2025年12月17日に会期末を迎える今国会の焦点となっている「衆院定数削減」案は、日本維新の会の要求とは別に、与野党全体で話し合う「協議会」での議論に譲られることになりそうだ。その「衆議院選挙制度協議会」では、「身を切る」というなら「議員報酬を少し減らして、逆に過疎地の定数増とすれば」などいくつかの改革案が浮上している。日本はG7諸国の中で議員報酬はトップ10月15日に開かれた第8回協議会で、谷口将紀・東大教授(令和臨調委員)が、「身を切る、と言うならば、議員数を減らさずに報酬を減らせばいい」と提案、報告した。政党の利害に関係ない学者からの提案である。谷口教授はこれまでにも多くの政策提言をしてきた。谷口教授によると、日本はG7諸国の中では、人口当たりの国会議員数は下から二番目、と少ないが、議員報酬はトップだ。このため、人口減少とともに減らされてきた過疎県の定数のうち5県の小選挙区定数を1ずつ戻して30年前の300小選挙区(現状は289)に戻す場合、現在の議員歳費総額の1.6%を減らすだけでいい、と言う。維新が主張する「衆院1割比例削減」は、「小選挙区選出議員が多い維新にとって、比例を削ってもほとんど影響がない」との批判がある。この発想を逆転して、「歳費削減で全議員の身を少しだけ切って過疎地の議員増につなげる」というのが谷口提案だ。「都道府県比例代表制」や「小選挙区優先順位付投票制」の提案も谷口氏は、衆議院単独で抜本的な選挙制度改革として、「都道府県単位の比例代表制」を提案する。「一票の価値の平等」が裁判などで近年はますます厳しく求められるようになったことを重く受け止めた提案で、「投票価値の平等は不要、との憲法改正」を行わない限り、近い将来どんな選挙制度でも「一票の価値平等」は実現できなくなる、との背景がある。これに対し、協議会に参加した福島伸享議員から、「自分は8回選挙を経験して10数万軒を歩いてきたが、有権者には政党を選ぶ選挙に、ものすごいストレスがある。選挙は政策というよりやはり人(候補者)を見極めるのでは」との意見が出た。谷口提案は「非拘束名簿式」として候補者個人名での投票も可能だ。さらに福島議員は、「(オーストラリアで採用されている)小選挙区の優先順位投票制は面白いと思う。ただ、投票方法や集計の仕方を変えなくては」とも質問。これに対して、谷口教授は、「将来、インターネット投票、電子投票が実現する時には、優先順位式投票制をやらざるを得ない。不可避だ」と答えた。自民党の石田真敏議員は、「中選挙区連記制を検討してきたが、(都道府県比例代表制に)似ている部分があるのではないか」と質問。谷口教授は、「都道府県内の区割りがなかなか難しい」とする一方で、「(都道府県比例代表制は)政党名でも投票できる全県区の中選挙区制と同じ」とも説明した。多党化時代の今こそ、根幹から大転換するチャンスか有権者の関心は「ともかく物価を下げてほしい」が中心で、「一票の平等を」「新しい選挙制度はどんなものがあるのか」といった問題には、当面向きそうもない。現在の「小選挙区比例代表並立制」の導入が決まったのが1994年の細川連立政権で、30年余りが経過するが、批判があってもなかなか選挙制度改革には手がつかない。現行の選挙制度で選出された議員たちが、自ら生み出した制度の変更に手を付けるのは、自殺行為にもつながりかねないからだ。18日に開かれた「衆議院選挙制度協議会」では、自民・維新の連立2党間協議でなく、少数政党の意見も反映させる与野党全会派の「協議会」で結論を出すよう求める意見が相次いだ。日本維新の会は「今国会中の定数削減法案提出が自民党との約束だ」(藤田文武共同代表)と強気の構えを崩さないが、「連立合意文」では、「25年臨時国会において議員立法案を提出し、成立を目指す」と表現を緩め、「逃げ道」も透けて見える。当面は来春に出る国勢調査結果による「定数是正」の処理を迫られるが、将来的に「都道府県比例代表制」などの抜本改革に結びつく可能性もある。少数与党・多党化時代を迎えた今、選挙制度など政治制度を根幹から大転換するチャンスとも言える。日本維新の会が、少数与党の連立離脱騒ぎに滑り込んだ「あだ花」のようにも見える「定数削減」問題が、案外、選挙制度の大改革に結びつく可能性もゼロとは言えない。(ジャーナリスト 菅沼栄一郎)
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