2021年 5月 11日 (火)

リモートワークがもたらす日本型経営の崩壊 とはいえ、欧米式も「疲れる」「馴染まず」でどうする?(小田切尚登)

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   新型コロナウイルスによってビジネスパーソンの生活は一変した。最大の変化は在宅勤務が増えたことだろう。

   これについては、メリットを指摘する声が多いようだ。いわく、通勤時間が不要になる、自分のペースで仕事ができる、人間関係で消耗することが減るなどだ。ひと言で、ワークライフバランスが改善するということだろう。一方、企業側からすると必要なオフィス・スペースが減少する、遠方の人を雇うことが可能になるといったメリットが見込める。

   しかしながら、このような目先のメリットはあるものの、この変化は長い目で見ると日本企業に取り返しのつかない問題を引き起こしてしまうリスクがあるのではないか――。日本企業が長年培ってきた経営スタイルが、遠隔勤務の導入により破壊する恐れがあるからだ。きょうはこの問題について少し掘り下げてみたい。

  • コロナ禍で日本でもリモートワークは珍しくなくなってきたけど……(写真はイメージ)
    コロナ禍で日本でもリモートワークは珍しくなくなってきたけど……(写真はイメージ)
  • コロナ禍で日本でもリモートワークは珍しくなくなってきたけど……(写真はイメージ)

米国で「我が社」と言うのはオーナーだけ

   日本企業は世界にもまれな独自の企業文化をはぐくんできた。会社とは単に従業員に仕事をする機会を与えるだけの存在ではなく、家族のような濃密な人間関係をベースとする共同体となった。

   従業員にとっては安定的な待遇を得ることができるし、会社としては親身に働いてくれる労働力を確保できる。

   わが国では、勤め先のことを「わが社」「うちの会社」などと呼ぶのが一般的である。これには会社に対するプライドと帰属意識が反映している。米国ではマイ・カンパニー(わが社)というのは一般的には株主(オーナー)が使う言葉だ。米国企業の株主総会でCEO(最高経営責任者つまり従業員のトップ)が株主に向かってユア・カンパニー(あなたの会社)と呼びかけるのは恒例行事である。

   多くの日本人は、たとえ末端の従業員であってもモノやサービスを親身に提供するために頑張る。カネのために働いているというよりも、お客が喜ぶような商品・サービスを届けたいという素直な気持ちがそこにある。会社のためには恥ずかしい仕事はできない、という意識も働く。

   自動車、カメラ、工作機械をはじめ、多くの分野で日本企業が世界のトップクラスの地位を維持してきた。その最大の要因は、日本製品の質の高さにある。世界中から「日本企業の製品ならば安心」という高い信頼性を勝ち取っている。これについては、個々の企業努力ももちろんだが、元を辿っていくと日本という国の文化や伝統というところに行きつく。

ノーベル賞、田中耕一さんと中村修二さんの生き方

   日本企業の研究所に勤務する研究員が今までに何人もノーベル賞を取ってきたが、それにもそういう文化的な背景が影響している。たとえば、大学を出ただけで修士号もなくノーベル賞まで取ってしまった田中耕一さん。彼ほどの実績があれば年収が数倍かそれ以上のオファーが殺到してきたと思われるが、彼は今日までずうっと島津製作所で研究を続けている。

   彼はカネのためというよりも、おもしろい研究をするために、あるいは社会のために研究を続けるようにみえる。これはプロというよりもアマチュア的な発想だと思う。彼こそが日本のビジネスパーソンの理想を具現化した存在ではないだろうか。

   こういう態度は、シリコンバレーの億万長者からは理解されないかもしれない。ノーベル物理学賞を受賞した中村修二さんは「安月給で働かされる日本のサラリーマンはスレイヴ(奴隷)だとアメリカ人から言われた」として米国籍を取得して米国に渡っていった。中村さんは日亜化学との裁判でも高額の和解金を得て、富と名誉の両方を手にした。しかし、じつは田中さんのほうが中村さんよりも幸せかもしれない、と私はひそかに思っている。

   もちろん、日本的経営管理システムにも、いろいろと問題があることは言うまでもない。イノベーションが生まれにくい、女性の活用が進まない、国際化の展開が遅れている、といったことが挙げられる。

   特に昨今は日本経済が停滞ぎみであることが、ネガティブな評価に拍車をかけている。しかし、資源に乏しい東アジアの島国が数十年間世界のトップクラスの経済力を維持してきたことは驚異的なことであり、それを可能にした日本的経営は高く評価されるべきであろう。

欧米企業の大半が在宅勤務も生産性低下、「疲れた」

   ここで欧米企業のリモートワークの状況を見てみよう。もともとリモートワークは、欧米ではかなり広まっていた。2019年後半の時点で、すでに北米では3分の1程度、欧州では4分の1ほどの従業員がリモート勤務をしていた。欧米の企業は日本と異なり、基本的には職能的な集団であるので、従業員が物理的に一か所に集まることなく、それぞれが自宅で勤務するようになっても、それほど仕事への影響が大きくならないのではないかと思えるところだ。

   欧米企業の自宅勤務の実態について、Aternity社がさまざまな調査をしている。同社のデータによると、欧米の企業では新型コロナウイルスにより自宅勤務の割合が2020年3月半ばから急上昇していている。5月最初の2週間には、北米では約85%、欧州では76%がリモートで仕事をしていたという。つまり、大半の従業員が自宅勤務であるということだ。

   しかし、残念ながら生産性は顕著に下がっている。特にドイツとフランスでは55%も下がった。この低下の原因は複雑だが、とにかく疲れを訴える従業員が多いそうだ。また以前だったらオフィスで気軽に会話ができていたことも、オンラインだときちんと準備しないとならなくなり、手間が増えたといったこともある。

   リモートワークと親和性の高そうな欧米でさえこれだけ悪影響を受けるのだから、日本はより厳しい状況に置かれるであろうことは容易に想像できる。

   IT化の遅れなどの技術的な問題は早晩克服していくであろうが、日本の企業文化は組織の奥深く浸透しているものであり、それとの「相性」は容易に変えられるものではない。

できるか!「日本型経営+欧米式リモート」のいいとこ取り改革

   たとえば、意思決定の問題である。日本企業ではコンセンサスが重視されるため、根回しを重ね、落としどころを探るというプロセスが欠かせない。最終的な成果は、誰か個人のものに帰属するのではなく、皆のものとなる。そして、その前提として同僚同士の深い信頼関係が構築されている必要がある。そこで、飲みニュケーションやさまざまな社内の催し物などが重要となる。ZOOMのみでのつながりで、濃密な人間関係を作り上げるのは困難であろう。

   では、これを良い機会に、日本の古いシステムを捨てて、欧米式のやり方に変えられるか、というと、それはほぼ不可能だろう。

   企業文化が技術の発達や環境の変化に応じて変化していくべきであるということは正しい。しかし、「日本式経営スタイルを捨てる」というのは、日本企業にとって革命とも言える変化である。何事もそうだが、捨てるのは可能でも、新しいやり方を築き上げるのはそれに比べてはるかに難しく時間がかかる。

   日本的な良さを失ってしまい、その一方で欧米的なドライなシステムも作れずに、あぶはち取らずになって落ちこぼれてしまう、という最悪なシナリオにならないか、心配される。

   コロナ対策は待ったなしである。魔法のような素晴らしい解決策があるわけではなく、我々は与えられた条件の中で、何とかうまく適応していくしかない。今まで色んな環境の変化に融通無碍に上手に対処してきた日本企業なので、今回も私の心配を他所に上手く凌いでくれればと期待したいところだ。

   ZOOMやスカイプなどに向いたやり方を取り入れつつ、伝統的な日本的経営の良さも維持できるような、いわば「いいとこ取りの改革」ができるかどうか、注目していきたい。(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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