住宅街では、土地の使い方ひとつで生活環境が大きく変わることがある。土地の管理が行き届かなくなると、隣家にとっては対応に迷う場面も出てくるだろう。
川原美里さん(仮名・40代)は、隣家の畑が放置された状態となり、落ち着かない状況が続いているという。
梅の木が伸び放題に、落ちる実・虫・雑草 幼い頃の景色が一変
川原さんの実家は、もともと個人の畑だった土地を購入して建てられた。家の三方は、現在もその所有者の畑に接している。
しかし、代替わりを境に、畑の管理はほとんど行われなくなったそうだ。梅の枝は好き放題に広がり、初夏には収穫されない実が落ち、虫が寄ってくる状況だ。
「昔はきれいに整っていたんです。季節ごとに手入れされていて、見ていて気持ちがいいほどでした」
雑草は背丈を超えるほどに成長し、川原さんの自宅側に倒れ込むこともある。幼い頃に見ていた風景とは、まったく別の姿になってしまったという。
「窓を開けると、もう草の壁です。風が通る感じも変わってしまって、落ち着きません」
相談しても改善されず「気になるなら切ったら?」と言われて困惑
状況を改善したいと考え、河原さんは一度、隣人に相談した。しかし......。
「隣人から『気になるなら切ったら?』って言われて、その瞬間、言葉が出ませんでした」
川原さんの家は梅農家でもなく、専門の道具をもっているわけではない。また、他人の土地の木を、自費と労力で手入れすることは現実的ではない。
「怒りというより、どう返せばいいのかわからなかったです。他人の土地に勝手に入るわけにもいきませんし......」
とはいえ、自宅側に倒れそうな枝や雑草を放置することもできない。川原さんは最低限、自宅に影響する部分だけを手入れしている。
「本当はやりたくありません。でも、放置すれば困るのは私たちなので、複雑な気持ちですね」
さらに悩ましいのは、地域の反応だった。
「周りの人に相談しても、『あの家は昔からああだから』って言われました。みなさんも同じ経験があるのかもしれません」
強く言えば関係がこじれ、何も言わなければ生活環境は変わらない。その間で、川原さんは揺れ続けているのだ。
「どこまで踏み込んでいいのか、ずっと考えています。人間関係も大事にしたいし、でもこのままでは限界も近くて困っています」
個人の所有物であるはずの畑が、隣家の生活に悪影響を及ぼす――。隣家との距離感を、川原さんは今も模索している。