歴史的な円安基調が長期化する中、政府・日銀はついに本格的な対応に踏み切り、2026年4月30日に大規模な「円買い・ドル売り」の為替介入を実施した。
しかし、為替レートはわずか数週間で再び介入前の水準へと戻ってしまった。
にもかかわらず、政府内には「外為特会はむしろ利益が出ている」という楽観論すら存在する。
だが、それは本当に喜ぶべきことなのだろうか。
為替介入は円暴落を防ぐための「時間稼ぎ」
こうした一連の動きを見れば、「為替介入は無駄だったのではないか」という批判が出るのも当然だろう。
だが、財務省や日銀の狙いは、円安トレンドそのものを無理やり反転させることにはない。
むしろ彼らの目的は、投機的な動きを強く牽制し、市場の過剰な変動(ボラティリティ)を抑えることにあったと考えるのが自然だ。
とはいえ、日本経済が抱えるジレンマは深刻である。
欧米との金利差は容易に縮まらず、国内金利を急速に引き上げることも難しい。一方で、潜在成長力を高めるような根本的な経済体質の改善には長い年月を要する。
その狭間で、急激な円安という最悪のシナリオを防ぐため、政府は一時的な時間稼ぎとして、為替介入を選択せざるを得なかったとみるべきだろう。
円安阻止のために使った資金は、円高阻止で蓄積されたもの
ちなみに、巨額の為替介入が行われる際、その原資は税金ではなく、「外国為替資金特別会計(外為特会)」という独立した特別会計から支出されている。
この外為特会の仕組みを理解するには、日本が円高不況に苦しんでいた時代まで遡る必要がある。
かつて日本は、深刻な円高によって輸出産業の競争力低下に直面していた。政府・日銀は、自動車をはじめとする輸出企業を支え、景気を下支えするため、断続的に大規模な「円売り・ドル買い」介入を実施してきた。
政府が円を売ることで、市場から大量のドルを買い集めていたのである。
そして、この円高阻止の過程で取得した莫大なドル資産が、外為特会の中に積み上がっていった。
さらに、それらのドル資産の多くは現金のまま保有されているわけではなく、主に安全資産とされる米国債で運用されてきた。
つまり、現在行われている円安阻止のための為替介入とは、過去に円高阻止のために蓄積した外貨資産を取り崩している構図なのだ。
もっとも、日本の外貨準備高は約1兆2000億ドル(日本円で180兆〜190兆円規模)に達するものの、その全額を即座に為替市場へ投入できるわけではない。
なぜなら、外貨準備の大部分を占める米国債などの証券類は、介入資金として使用する前に市場で売却し、現金化する必要があるからだ。
しかし、米国債を一度に大量売却すれば、米国の長期金利を急上昇させ、米国の金融市場や実体経済に深刻な悪影響を与えるリスクがある。
つまり、日本が独断で際限なく米国債を売却し、その資金で為替介入を継続することには大きな制約が存在するということだ。
そして、市場が「日本政府はもはや大規模介入を継続できない」と判断すれば、さらなる円売り圧力を招く可能性も否定できない。
運用益の数字に安心している場合ではない
高市早苗首相は1月31日に円安について、「外為特会の運用がホクホク状態だ」と発言した。
実際、会計上の数字だけを見れば、その指摘は間違いではない。
政府が保有するドル資産は、円高時代に取得されたものであり、現在の1ドル=150〜160円という歴史的な円安水準で売却すれば、その差額は大きな為替差益(キャピタルゲイン)となる。
さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のため高金利政策を維持していることから、外為特会が保有する米国債の利回りも高止まりしており、運用益(インカムゲイン)も膨らんでいる。
しかしこの利益は、日本経済が強くなった結果として生まれたものではない。
むしろ、日本経済の弱体化の裏返しとして生じている側面が大きいのだ。
政治家が帳簿上の利益を誇る一方で、国民生活と国内経済は、長期化する円安によって確実に疲弊している。
日本企業の9割以上を占める中小企業は、円安による原材料費やエネルギーコストの上昇に苦しみ、その負担は最終的に実質賃金の低下という形で国民へ跳ね返っている。
つまり、「時間稼ぎ」によって得られた帳簿上の利益に、「ホクホク」している余裕はないはずなのだ。
政府や日銀が本当に取り組むべきなのは、その「時間稼ぎ」の間に、日本経済の現実を直視し、持続的な成長力を取り戻すための抜本的な政策を実行できるかどうかである。