁との党首会談に臨み、政策協議がまとまれば首相指名投票で高市氏に投票する考えも示した。「自民+維新=231」で過半数(233)まであと2議席となるからだ。維新が掲げる「副首都構想」と「社会保障改革」に高市氏がどのような回答をするかが焦点だ。自民党の高市早苗総裁はこのほか、立憲民主党(148議席)、国民民主の党首と個別に会談した。国民民主党の榛葉賀津也・幹事長は14日の鈴木俊一・自民党幹事長との会談で、「年収の壁」の引き上げ、「ガソリン減税」「企業・団体献金の規制強化」の3点の実施を要求した。ただ、玉木雄一郎代表は、公明党の離脱で国民民主の議席を合わせても過半数には届かないため、自民とは当面は政策連携で臨む方針とみられる。高市自民が一部野党との連携の道を確保し、年内に野党の要求に基づく「補正予算」の調整が始まれば一定の前進だが、参議院でも少数与党の可能性は残り、財源調整をはじめさまざまな障害も予想される。自民内にちらつく高市批判、最初のヤマは臨時国会「補正予算」自民党は14日に両院議員総会を開き、高市総裁が、「公明党の連立離脱は私の責任」と陳謝したが、空席の目立った会場からは、高市氏の責任を追及する意見はほとんど出なかったという。しかし、石破内閣の閣僚からは、連立離脱に関連して、村上誠一郎総務相が、派閥裏金関係議員の登用などについて「(公明への)平手打ちに当たる」「もうちょっと慎重な対応をすべきだった。覆水盆に返らずだが」などの批判をぶちまけた。さらに、選挙協力が解消される影響について、「東京23区など(の選挙)には大きな影響がある」(平将明デジタル相)、「たいへん残念だ」(中谷元防衛相)との声も聞かれた。党総裁に就いて間もない高市氏に対して、多くの議員は正面切った批判は控えたようだ。最も過激だった「高市総裁は退陣して、総裁選をやり直せ」(SNSで船田元氏)との発言は、話題にされなかったようだ。麻生氏との「積極財政」めぐる対立、そして「保守中道派」からの圧力ただ、国会が始まると、野党側をはじめ、自民党内の「保守中道派」や「財政再建重視派」から、高市総裁の「独自路線」に異論も出てきそうだ。その「火ダネ」が高市総裁の「積極経済」路線だ。連携を強める国民民主党が求める「年収の壁撤廃」や「ガソリン減税」、維新の「社会保険料6万円引き下げ(一人当たり年間)」については、さっそく代替財源をめぐって、党内摩擦がおきかねない。そのお目付け役が、いずれも財務相経験者の麻生太郎副総裁と鈴木俊一幹事長なのだ。高市総裁が、支持者が期待する消費税減税を軸とする政策に走り出すと難しい政局になる。高市氏は安倍首相時代にも、定額給付金などの分配をめぐって、安倍氏とトラブルがあったという。(「週刊現代」2025年10月27日号)石破氏がどう出るか?離党した過去があるもうひとつ懸念がある。「元首相」となる石破茂氏は「保守中道」の代表的な論客だ。高市氏ら保守派が強く反対していた「戦後80年所感」を10日に発表したばかり。その石破氏には、自民党を離党した過去がある。リクルート事件で自民党に対する不信感が渦巻く中、若手議員らが作った「ユートピア政治研究会」に参加。1993年に小沢一郎氏らが脱党して、8党派の細川連立政権を作った時に、行動を共にした。その後、党内抗争に嫌気がさして、自民党に戻った。そんな過去がある石破氏が志半ばに退陣。さて、この先どう出るのか。杉田敦・法政大教授は、「世界を見渡せば、かなり考え方が違う政党が争点を限定して連立している」という。「意見が異なる問題については基本的に現状維持とし、中心的な課題について内閣をつくればいい」「今回野党の動きが鈍いのは政党政治への理解が浅いからだ」(「朝日新聞」2025年10月15日)かつて1993年に自民党を集団離党した小沢一郎氏らが作った8党派連立政権は、わずか10か月で崩壊した。今回も、多くの政党が交錯する中で、成立した政権が安定するのは簡単ではない。(ジャーナリスト 菅沼栄一郎)
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