ランチ・ディナー時間帯や休日の回転寿司チェーン店は多くの客で賑わい、入店まで1時間待ちという光景も珍しくない。そんな回転寿司業界の大手3社の状況はどうか。各社の決算資料を見ると、売上高は増加する一方で、利益面では厳しい状況にあるようだ。
原材料費・人件費の上昇が利益を圧迫
くら寿司の2026年10月期の業績予想では、売上高は前期比4.9%増の2570億円と過去最高を見込む一方、営業利益は8.4%減の50億円、純利益は16.8%減の30億円となる見通しだ。
スシローを運営するFOOD & LIFE COMPANIESは、25年9月期に売上収益4296億円(前期比19.0%増)、営業利益361億円(54.4%増)と増収増益を達成。26年9月期の予想では売上収益4850億円(12.9%増)に対し、純利益は240億円(4.6%増)と、純利益の伸びが売上の伸びを下回る。
はま寿司を展開するゼンショーホールディングスの26年3月期予想では、売上高は前期比7.6%増の1兆2235億円、営業利益は同9.1%増の820億円を見込むが、売上高に対する原価の割合は45.3%から46.7%へ1.4ポイント上昇する見通しで、収益性の悪化が懸念される。
各社に共通する最大の課題は、原材料費と人件費の上昇である。
くら寿司は25年10月期決算短信で「外食産業全般におきましても、米をはじめとした原材料価格や人件費の上昇など、厳しい状況が続いております」と明記。26年10月期の減益予想について「米をはじめとした原材料価格や人件費の上昇など」が理由だと説明している。
ゼンショーホールディングスは26年3月期の営業利益(見通し)の押し下げ要因として、原価の増加(+211億円)、既存店人件費の増加(+176億円)、既存店販管費の増加(+163億円)をあげている。コスト増が利益を大きく圧迫する構造が鮮明だ。
海外展開で各社の戦略に差
利益確保に向け、各社は海外展開を加速させているが、その戦略には違いが見られる。
FOOD & LIFE COMPANIESは海外スシロー事業で大幅な成長を実現している。25年9月期の海外スシロー事業の売上収益は1314億円(前期比42.6%増)、営業利益は203億円(同105.1%増)と大きく伸び、全体の売上収益に占める割合は30%を超えた。
同社は中国本土への出店を加速させており、25年度に蘇州、杭州に初出店し、12月には上海で2店舗を同時オープンするなど、中華圏での店舗網拡大を進めている。海外店舗数は25年9月期末の234店舗から、26年9月期末には300~320店舗へと大幅に増やす計画だ。
一方、くら寿司は海外事業について米国と台湾に注力している。米国子会社は25年10月期に売上高421億円(前期比17.4%増)、経常利益1億円前期は赤字)と黒字化を達成。アジアでは台湾子会社が売上高266億円(前期比5.9%増)、経常利益12億円(同26.6%増)と堅調だ。25年10月期末現在の店舗数は米国79店舗、アジア60店舗となっている。
ゼンショーホールディングスは「グローバルはま寿司」セグメントで、25年3月期に売上高2484億円(前期比26.1%増)、営業利益213億円(同87.0%増)と大幅な増収増益を達成。26年3月期は売上高2822億円(同13.6%増)、営業利益226億円(同6.0%増)を見込む。中期経営計画では、28年3月期の国内外あわせた総店舗数を、25年3月期末より3310店舗多い1万8729店舗まで増やす計画を掲げている。
「ビッくらポン!」や「年に一度の格別まぐろ祭り」など...独自の取り組み
厳しい収益環境の中、各社は独自の取り組みで顧客の支持を集めようとしている。
くら寿司は、食べ終わった皿5枚を入れるとゲームに挑戦でき、当たりが出ると景品がもらえる「ビッくらポン!」など従来からあったエンターテインメント性を強化。
スシローを運営するFOOD & LIFE COMPANIESは「すしに真っすぐ!」をテーマに商品開発に注力し、「年に一度の格別まぐろ祭り」などのキャンペーンを展開。国内スシロー事業では、オートウェイターを設置した「デジロー店舗」を100店舗超まで拡大し、店舗体験の進化と省人化を同時に進めている。
はま寿司を展開するゼンショーホールディングスは中期経営計画で「DX・AIを活用した技術革新」を掲げ、店舗運営の革新と顧客体験の向上を目指している。
原材料費や人件費の上昇という共通の課題を抱える回転寿司チェーン各社。売上高の拡大と店舗数の増加を続けながらも、利益率の確保という難題に直面している。
グローバル展開の加速、技術革新、商品開発、そしてエンターテインメント性の強化――。各社の多角的な企業努力が、今後の収益性改善にどうつながるのか注目される。