日本経済団体連合会の中西宏明会長がメディアに、「終身雇用をこれ以上維持するのは無理」という趣旨の発言をし、大きな話題となっています。1995年に日経連(日本経営者団体連盟=経団連の前身の一つ)が発表した「新時代の『日本的経営』」を見ても明らかなように、経団連は連合同様、終身雇用を日本企業の強みととらえ全面的に擁護する立場でした。日立製作所出身の経団連会長が、その見直しを表明するということは180度の方針転換と言ってもいいでしょう。いい機会なので、よくある質問に対してQ&A方式で論点を整理しておきましょう。日本の左派は救いようのないバカだ!Qなぜ終身雇用は維持できないのか――。A65歳まで雇用することを前提とすると、新卒採用の際に、企業は「社会保険料込みで平均年収800万円として×40年超でだいたい3億円以上の価値があるか」を見極めて合否の判断をせねばなりません。5年先が読めない時代に、これほどの時代錯誤なやり方は他にないでしょう。しかも、政府は年金支給開始年齢の引き上げを検討中であり、さらなる実質的な定年延長も狙っています。「もう終身雇用なんて守っていられない」という会長の言葉は率直なホンネでしょう。むしろ筆者は、最初から正直に現実を認めた点は評価すべきだと考えます。「終身雇用で雇用は保証されるし、将来は出世できるから」といって安月給で使い倒した挙句。45歳を過ぎたら、「辞めますと言うまで繰り返し面談する」ような企業のほうが最悪だと思います。Q従業員の生活は誰が面倒みるのか――。A未成年ならともかく、20歳を過ぎた大人なら、どう考えても自分自身に決まっているでしょう。何があっても100%自己責任です。ただ仮にそうした義務があるとすれば、それは政府であり、それこそ社会保障の役割でしょう。というわけで、自己責任論を否定する立場の人たちは「必要なら増税でも何でもして社会保障をもっと充実させろ」と要求すべきです。ちなみに、現状はどうかというと「労働者の生活?企業に丸投げしたから文句あるなら企業に言って」という政府に対して、共産党をはじめとする左派は「そうだそうだ!企業は内部留保でもなんでも使ってみんな正社員にして賃上げしろ!」と同調しているわけで、日本の左派は救いようのないバカだと筆者は考えます。終身雇用の必要悪は「下半分」の人が引き受けるQ終身雇用はどうなるの?Aおそらく、経団連が「もう無理」といったところで、すぐに解雇規制が緩和されたりすることはないはずなので、形骸化しつつも終身雇用制度は当面継続するでしょう。だから「終身雇用がなくなると生きていけない」と、心配している人は安心してくださいね。一方で、新卒一括採用の見直しに代表されるように、年功序列は若手や優秀層から見直しがどんどん進むはず。彼らは自身の希望するキャリアを実現し、納得のいく処遇を求めて会社と交渉し、放っておいても流動化していくはずです。従業員の上半分が自発的に終身雇用を離脱するようなイメージですね。結果、残業や転勤といった終身雇用の必要悪は、「下半分」の人が引き受けることになるでしょう。イメージとしてはこんな感じです。上司「山田君、こんど北海道に転勤してほしいんだけど」山田「東京以外はお断りします。辞令が出たら転職します」上司「ということで鈴木君、北海道よろしくね」鈴木「え?またボクが転勤なんですか?5年で3回目ですよ......でもしょうがないですね」まあ、そこまで滅私奉公しても終身雇用が守られる保証はないわけですが。Qでは、そうまでして人生かけて会社に終身雇用を守ってもらうメリットってあるの?Aないんじゃないですかね。(城繁幸)
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