2019年 10月 16日 (水)

社長「好き嫌い」人事はやめて! 「M1」騒動に見る評価基準の難しさ(大関暁夫)

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   テレビでその年のナンバーワン漫才芸人を決める人気番組「M1グランプリ」で、特定の審査員の評価が自分の好き嫌いで決めているのではないかと、一部の漫才芸人がSNSで暴言を吐いて炎上するという事件が、世間を賑わせています。

   事の発端は、「M1グランプリ」審査員の元女性漫才師であるベテランタレントが、審査講評の中で特定の出演者に対する好き嫌いとも受け取れる発言を繰り返したことに、不愉快に思った出演芸人らが酔った勢いに乗じてSNSで彼女の悪口を言ったという流れです。

   この手の審査というものは、明確な基準がなく言ってみると審査員任せの評価になりがちです。完全「定性評価」とでも言うのでしょうか。中小企業の人事評価にも通じるところのある、人が人を評価することの難しさを絵に描いたような実例で見せられた思いです。

  • 人事を評価することは難しい!
    人事を評価することは難しい!

M1審査は「ハロー効果」に陥った

   中小企業の人事評価の初期段階は、M1審査と同様の100%「定性評価」からスタートします。当初は、M1審査以上に独断になる社長の単独評価です。次の段階が、管理者と社長の複数評価者による定性評価です。

   社長、担当役員、部長と、3人程度の管理者が、「あいつは今期よくやった」「あいつはイマイチだった」と、それぞれがそれぞれの基準で感じるところに意見を出し合って最終評価を決める。そんなスタイルです。

   この段階までは、「定性評価」というと聞こえがいいですが、結局のところは鉛筆ナメナメ評価といえる状況なのです。

   一般的に言われる、陥りやすい「定性評価」の代表的エラーは、どこか1点に優れているものがあるとすべてがその評価に引っ張られがちになるという「ハロー効果」と言われるもの。自分の得意分野や専門分野に辛く、苦手分野や非専門分野に甘くなるという、対比誤差と言われるものなどがあります。

   今回問題になったM1の女性審査委員も、どうやらこれらに類する評価エラーがあったといわれても仕方のないところだったようには思えます。

   「定性評価」に偏りすぎた人事評価は、確実に不平不満が出ます。M1の場合のようにそれぞれキャリアやパーソナリティの異なる審査員を7人揃えることでバランスを取り、ある程度の公平感を測っているのだろうとは思われますが、やはり極端な評価をした人間がいるとわかれば、評価される側から不満が出ることは避けられないのです。

行き過ぎた「定量評価」の問題点

   「定性評価」に対する不満が社長の耳に入りはじめ、それを理由に転職する社員が出るようになると、「公平感」を前面に打ち出して実績で評価する方向に全面移行を考える傾向が強くなります。

   評価制度づくりのスタートはだいたいこのあたりがはじまりです。実績評価を昇給昇格テーブルに反映させるということで、社会保険労務士などに評価連動の給与テーブルをつくってもらうなどの動きになっていくわけです。評価の客観性を求めた、いわゆる「定性評価」から「定量評価」への移行期ともいえるでしょう。

   「定量評価」のメリットは、実績数字が評価に直結するのでクリアではあるのですが、過程を評価せずに結果だけで評価されるがために、これにばかり偏ってしまうとむしろ実績数字がすべてという非人間的な評価になってしまい、社員の心が会社から離れていくことにもなりかねません。

   バブル経済崩壊後の日本企業が旧来の年功序列評価に限界を感じ、こぞって取り入れた成果主義評価は、「定量評価」に偏るあまりに実績さえ上がっていれば何をしてもいい的な考え方がはびこってしまいました。

   その結果、行き過ぎた個人主義を助長することとなり、組織風土への影響を懸念した多くの企業が方向転換を余儀なくされたのです。

「定性」と「定量」 2軸評価の「間」の取り方

   「定性」だけでもダメ、「定量」だけでもダメ、ならばその間をとるのがよかろうとなるわけですが、この間のとり方が難しいのです。携帯電話会社一次代理店を10数店舗経営するD社のT社長から、評価制度見直しについて、こんなお悩み相談を受けたことがあります。

「窓口での販売実績だけで評価をしたのでは店舗ごとの環境の違いもあるし、他のスタッフに事務仕事を押し付けて獲得に走る者もいる。公平感を期する意味で数字的な実績に私が印象点をプラス・マイナスしようと思ったのですが、このプラス・マイナスは社長の個人的好き嫌いが加味されるのではないかと、店長以下スタッフが疑心暗鬼になってしまいまして、導入を躊躇しています。どうするのがいいのでしょう」

   私がT社長にアドバイスしたのは、「定量」「定性」どちらにも基準をつくって、それを「見える化」する2軸評価の導入でした。たとえば、ひとつ目の評価軸を実績数字の目標達成度として、100%以上をA評価、80~99%をB評価、80%以下をC評価とします。これが「定量」部分の評価軸です。

   もう一つの軸を業務姿勢として、社長が社員に守ってほしいこと、たとえば協力姿勢とか、残業削減とか、後輩指導とかを具体的に評価項目として見せます。それを同じようにA、B、Cの3段階で評価し、これを「定量」の評価軸とします。

   2軸をクロス評価することで、3×3の9段階評価ができ上がることになるのです。

   この評価のポイントはやはり「定性」部分。数字では見えないので、なぜその評価になったのか、理由を評価通知時にフィードバックして、何をどのようにがんばったら評価が上がるのか、それを具体的に伝えることなのです。

   D社の2軸評価は導入から10年近くが経ちますが、ここ2~3年でようやく落ち着き、それによって定着率も安定するようになりました。

   M1審査の問題も、「定性」「定量」のふたつの評価をうまくミックスし、審査員独自の評価軸を維持しながら、どのように客観性を担保するのかが今後の課題なのかもしれません。同時に長い目でみた改革への覚悟も必要でしょう。

   評価方法というものが安定するには、根気強く続けるということが、評価制度の変更を手がけてきた実感でもあります。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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