人の在宅勤務をのぞき見て、ひとりワークの孤独感がやわらぐ

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   テレワークのやり方を説明した「テレワークの教科書」的な本がいろいろ出ている。でも、少し食傷ぎみなところもある。テレワークが続いている会社もあるが、なし崩しに元に戻った会社も少なくないからだ。

   しかし、2020年11月27日に東京都で過去最多の570人の新型コロナウイルス感染者が発生するなど、第3波の到来が現実味を帯びてきた。再び、テレワークを導入する会社が増える可能性も大きい。

   本書「テレワークの達人がやっているゆかいな働き方」は、ビデオ会議、チャット、リモート飲み会などをネタに「インターネット界の奇才」が放つ100を超える裏ワザを紹介した本だ。真面目一辺倒な本ではない。

・会議中にかぎって宅配便がくる。
・散歩しながらビデオ会議に参加する。
・打ち合わせって短パンで行って良いんだっけ、と本気で悩む。

   そんな後世に伝えたい、テレワーク黎明期の珍プレー好プレー集、と言っていいかもしれない。

「テレワークの達人がやっているゆかいな働き方」(林雄司著)青春出版社
  • 「テレワーク疲れ」なんて言葉も……
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「昭和な作り方」のネットメディア編集長

   著者の林雄司さんは、デイリーポータルZ(DPZ)編集長であり、シリーズ累計150万部のベストセラー「死ぬかと思った」の著者。富士通グループのシー・サーチに入社。インターネット黎明期の1996年に個人サイト「東京トイレマップ」などを立ち上げ、話題になった。その後、ニフティに転籍後、DPZを立ち上げた。月間最高2000万PVの人気メディアになった。2017年、東急グループのイッツ・コミュニケーションズに転籍。会社員でありながら多岐にわたる活動を続けている。

   DPZの編集部は6人、契約ライターは50人を超えるが、2020年3月以降、完全なテレワーク体制になった。ネットのメディアでありながら、対面で話したり飲みに行ったりする「昭和な作り方」だったので、テレワークには戸惑ったという。

   本書にはうまいやり方だけでなく、失敗が数多く載っている。それらを笑い飛ばしながら、テレワークで鬱屈した気分を柔らかく解きほぐす効果があるかもしれない。

   本書の構成を紹介した後で、テレワークを続けていた評者がうなずいたり、へえーと思った「あるあるネタ」を取り上げたい。

巻頭 つい人に話したくなるテレワークあるある事件簿BEST30
第1章 あ~よかったなテレワークになって
第2章 ここが大変だよテレワーク
第3章 ルームウェアと仕事着の境界線
第4章 ビデオ会議では何を隠し、何を映すべきか
第5章 ITリテラシーを高め、生産性を上げる達人の裏ワザ
第6章 リモート飲み会のピークを過ぎても
第7章 久しぶりの外出!世界はこんなにまぶしかった

テレワークあるある事件簿

   最初に登場するのが「会議中にかぎって宅配便がくる」というネタだ。「1日にミーティングが1時間しかない日でも、その時間を狙って宅配便がやってきます」とボヤいている。

   評者はビデオ会議とは無縁だったが、家で仕事をしている時、宅配便の多いことに驚いた。自分で注文しておいて、「驚いた」もないが、外出自粛時、ついついネット通販で買い物をしてしまう。これまでは会社に行って「不在通知票」を受け取るばかりだったが、在宅しているので、ジャージや短パン姿で玄関に向かうことに。まったく宅配便のドライバーには感謝するばかりだ。

「いつのまにかAmazonで買い物している」

   おっしゃるとおりです。

   「リモート飲み会は2回やれば十分だ」には、大いにうなずいてしまった。最初は盛り上がった。家にいて飲み会が出来るのだから便利だ。安いし、帰りの電車を気にすることもない。つい、深酒してしまった。「まあ、いいや」。評者も2回参加したところで、その後お呼びがかからなくなった。他の参加者も同じ思いだったのだろう。

   林さんは、こう書いている。

「『あれはなんだったんだろう......』という気持ちは否めません。酸素バーやキャベツ畑人形と同じものとして後世、語られるんじゃないでしょうか。まず、全員がこっちを向いている飲み会、そんなホラーなシチュエーションはありません」

   「テレワークになって、よかったな」で共感したのは、「昼に近所の景色を見て驚く」ことだ。近所のスーパーで昼に買い物は出来るし、公園を散歩出来る。自分はこういう街に住んでいるという実感を初めて強く持つことが出来た。地元への愛着が沸いた。

「通勤の2時間がなくなってもそんなに生産性は上がらない」

   まあ、そんなもんですね。会社までの往復の時間は、ある意味「自由時間」だった。林さんは「むしろ、本に至っては、通勤時間で読んでいた時間がなくなって読書時間が減りました」と書いている。

テレワークに有効なノウハウも

   もちろん、テレワークに有効なノウハウも書いている。「カメラ目線で話したいならモニター上部を見るべし」「ホワイトボードはリアル会議と同様に使える」などなど。

   だが、基調にあるのは笑えるようなおかしなことをした2020年のすべてのテレワーカーへのエールだ。

「2020年に生まれた知恵や習慣のなかには、テレワークの標準になるものもあるでしょう。電話に出たときに『もしもし』と言う、みたいな」

   人の在宅勤務をのぞき見て、ひとりワークの孤独感がやわらぐという効用がある。

「テレワークの達人がやっているゆかいな働き方」
林雄司著
青春出版社
1400円(税別)

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