スペインのマドリードで開催されていた第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)が閉幕しました。過去最長の会期となったものの、具体的な成果に欠けた今回。国連のアントニオ・グテーレス事務総長の「失望した」というコメントが象徴するように、ネガティブムードが世界中に広がっています。そんななか、なぜか一人ポジティブに見えるのが日本の小泉進次郎環境大臣。COP25では積極的に海外要人との会談をこなして「日本のプレゼンスが高まった」とのことですが、海外ニュースを探しても、そんなポジティブムードは伝わってこないのです。東南アジアの「石炭火力」資金源は日本COP25に関する海外報道で、日本について大きく取り上げたものは見当たりませんでした。通常、日本に関する海外ニュースは、「Google先生」に関連ワードを英語で入力すると、ズラリと検索結果が並ぶものです。関心を集める話題の時は、英語だけでなくフランス語やアラビア語、中国語などあらゆる言語の見出しが並びます。ところが今回は、「Japan」も「Koizumi」も驚くほどニュースになっていないのです!それでもいくつかピックアップしてみると......。AtClimateTalks,Japan'sKoizumiConfrontsCriticsOverCoal(気候変動会談で、日本の小泉大臣は石炭への非難に直面した:ロイター通信)confront:直面する、大胆に立ち向かうcriticsover:~への非難ロイター通信もそうですが、海外メディアの報道の中心は日本の石炭火力政策への批判です。石炭火力発電所をめぐっては、欧州主要国やカナダなどが廃止に向けて舵を切る一方、日本では新設や増設が相次いでいます。特に問題視されるのは、日本がインドネシアなど東南アジア諸国での新たな石炭火力発電所建設にも多額の資金を提供している点です。「自国だけでなく他国の環境を破壊し、人々の健康を損なっている」と、厳しく批判しています。Japan,abigfinancierofnewcoalplantsinsoutheastAsia,isseenasanoutlieramongindustrializedcountries(東南アジアの新規石炭火力発電所の多額の投資家である日本は、先進国のなかで「アウトライアー」とみなされている:ロイター通信)financier:投資家outlier:部外者、異常値、アウトライアープライベートネタのてんこ盛りだった小泉大臣のスピーチおやおや?小泉大臣の評価とはずいぶんとトーンが異なります。「プレゼンスが高まった」と胸を張った日本への国際的な評価は、「部外者」「異常値」とまで言われているではありませんか!!さらに、国内で話題になった温暖化対策に後ろ向きな国に贈られる「化石賞」を日本が受賞したことでさえ、海外メディアはあまり大きく報じていないように感じました。むしろ、同じ「受賞国」のブラジルやオーストラリアのほうに注目が集まっていたようです。残念なことに海外メディアの報道を見る限り、COP25での日本のプレゼンス(存在感)は「高まった」どころか「たいして話題になっていない」というのが現実ではないでしょうか?長年、海外ニュースをウオッチしてきた感覚からは、ほぼほぼ「スルーされた」といった印象です。良くも悪くも「存在感なし」でしょう。それにしてもなぜ、小泉大臣は「日本のプレゼンスが高まった」とポジティブに受け止めているのでしょうか?国内では小泉大臣のCOP25でのスピーチが話題になりましたが、「日本の大臣としては久しぶりだった」と、スピーチや会見をしたこと自体を評しているメディアはありました。日本の環境政策が批判にさらされているなかで、逃げずにスピーチと会見をした小泉大臣の姿勢は「日本の政治家としてはめずらしい」ことかもしれません。ただ、その内容については、「asamillennialandfatherto-behesharedworldwidefearsoverclimatechange」(ミレニアル世代で近々父親になる立場として、気候変動に関する世界的な危機感を共有していると語った:ロイター通信)と、スピーチの一部を引用するだけで、残念ながら「良い」とも「悪い」とも評価していないのです。小泉大臣が「残念」なのは、「日本の政治家の常識」から抜け出していないことです。今回のスピーチでも「自分は若い」「来年父親になる」といったプライベートネタを盛り込み、脱石炭に向けて「政権内で孤軍奮闘している」とアピールしたようですが、海外の方々にとってはピンとこないでしょう。小泉大臣「僕は若いしパパになる」スピーチが残念なワケ「日本の政治家」としては若いかもしれませんが、国際的には38歳の大臣はめずらしくありません。フランスのマクロン大統領は39歳で大統領に選ばれていますし、最近もフィンランドで34歳の女性首相が誕生して話題になったばかりです。さらに「大臣が父親になる」こともフツーなこと。ニュージーランドでは現役の首相が産休を取ったくらいですから、わざわざ声を大にしてアピールするネタではないでしょう。私が小泉大臣のスピーチでいちばん「残念」に思ったのは、「政権のなかで孤軍奮闘している」アピールです。「自身の考えが政府内で広がっていない」ものの、「自分は変化に向けて取り組んでいる」と発信していましたが、「結果」よりも「姿勢」をアピールする「いかにも日本的」な思考回路です。「結果」が重視される海外では、「若い」とか「女性」とか「父親になる」といったことだけで評価されることはまずありません。たまに、「最年少で海外支店の支店長になった」「初の女性管理職に抜擢された」などと自慢する勘違いエリート駐在員がいますが、現地の人にとっては「だから、何?」と。最年少だろうが初の女性管理職だろうが、「で、何をしたの?」「実績は?」と問われるだけです。小泉大臣への海外メディアの評価は、中東のカタールに本社を置く衛生テレビ局アルジャジーラの、このひと言に尽きるでしょう。小泉大臣が将来の首相候補の一人だと紹介しつつ、次のように報じました。Hispoliticalfuturecouldbestakedonwhetherhecanpersuadetherestofhisgovernmenttoreversecourseoncoal.(彼の政治家としての将来は、石炭依存の政策を変えるよう政権内を説得できるかどうかにかかっている)まさに「お手並み拝見」といったスタンスが読み取れますが、小泉大臣の「プレゼンス」が高まるかどうかは、これからの彼自身の実績にかかっていることは間違いありません。小泉大臣には「日本の政治家の常識」を抜け出して、国際政治での存在感を増して欲しいものです。(井津川倫子)
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