2024年 4月 26日 (金)

突然のテレワークにアナタの会社は大丈夫? 「国の要請」は通用しない 残業代に交通費、情報漏えい......

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   新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、政府が「テレワーク」を推奨していることで、その注目度が増しています。

「会社に行かなくていい」
「意外と仕事がはかどる」

など、ネットでは歓迎のコメントも多く見受けられますが、

   なかには、

「残業代はどうなるのか?」
「交通費や家賃補助などはどうなるのか?」

といった、モヤモヤを抱えたまま仕事をしている人もいるようです。

   そもそもテレワークは、東京五輪・パラリンピックの開催期間中の働き方を見据えた取り組みということもあり、今後本格化されることに対する疑問や悩みが「前倒し」されて浮上してきたようです。

   今回はこちらのご相談を、グラディアトル法律事務所の「闘う弁護士」、磯田直也先生に聞きました。慌ててスタートした会社も少なくないようですが、やらなければならないことは満載です。

会社の準備、テレワークはすぐに始められるの?

闘う弁護士先生

●会社がテレワーク勤務を命じるためには、就業規則の作成などが必要になる

   労働基準法89条では、「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇」、「賃金の決定、計算及び支払の方法」について、就業規則を作成し、届け出なければならないと定められています。

   そのため、テレワークの導入に当たっては、就業規則にテレワークに関する規定を設けたり、就業規則とは別にテレワーク勤務規定を新たに作成する必要が出てきます。

   法律上、就業規則の作成が要求されていない場合でも、同様の内容について労使協定を結んだり、労働条件通知書で労働者に通知する必要があるでしょう。

   テレワークにおける労働時間は、これらの定めの中で明確にする必要があります。具体的には、会社のおかれている状況やテレワーク勤務者の仕事の仕方、業務内容によって、会社側で適切な労働時間制を選択していくことになります。

   また会社としては、テレワーク勤務であっても、従業員の労働時間を把握し、これを記録しておかなければなりません(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準、2001〈平成13〉年4月6日 基発第339号)。

●会社が残業代を支払ってくれない場合にはどうしたらいい? 

   まず、残業代の請求にあたっては、就業規則の定めを確認しましょう。

   テレワーク勤務の場合の残業代の請求においては、就業規則などにどのような労働時間制が採られているのか、を確認する必要があります。一例として、「事業場外みなし労働時間制」が採用されている場合であっても、仕事の量が多く、会社が定めた「みなし労働時間」を超えてしまう場合には残業代が発生することになります。

   ちなみに、「事業場外みなし労働時間制」とは、労働者の実働時間と関係なく、会社があらかじめ定めた1日の労働時間をその労働者の労働時間と「みなす」制度で、テレワークとは相性が良いと考えられています。

   会社側としても、残業代がどれくらい発生しているのかについては当然把握しておく必要があるので、時間外労働について事前に許可を取ったり、事後に報告したりすることが必要と思われます。

   未払いの残業代を争う場合には、実際に残業した証拠が必要になりますから、メールや電話によって労働時間の前後に報告を行うことや、勤怠管理システムに適切な入力を行うことが必要となるでしょう。

   つまり残業代の請求には、「証拠」が必要になるのです。

交通費の支給もあらかじめ「決めておくこと」

●自宅から営業先に出かけた場合、交通費はきちんと払われる?

   自宅から営業先への交通費は、社員への報酬(賃金)ではなく、本来は会社が負担すべき「費用」であるという理解ができます。

   どのような手段でもって出張の証明とするかは、会社によって異なるところですが、あまり厳格な手段を求めることに合理性はありません。会社ごとに事情は違うでしょうが、一般的にはSuicaなどの利用履歴であれば十分と考えられますし、会社もそれ以上を求めて余計な事務手続きを増やしても仕方ないのではないかと思うところです。

   最終的には会社の規定や判断次第ということになりますから、テレワーク導入時に会社と社員とのあいだで取り決めておくことが重要となります。

●現在受けている家賃補助は、そのまま払い続けてもらえる?

   家賃補助がある会社の場合、それも就業規則に定めが置かれています。家賃補助の減額や廃止は、就業規則の「不利益変更」になりますから、従業員の合意のない一方的な変更は労働契約法上認められていません。

   例外的に、変更内容に合理性があり、かつ従業員に対して周知がなされている場合であれば、合意のない変更も可能です。この合理性が認められるかは、「労働者の受ける不利益の程度」や「労働条件の変更の必要性」、「変更後の就業規則の内容の相当性」、「労働組合等との交渉の状況」などの事情を元に判断されることになります。

   テレワークの期間がどれくらい続くのか、会社にとって家賃補助を出さないとすることが会社にとって必要不可欠な変更と言えるのかなどが問題になりますから、社員にとっては家賃補助の廃止を当然に受け入れないといけないというものではない一方、会社としても家賃補助の扱いについては慎重な対応が必要になると考えられます。

テレワークでカフェを利用、コーヒー代は経費で落ちません!

●自宅にWi-Fiを繋いでいない場合、カフェやコワーキングスペースを利用した費用は会社に払ってもらえる?

   テレワークのために、カフェやコワーキングスペースを利用した費用が、経費として当然認められると思っている人は少なくないかもしれません。しかし、必ずしも認められるわけではありません。

   テレワークにおける費用負担が、通常の勤務とは異なるものになることは容易に想定されるところです。カフェやコワーキングスペースで作業した分の費用の他にも、自宅の通信回線費用や文具、備品、郵送費用や光熱費などで問題になるでしょう。

   これらの中には業務使用分と私的な使用分の切り分けが難しいものもあります。したがって、社員と会社のどちらが負担するのか、会社が負担する場合における限度額、社員が請求する場合の請求方法などについては、あらかじめ労使間でよく話し合い、就業規則などにおいて定めておくことが望ましいでしょう。

   セキュリティの観点から、会社以外でのネットワーク利用を制限する会社も多いと思います。利用しようとするカフェやコワーキングスペースでの作業が、そもそも許されているのかについても、併せて確認しておくべきということになります。

●うっかり情報を漏えいしてしまった場合、全責任は社員に負わされる?

   テレワークでは、社員が業務に関わる情報をオフィス外で利用することになります。 業務に関わる情報は、すべて会社にとって「情報資産」ですので、その管理には細心の注意が求められます。

   具体的には、通常の就業規則における情報管理や、セキュリティガイドラインなどに従った作業が求められる他、テレワーク勤務規定の中に、新たな定めがなされることが考えられます。

   在宅勤務の場合には、自宅以外での業務を禁止したり、カフェやコワーキングスペースを利用する場合でも、会社が指定する場所以外でのパソコンの使用を認めなかったり、公衆無線LANへの接続を禁止したりするなどということが考えられます。

   そのような規定に違反して会社の情報を流出させてしまった場合には、会社から懲戒を受けたり、会社に対して民事損害賠償責任が生じたりすることになるでしょう。

「国が言ったから、始めちゃった」では済まされない!

   このように、テレワークを導入する場合には就業規則等の整備が必要です。万が一、整備することなくテレワークが導入されている場合、ルールがないわけですから、労使のトラブルが起こりやすくなります。

   そして、何かトラブルが起こった際には、経営者や役職者が、そのたびに個別に対応を検討しなければならなくなります。

   たとえば残業代については、会社側に支払義務があるため、就業規則や労使協定がなくても所定労働時間を超えた分についてはあとから社員が請求することができます。

   テレワークに関する規定がないのであれば、労働基準法などの法律にしたがった支払いが必要となります。情報漏えいの場合などは、会社側は就業規則に違反しているという主張ができなくなりますから、会社としては懲戒処分や損害賠償請求を、裁判で争われた場合には大きく不利になるでしょう。

   就業規則などが整備されていないということは、社員にとって何が許されていて、何が禁止されているのかの判断ができないのみならず、会社としても、労働基準法などの法律に違反しやすい状態にあるということができます。

   テレワークの導入にあたっては、社員とのあいだで十分に議論を尽くしたうえで、会社の実情にそった規定を整備することが求められているといえます。


◆ 今週の当番弁護士 プロフィール

磯田直也(いそだ・なおや)
弁護士法人グラディアトル法律事務所所属弁護士
広島大学法学部卒業後、大阪大学大学院高等司法研究科修了。「交通事故」「労働」「離婚」「遺言・相続」「インターネットトラブル」などを得意分野とする。


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グラディアトル法律事務所
平均年齢30代前半の若手弁護士の精鋭集団。最新の法律知識やツールを駆使し、それぞれの得意分野を生かしながら、チーム一丸となって問題解決に取り組む。取扱分野は多岐にわたり、特殊な分野を除き、ほぼあらゆる法律問題をカバーしている。
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