「MONOist」の「『海外赴任イヤです!』止まらぬビジネスのグローバル化、新人のドメスティック化」(2014年4月17日配信)という記事が面白かった。新入社員は、年をへるごとに、海外赴任を避ける傾向にあるという話だ。新入社員の6割近くが「海外赴任はしたくない」現地採用・グローバル登用体制に変わっていかざるを得ない記事でも紹介していた、日本能率協会(JMA)が新入社員を対象に行った調査の結果によると、「海外赴任はしたくない」人は57.7%と6割近くにのぼった。2年連続で増加しており、過去4年間で最高となった。さらに「あなたがこれから働くにあたって、できればやりたくないこと」の2位にも「海外への転勤」(42.8%)が入っている。記事によると、これに関しては、いろんな理由があって、赴任先が途上国にシフトしたこと、言葉の問題、家族や友人と離れてしまうのを嫌う、日本が好き、といったことがあげられている。こういう問題に対して、啓発して、海外に赴任してもらおうと努力するという方向性もあるが、私はもうこれでいいのだと思う。別に、海外に行きたくない人材に、無理やり海外に行って貰う必要もないし、企業もいずれそこまでコストを掛けられなくなっていくだろう。いずれ、海外人材は、現地調達になっていくと予想される。シンガポールや上海あたりには、3か国語を話し、トップ大学を卒業して、米国系企業で修行した人材がかなりいるので、そういう人を雇ったほうが手っ取り早い。中国やシンガポールでのオペレーションにおいて、何もわからない日本人を派遣するのは時代遅れになるだろう。日本国内専用人材という区別シンガポール在住で企業の統括・ハブ機能のコンサルティングを行う木島洋嗣氏は、この記事について、自身のFacebookで次のようにコメントしている。「(海外赴任を嫌う人がいる)一方、海外現地採用思考の若者もいます。ですので前々から言う通り尚更、内外分離で。日本では日本国内専用人材。シンガポールや香港で統括人材、各国で各国密着人材」これからの日本人は、べつに英語も喋る必要もないし、海外で働く必要もない。日本国内で、日本人相手の商売をしていれば良くて、国内の販売やアフターサービスといった国内向けの事業は、そういう人材だけの仕事になる。日本国内専用人材という区別だ。いままでは、日本国内専用人材も、グローバル人材も、いっしょくたになって採用され、おなじように配属された。新卒で入社し、現場で修行をして、ゆくゆくはグローバルに活躍できるように育てられるパスがえがけたが、今後はそうではなくなるだろう。国内の出世の延長に海外があるのではなく、国内人材と、グローバルの管理や戦略を作る人材を、はじめから分けて採用するようになる。国内向け専用人材は、この調査にあるように海外に赴任したくないというひとでかまわない。グローバル向け人材は、地域拠点があるシンガポールや上海、香港や、ドバイや、アムステルダムやサンフランシスコなりで採用することになるからだ。そして、世界の拠点から生え抜きの人材を、グローバル本社に登用する。本社機能も、日本以外の場所に散らばり、そこは日本専用人材の出世先ではなく、シンガポールや上海のグローバルむけ人材の出世先になるだろう。差別ではなく、区別。適材適所、という考えが進むだろう。だから、べつに海外赴任はいやだという日本のドメ人材に、意識変化を期待する必要はなくなる。変化出来た企業だけが生き残る米系グローバル企業はおよそこのような考えをとって世界中から人材を登用している。だからスピードも早い。「日本には日本のやりかたがある」という指摘もある。もちろん、国内専業で、日本人むけに商売している企業なら、日本人でかためて、日本式をつらぬいたほうよい。今後もそれで構わないと思うし、日本のドメなやり方に特化したほうが、日本国内では成功する。ただし、海外何十か国でオペレーションをするようなグローバル企業では、いずれこのような現地採用・グローバル登用体制に変わっていかざるを得ない。こういう体制への変化は空想に思えるかもしれないが、むしろ、厳しい競争のなかで、そのように変化出来た企業だけが生き残るという逆説になるだろう。むしろ問題点は、シンガポールや上海のトップ人材が日本企業を避けるようになってきていることである。もしかしたら、すでにそうなっていて、日本の新人に英語を学ばせることから育成するしか人材採用の方法がなくなっているのかもしれないが。(大石哲之)
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