大阪・関西万博で「2億円トイレ」として注目を集めた「トイレ5」を設計した一級建築士の米澤隆氏が2025年12月25日、Xでトイレの利活用をめぐる手続き上の問題について困惑を明かした。「約半数が諸事情により移設が叶わず、解体・廃棄されてしまう見込み」米澤氏が万博で設計を手がけた「トイレ5」は、ダイヤモンドオンラインが24年2月に公開した記事を発端として、SNSなどで「2億円トイレ」として批判を集めた。その一方で、一連の騒動により知名度が上昇し、万博の開場後は「トイレ5」を見学に訪れる人も多かった。建築系メディア「TECTUREMAG」では、トイレ5について、閉会後はユニット単位に解体し、公園や広場などに移設し、その場に必要な数や形に組み換えることができる仕組みだと紹介していた。しかし、米澤氏は12月5日、自身のXで「大阪・関西万博トイレ5(通称:万博2億円トイレ)について、約半数が諸事情により移設が叶わず、解体・廃棄されてしまう見込み」だと明かした。その上で、万博会場のシンボルであり、大阪市が北東部約200mを残し公園として整備する方針を示している「大屋根リング」の近くに、半数を残置するのはどうかと提案。「公園には当然トイレが必要になります。そして、大屋根リングに隣接し、単体の施設として存続できるトイレ建築は、2億円トイレだけです」と訴えていた。「手続き上難しいという理由だけで解体・廃棄されていく」大阪府河内長野市長の西野修平氏は米澤氏の投稿を引用し、「2億円トイレ、もし、万博会場に残せないなら、うちで引き取らせていただけませんか?」とコメント。開発中の公園のトイレとしてリユースしたい意向を示した。米澤氏は25日、西野氏の投稿を引用した上で、トイレ5をめぐる問題点を指摘。「2億円トイレについて、このように『欲しい』と手を挙げてくださる方が実際にいらっしゃるにもかかわらず、手続き上難しいという理由だけで解体・廃棄されていく--それで本当に良いのでしょうか。これは、大阪・関西万博のテーマである『いのち輝く未来社会のデザイン』と、どこかで矛盾してはいないでしょうか」現状では実現が難しいとしつつ、「たとえ本件が叶わなかったとしても、これからの社会のあり方や、制度と運用の関係を考える礎になれば」とつづった。「本来生まれるはずだった価値や利益が失われているように感じます」トイレ5の今後について、現在、大阪府立花の文化園と民間事業者の2者が移設の方針を示している一方、「全体の約半数は移設が叶わず、解体・廃棄される見込み」だという。「実際には、公共・民間を問わず、多くの方々から移設希望のご相談をいただいています」とするも、「現状では役所手続き上の制約により、移設が極めて難しいというのが実情です」と説明。トイレ5は移設・転用を前提に考案した建築であるにもかかわらず、「建築側に可能性があっても、制度側に課題があれば実現できない--この現実に直面しています」。米澤氏は、「『欲しい人がいるにもかかわらず、壊され、捨てられてしまう。』これが、いま起きていることです」とし、「同様の問題は、社会のさまざまな場面で生じており、本来生まれるはずだった価値や利益が失われているように感じます。この日本社会の現状に、強い危機感を覚えています」と訴えた。「状況に応じて制度や運用を柔軟にアップデートしていく余地はないのか」としている。
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