衆議院総選挙が2026年1月27日に公示され、12日間の選挙戦に突入した。与党は勝敗ラインとされる233議席をクリアできるのか、選挙後の政局はどうなるのか、「選挙の神様」とも言われる久米晃・元自民党事務局長(選挙・政治アドバイザー)に聞いた。久米さんは、自民の大勝はないと見る。
(聞き手ジャーナリスト菅沼栄一郎)
新党結成で自民党議員の公明党票への淡い期待は吹き飛んだ
―― 今回の総選挙の結果を占う最大のポイントは?
「公明党を支えてきた創価学会票の行方です。高市内閣との連立を解消した当初、公明党は『人物本位』(で選挙協力もあり得る)といっていたわけでしょ。自民党の候補者もみんな期待していた。ところが、高市首相の解散決断を知って、立憲民主党と新しい政党を作ったものだから、そんな淡い期待もすべて吹き飛んでしまった。
ただ26年間、いっしょに選挙を闘ってきたわけだから、公明党票が新党へ、どこまで移動するかが、今回の選挙の議席を占う重要なポイントになります」
―― 内閣支持率が落ち込んだのは
「高市さんは、働いて結果を出すと言ったにもかかわらず、結果が出る前に解散に打って出ました。自民党支持者、保守的な人たちの期待感を裏切ったわけで、『期待はずれ感』は強かった。なぜ解散したのか?19日に記者会見したけれど、はっきりしない。そのがっかり感というのが、支持率低下につながったのだと思います」
岸田内閣解散時の261議席を基本にすると、「30小選挙区は敗北確実」
―― 公示直後の現状で、「自民対中道」の議席数は、どこまで読めますか?
「前回(24年10月の石破内閣選挙)の自民党の獲得議席191をベースにすると、裏金問題での逆風があっての結果だから、岸田内閣時の総選挙(21年10月)の261議席を基準にした方がわかりやすい。この時の自民党候補者で、次点の候補に1万票差で勝ってきた人たちが30人くらいいるんです。ここは、確実に厳しいと思います。仮に、ここですべて敗北するとすれば、今の自民党の現状は、261-30の約230が中心軸になると思います。この当時は参政党はなく、これと国民民主党とは比例区の取り合いですから、自民党の比例議席も当然減ることになります。維新も減るでしょう。立憲民主党は今回、公明党の底上げはあるけれど、逆に、参政党や国民党が奪われる議席もある。この両党は今回、参議院選の時よりも勢いは収まっていると思いますが、参政党は前回3議席しかとってないから、2ケタには上げてくるでしょう。国民民主は前回を若干上回るのではないか」
創価学会は勝負に出た「高市首相に自らの存在感を知らしめる絶好の機会」と
―― 「創価学会票」が丸ごと立憲に移動するのか、自民党議員とのしがらみとか、いろいろな見方があります。
「(学会関係者は)シャカリキでやっています。自分たちの存在感を知らしめる絶好のチャンスじゃないですか。とくに高市さんに対して、目にものを見せる機会ですから。
久しぶりにF(フレンド)作戦(学会員以外の友人、知人に投票依頼をする運動)の働きかけがあったと聞きました。前回(自公連立時代)は、政治とカネの問題があったので、(自民党への投票は)歩留まりが悪かった。で、自民党は負けた。今回は、政治とカネの象徴である萩生田光一氏と下村博文氏の両議員の公認を外してくれと公明が頼んでも、高市首相は蹴とばした。それも連立離脱の大きな理由だと思います。『高市を痛い目に遭わせてやろう、目にもの見せつけてやろう』という気持ちは、学会、公明党に猛烈に強いんじゃないですか。
中道とは何か、原田稔会長の言葉を印刷して、立憲の全国会議員に配ったとも聞きます。今まで立憲と公明は闘っていたじゃないか、という人がいるけれど、(自公連立が誕生した26年前以前は)自民党だって『四月会』(反創価学会キャンペーンを続けた)作って批判していた。それが10年もしないうちに連立した。あまり言わない方がいいと思います」
「消費税減税」は争点でなくなった、最近の政党はご機嫌取りばかり
――選挙の争点ですが、「みらい」を除いては全党が「消費税減税」(食料品などの種別や期間の別はあるが)を言っている。金融市場から警告を受けているのに、「財源論」が深まらない。
「消費税の減税は、争点じゃなくなっちゃいました。安倍さんが突然の解散を、最初にやったときは、消費税の税率アップを2年間ストップしました。これには、有権者が拍手喝采しました。だけど今回は主要全党が消費税率を下げる、と言っちゃったもんだから、消費税問題は争点ではなくなった。
どの政党も、正論を言わなくなっています。ポピュリズムというのはこのことですね。有権者のご機嫌取りみたいなことばかり言ってる。政党はやはりきちんと、責任をもって説明しなければ。その説明力がない。有権者は政治不信に陥る。大衆に迎合するようなことばかり言っているから、有権者は政治家を信用しなくなっている」
自民・中道の議席予想は微妙だが、総選挙後の政局展開はどうなる?
―― 与党が過半数を維持しても、自民党内には、高市首相への不満が残る?
「選挙が終わった後にひと波乱あるでしょう。麻生太郎副総裁や鈴木俊一幹事長は、今回の解散には何の相談にもあずかっていない、『高市自己中解散』と言われています。不信、不満が渦巻いています。高市さんが、麻生さんも鈴木さんも信用していない。それは、逆も言えますよね。圧勝すれば別ですけど。石破茂前首相に限らず、高市氏の保守的な考え方とは距離がある人たちも少なくありませんから。例えば、党の執行部の残留を望んでもお断わりする、とか。高市さんは、内輪の人間だけで政権運営せざるを得なくなる」
―― 「中道改革連合」は負けたら分裂ですか?
「立憲の左の部分は切れるでしょう、たぶん。でも、多くの人間は後がない公明出身者と一体となって、この先を目指して残ることになると思います。この塊がひとつになって、自民に向かってくれば、脅威になります。とくに小選挙区では」
―― しかし、次の参議院選挙は、2年余り先ですね。
「来年は統一地方選挙がある。44道府県で地方議員選挙がある。地方議会では、公明党が組織として残っており、自民党との協力関係を結んでいる地域が少なくありません。県議会では一人区が多い。自公協力が残っているんです。
一方で、自民党の場合、選挙に負けなければ総裁を追い出せない。ただ、参議院選挙で負けてやめた総裁は多いです。宇野宗佑さん、橋本龍太郎さん、安倍晋三さんや森喜朗さんもそれに近い。安倍さんと高市さんが決定的に違うのは、高市さんの周りには人がいない。安倍さんは人が自ずと集まってきていた。高市さんは苦境に陥った時に、あっという間に倒れるかもしれません」
甘い密を吸って来た野党は変われない
―― 維新の会や国民民主、参政党などとの「連立関係」はどうなりますか?
「甘い蜜吸ってきた野党は、その位置を捨てがたいんです。国民民主はその典型。ガソリン暫定税率の廃止にしても『年収の壁』引き上げにしたって、政権とくっついてたから出来たんです。中間政党は与党と組みたいという姿勢が見え見えなんです。でも与党と一緒になったら消滅する、という歴史もわかっている。新自由クラブ、社民党しかり。半歩足突っ込んで、それぞれの政策ごとに、くっついたり離れたりする方がベターなわけです」
――総選挙後、国民民主も参政も、ともに自民との連立は確実ですか?
「石破政権で自民党は惨敗した。だけど野党は政権を取る気はない。政権担当能力はないことはみんなわかっている。それだったら、自民党に寄って、無理難題を言って政策を実現してもらった方が便利。少数与党になった自民党に、無理が通るようになっちゃった。国民や参政にとっては、非常に都合のいい状況なんです。そんな、ゆるい連立状況が当面は続いていきます」