NHKが、今年の大みそかに放送する「第76回NHK紅白歌合戦」の司会者を発表した。3年連続3回目となる有吉弘行を筆頭に綾瀬はるか、今田美桜、そして鈴木奈穂子アナウンサーという布陣だ。日本の大みそかを彩る国民的番組の司会は、一握りのスターにしか務まらない重責である。ヒッチハイクで一世を風靡、アダ名つけで再ブレイク有吉といえば、1996年にバラエティ番組「進め!電波少年」(日本テレビ系)の企画「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」に挑戦し、猿岩石として一世を風靡した。だが2004年3月にコンビを解散すると、不遇の時代を過ごすことになる。その彼が再び脚光を浴びたのは、2007年8月放送の「アメトーーク!」(テレビ朝日系)だった。品川庄司・品川祐のアダ名を聞かれた際、「おしゃべりクソ野郎」と一刀両断。この毒舌が視聴者の心を掴んだ。以降、有吉は毒舌芸人としてゴールデン帯の司会者へと駆け上がっていった。そんな彼に2023年末、舞い込んだのが『紅白』の司会という芸能人生で最高の肩書きだった。そのオファーを彼は受けたのだ。だが、『紅白』の司会に求められるのは「もてなす」「迎え入れる」というホストの顔である。出場歌手を温かく紹介し、視聴者を楽しい気分にさせる。年に一度、ふるさとに帰省して家族が集う、その特別な時間を演出する必要がある。毒舌を武器にする有吉が「紅白」では「すまし顔」にもっとも、有吉のスタイルは本来、それとは真逆で、相手に対して常にファイティングポーズをとるものだろう。ゴールデン帯に放送する「有吉ゼミ」(日本テレビ系)では台本通りきっちりと進行するものの、どこか心ここにあらずというか、ドライな印象を拭えない。一方で、深夜帯の「有吉クイズ」(テレビ朝日系)やラジオ番組「有吉弘行のSUNDAYNIGHTDREAMER」(JFN)では相変わらず生き生きとしている。2021年9月に終了した「有吉反省会」(日本テレビ系)では、単発時代を含め9年間、「あの人は今」的なかつてのスターをいじる彼は、まさに水を得た魚だった。極めつけは毎年12月30日に放送されるクイズ特番「クイズ☆正解は一年後」(TBS系)である。終始ニヤケ顔で、放送ぎりぎり、もしくはアウトの悪ふざけ回答を連発する有吉。そのわずか1日後、「紅白」では人が変わってしまったような「すまし顔」と、にこやかな顔を見せる。3年連続の起用はNHK側の信頼の表れともとれるが、視聴者が求めるものと、毒舌を武器にする有吉が提供できるものの間には、明らかな乖離がありそうだ。本来の芸風を封印した有吉が「紅白」の舞台に立つ意味はどこにあるのか。家族が集う大みそかの夜、視聴者はその答えを見つけられないまま、有吉の司会を見ることになるだろう。(川瀬孝雄)
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