電車内では、マナーや距離感の違いから戸惑う場面に遭遇することがある。とくに、文化の異なる相手との接触では、許容される行動範囲において判断に迷うケースもあるだろう。
会社員の高田拓弥さん(仮名・30代)は、仕事帰りの電車で思わぬ「気まずさ」に直面した。
距離の近い外国人カップル...次第に親密な雰囲気になり
20時頃、残業を終えた高田さんは電車に乗っていた。座席は埋まっていたものの、立っている人は数人程度。それほど混雑はしていない状況だった。
「疲れていたので、ドアに背を預けてぼんやりしていました」
そのとき、車両の中央付近に外国人の若いカップルが立っているのが目に入った。男性は長身で、女性は小柄。やや距離が近いようにも感じたが、高田さんはとくに気に留めなかったという。
「海外の方だから、『そういう文化』なのかなと思っていました」
しかし、電車が発車して数分後、2人の距離はさらに縮まっていった。笑い合う仕草や視線の交わし方から、親密な空気が周囲にも伝わってきたようだ。
「この時点で目を逸らせばよかったんですが、タイミングを逃してしまいました」
「ここ日本だよ...」視線のやり場を失い車両を移動
その後、2人は見つめ合ったままキスを始めたのだ。激しくはないものの、何度も言葉を交わしながら軽く唇を重ねる様子だったという。
「え、電車の中だよ。ここ日本だよって、心の中でツッコミました」
しかし、今さら急に背を向けるのも不自然に思い、かといって見続けるわけにもいかない。高田さんは視線のやり場を失い、うつむいてスマートフォンを見るふりをしたそうだ。
「数分間が、やけに長く感じました」
次の駅に到着したタイミングで、高田さんは電車を降り隣の車両へと移動した。すると、同じように隣の車両へ向かうスーツ姿の男性と目が合った。
「一瞬で、『あ、あなたもですか』という感じでしたね」
さらに移動した車両には、先ほどの車両にいた女性の姿もあったという。
「みんな気まずかったんです。それが分かった瞬間、なんだかホッとしました」
思いがけない出来事に戸惑いながらも、見知らぬ人同士で共有された「空気」に、わずかな救いを感じた帰り道だったそうだ。
電車内ではさまざまな人が同じ空間を共有している。文化や価値観の違いがある中で、周囲への配慮や距離感の取り方が改めて問われる場面といえそうだ。