イラストレーターの、るるてあさんが創作した赤ちゃんペンギンのキャラクター「コウペンちゃん」が大人気だ。「かわいい」「ほっこりできる」と、当初こそ20~30代の女性ファンが多かったが、いまや小学生から働き盛りの男性まで幅広い人気を得ている。そんなコウペンちゃんのライセンスを管理し、商品化の窓口となっているスパイラルキュートの川上洋一社長が、コウペンちゃんの発掘秘話を語った。「自分をほめてほしい」「肯定してもらいたい」現代人に刺さる1兆5330億円(2018年1~12月、キャラクターデータバンク調べ)にのぼるキャラクター小売り市場に、異変が起こっている。ツイッターやインスタグラム、YouTubeなどのSNSから生まれるオリジナルキャラクターが続々と登場。個人が趣味で描いたイラストがSNSで拡散され、その人気が一気に広がっていくのだ。「コウペンちゃん」もその一つ。2017年4月4日、「出勤してえらい!」というセリフとともに描かれた1枚のコウテイペンギンの赤ちゃんのイラストを投稿した、作者のるるてあさんのツイッターはその日のうちに爆発的に拡散して、7万人のフォロワーがついた。10月現在、約34万9000人ものフォロワーがいる。コウペンちゃんが誕生したきっかけを、るるてあさんはこう教えてくれた。「以前から趣味で絵を描いてツイッターに載せていたのですが、『せっかくだから、もっとたくさんの人に見てもらって、喜んでもらえるものを描いてみよう』と思い、試行錯誤を始めました。4月ごろだったので、『環境が変わって気持ちが落ち着かない人も多いだろうな』と感じていたので、『自分だったらどういうことを言われたいか』『どんなセリフならうれしいか』と考える中で、コウペンちゃんが生まれました」コウペンちゃんは、日常のささいな行動を、すべて肯定して全力で褒めてくれる。「肯定」ペンギンの意味合いもあり、コウペンちゃんの言葉の一つひとつが、「自分にくれる言葉」のように思えてくるところが、老若男女を問わず、多くの人にウケている。コウペンちゃんは「どこにでもいる存在です」スパイラルキュートの川上洋一社長は「コウペンちゃんは、男性ファンが増えています」と話す。コウペンちゃんのライセンスを管理し、商品化を後押しするスパイラルキュートの川上洋一社長は、「コウペンちゃんはいっぱいいて、どこにでもいる存在です」と話す。忙しい現代社会にあって、人とのコミュニケーションがうまくとれなくなり、これまでは何事もなかったことが気になったり、意思疎通が上手にできずにイライラ、ぎすぎすしたり。さらにはコロナ禍のテレワークで孤立感を覚えたりと、微妙に「空気」が変わってきた。そんなとき、コウペンちゃんの「ちゃんと起きてえらい!」「ごはんたべたの?えらい!!」「きょう一番がんばったのはあなたです!」といったひと言が胸に刺さる。それがなんだか、ちょっとうれしくもあるのだ。「当初は20~30代の女性が中心でしたが、最近は原画展などのイベントには男性の来場者も珍しくなくなりました。コウペンちゃんの言葉の力だと思いますよ」と、川上社長はみている。るるてあさんは、「同じセリフの絵を何度も描くこともあります。特別なことをしなくても、今当たり前のように生活していることが、それだけで頑張りの積み重ねで成り立っているものだと思っています。なので、フツーだと思われる、当たり前のことは何度でも描き直していきたいです」と意気込む。SNSで激変したキャラクター発掘の手法スパイラルキュート社は、「おさわり探偵なめこ栽培キット」や「コップのフチ子」、「ふなっしー」などの大ヒットキャラクターを数多く手がける。川上社長は、キャラクターの「目利き」のプロだ。「コウペンちゃんはもともとポテンシャルの高いキャラクターでした」と話す。見る人を応援し、共感や癒やし、元気づけてくれる存在は、「現代に合っていた」とも言うが、ツイッターのフォロワー数や寄せられるコメントの勢いは凄まじかった。川上社長は、「SNSの登場で、キャラクターの発掘手法が大きく変わった」と言い切る。「(キャラクターの発掘は)ぼくの選球眼がいいわけじゃないんですよ。センスを『経験の蓄積』だとすれば、それは経験値で判断しているとかし言いようがありません。ただ、ぼくはキャラクターを、ずうっと見てきました。キャラクターに真摯に向き合い、キャラクターをよく知ることでわかってくる。だから、自信はありますよ」と明かす。そして高いポテンシャルを秘めたキャラクターは、すでにSNSの中にいる。多くのファンがついているのだ。「うちのような小さな会社がヒットを手掛けられるのも、SNSのおかげですね(笑)。うちが取り組んでいることは、きめ細かに、そのファンが求めている日々の情報を探り、提供していくことで、大きな波をつくり出していくことです」。コウペンちゃんがNintendoSwitchに登場そうしたなか、モバイル、インターネットサービスを手がけるネオス株式会社(東京都千代田区)が開発を手掛けた、コウペンちゃん初となるNintendoSwitch用ゲームソフトの「いっしょにあそぼ~♪コウペンちゃん」が2020年9月24日に発売された。古民家カフェを舞台に気ままに過ごすコウペンちゃんたちと一緒にお話したり、彼らのお手伝いをしたりしながら、何気ない日常を体験していくストーリー。コロナ禍のなか、自宅で家族や友だちと対戦したり、協力したりして遊べるミニゲームや、キャラクターたちとの会話を通じたイベントやミッションが充実しており、ミッションを達成するともらえる「はなまるスタンプ」をためると、オリジナルストーリーの「とくべつなおはなし」を見ることもできる。コウペンちゃんはゲームの中でも、「明日は今日よりいいことあ~る!」「ぼくも近くでおうえんしてるね!」「きみはがんばったしきっと何とかなるからね~!」と、コロナ禍にあっても成果を求められている働く大人たちを、肯定して、癒してくれる。大人気のコウペンちゃんに癒される(画像は、NintendoSwitch「いっしょにあそぼ~♪コウペンちゃん」より)(c)neosゲームソフトを制作した、ネオスの制作チームが大切にしたのは、そんなコウペンちゃんが醸し出す、ゆる~いほっこりした雰囲気だった。「コウペンちゃんの世界を忠実に表現する、そこに苦労しました。水彩画のやわらかさ、やさしさをゲームに、どう表現していくか。それに尽きますね」と話す。るるてあさんのイラストの世界観を崩さないこと。これが商品化するうえで、「絶対に必要なことです」と、川上社長も続ける。コウペンちゃんの今後の展開を、るるてあさんは、「私にできることは何か新しく始めることよりも、キャラクターの誕生からほぼ毎日続けているツイッターへの投稿を、今後もずっと続けていくことが一番なのかなと思います。流行りものとしての『好き』ではなく、見てくれる人の生活や気持ちに溶け込んでくれればいいなと思います」と語る。
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