新型コロナウイルスの東京都の1日の感染者数が連日のように過去最高を更新して、日本全国でも累計で3万5000人超(2020年8月3日時点)にのぼるなか、東京都の小池百合子知事が再び飲食店などの営業時間制限や外出自粛を要請するなど、ふだんの仕事や生活に戻す動きがまた遠のいています。これは、もう「感染第2波」でしょう。経済活動に再びブレーキがかかっている今、中小企業の倒産も急増しています。今後もますます増えていく可能性が高いと思われます。会社も生き残りに懸命です。そうなると、懸念されるのがリストラ。業績悪化を理由に、減給や解雇を命じられることがあります。しかし、それは法的に問題ないのでしょうか?会社に雇われている労働者は経営者の言うことを聞かないといけないのでしょうか?そこで、今回は業績悪化による会社で起きるトラブルについて、闘う弁護士、グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。「減給」「解雇」には労働者の同意が必要になる業績が悪化したからといって、当然に「減給」や「解雇」が認められるわけではありません。まず、「減給」ですが、労働者の合意がない限り、業績悪化を理由とする減給は、原則認められていません(労働契約法8条)。そのため、もし会社が従業員の給与を減らそうとする場合、会社は各従業員に対して給与を減らさざるを得ない理由(単に業績が悪化したからでは不可)を十分説明したうえで、従業員の同意をもらう必要があります。ただ、「原則」としたとおり、これには就業規則による変更という例外があります。就業規則とは、簡単にいうと会社が決めたルールを記載したもので、従業員はこれに従うことになります。この就業規則であれば、一定の場合、各従業員の同意がなくても減給ができる場合があります。労働契約法9条では、本文にて、「使用者は,労働者と合意することなく,就業規則を変更することにより,労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」とし、就業規則による一方的な減給ができないとしつつも、同条のただし書で、「次条(10条)の場合は,この限りではない」とし、一方的な減給ができることがあるとしています。具体的には、(1)変更後の就業規則を周知させているか(2)変更により被る不利益の程度はどれくらいか(3)変更が必要であり,変更内容が相当か(4)労働組合などとの交渉状況はどうか(5)その他の事情はどうかなどを総合的に判断して、変更が合理的と言える場合に、就業規則による減給が認められることとなります。そのため、コロナによる業績悪化の事情だけでなく、たとえば減給の額が少額であったり、期間が限定的であったり、各労働者や労働組合との話し合いが十分なされているなど、基本的に合理性に適う事情が必要となります。労働者が解雇されても「特別扱い」はない!?次に「解雇」ですが、解雇が認められるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる必要があります(労働契約法16条)。具体的には、(1)人員削減が必要か(2)解雇回避の努力をしたか(3)人選は合理的か(4)解雇手続きは妥当かといった要素を総合的に考慮して判断されることとなります。そのため、たとえコロナ禍の影響により業績が悪化していたとしても、それだけを理由に従業員を解雇することはできず、会社を維持するためには、どうしても従業員を減らす必要があったり、各種コロナ関連の助成金を活用しても、なお会社を維持できなかったり、従業員に十分説明したうえで、解雇する人の選定基準などを策定。そのうえで、その基準に従って解雇したりするなどの努力が必要となります。では、政府からの会社で働く従業員向けの補助金を申請している最中に倒産したら、その補助金のゆくえはどうなるのでしょうか?時間がたてば従業員はもらえるものでしょうか?たとえば、今回のコロナ禍で政府は業績悪化の会社に、一定の要件を満たした場合に従業員の休業手当を助成する「雇用調整助成金(コロナ特例)」を支給して、雇用維持を図っています。しかし、助成金は会社に対して支払われるため、従業員が直接その助成金をもらうことはできません。また、助成金を申請していた会社が、その途中で倒産した場合に、その助成金がどうなるかは、助成金の目的や性質によって異なってくるので、所管の官庁での判断になると思われます。◆今週の当番弁護士 プロフィール井上圭章(いのうえ・よしあき)グラディアトル法律事務所所属九州国際大学法学部卒業後、京都産業大学法科大学院修了。「労働問題」「男女トラブル」「債権回収」「不動産トラブル」などを得意分野とする。労働問題に関する相談(https://labor.gladiator.jp/)。
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