高齢者や認知症の方など、普段は周囲に「支えられる」機会の多い方が、地域や地域に根差すスポーツチームを「支える」存在になるというプロジェクト「Besupporters!」を、サントリーウエルネスが手掛けている。シニアと社会をつなぐこのウェルビーイングな活動はどうして始まり、どんな思いを持って取り組んでいるのか。また、サプリメントを販売する会社が、どうしてこのような活動に取り組むのか――。サントリーウエルネス・メディア部「Besupporters!」企画推進リーダー吉村茉佑子(よしむら・まゆこ)さんに話を聞いた。高齢者施設のみなさんに、チームを支えてもらう! イニエスタ選手を応援するため、外国語学ぶ人も――サントリーウエルネスでは、高齢者や認知症の方が、イキイキと自分らしく生きることをサポートするプロジェクト「Besupporters!」を推進しているそうですね。どのような内容でしょうか。吉村茉佑子さん「『BeSupporters!』というプロジェクトは、サッカーJリーグの複数クラブと連携して、普段は『支えられる』ことの多い高齢者や認知症の状態にある方が、地域のサッカークラブの『サポーター』となることで、クラブや地域を『支える』存在になっていくことを目指す――そんな取り組みです。2020年12月から始めました。私は2021年の夏から、このプロジェクトの企画推進をリードしています。具体的には、高齢者施設の職員さんにご協力いただいて、施設で実施する試合観戦に向けて、利用者さんの選手への『推し活』をサポートしたり、選手との交流会をしたりするなどの一連のプログラムを提供しています」――こうした取り組みによって高齢者自身や介護の現場で、どのような変化がありますか。吉村さん「たとえば、心身のつらさから、それまで『死にたい』が口癖だった方が、サッカーの応援を通じて、だんだんと前向きになって、ネガティブな発言が減っていったり、『推し』の外国人選手(ヴィッセル神戸のイニエスタ選手です)を応援するために外国語を学んだ利用者さんもいました。利用者さんたちが笑顔になるだけでなく、それを支える施設の職員さんたちも明るくなり、介護の実習に来る学生さんが『この施設で働きたい』と思ってくれるようになるなど、周りにも良い影響が現れています」――好循環が生まれているのですね。吉村さん「この取り組みから分かってきたのは、年を重ね、高齢者施設に入ったからといって、好奇心が薄れるのではないということ。みんな、何歳になってもワクワクやときめきを感じたいと思っているんです。施設に入ってから、高齢者が地域とのつながりが薄くなってしまうことが多くなってしまっていたのが、つながりが増えたり強まったり、新しいつながりが生まれるなどの効果もでています」――御社がこのプロジェクトを始めたきっかけはなんだったのでしょうか。吉村さん「当社が提供する健康食品は、病気の予防として利用している方がほとんどですが、社長の沖中直人は2020年の就任当初から、超高齢化が進む人生100年時代では、病気の予防だけでなく、病気との『共生』に真剣に向き合う必要があるのではないか、と感じていました。サントリーの社是には『人間の生命の輝きをめざして』という言葉がありますが、健康はあくまでも手段であって、大切なのは心がワクワクとして自分らしく輝いて過ごすことなのではないか、と考えていたのです。ちょうどその頃、『注文をまちがえる料理店』や『deleteC』などのプロジェクトで知られる元NHKプロデューサーの小国士朗さんがこの企画を構想として持っていらっしゃり、小国さんと交流のあった沖中がそれに賛同するかたちで、このプロジェクトが立ち上がりました」このプロジェクトは『絶対やりたい!』...社長や関係者に直談判、吉村さんの熱い思い敬老の日の特別企画「人生の先輩からのエール」では、施設で過ごすみなさんが横断幕にメッセージを寄せた。写真は、FC町田ゼルビアの横断幕。選手もサインを入れた――吉村さんご自身は、学生時代は食品やアルツハイマー関係の研究をしていたとか。どのような経緯でサントリーに入社したのでしょうか。吉村さん「私はとてもおばあちゃん子で、小さい頃は、祖母が風邪をひいただけで、心配になり、大号泣することもありました。そんなこともあり、シニア世代が悲しまないように貢献できないか、と大学では生物科学系の研究、大学院でアルツハイマー病に関する研究を選びました。一方で、厳しい研究を続けてもなかなか答えが見えないことへの限界も感じていて、目の前の誰かが喜んでくれることをしようと企業への就職を決めました。サントリーは文系総合職で受けた唯一の企業ですが、面接を受ける前から、なぜか『絶対にいける』という自信がありました。実際にサントリーウエルネスに配属になって思うのは、学生時代に学んできたことは、まさに当社の事業領域に直結する内容だったということです」FC町田ゼルビアにエールを送った高齢者施設のみなさん――「Besupporters!」の企画についても、自ら手をあげて参加したのでしょうか。吉村さん「ええ。社内で、『Besupporters!』の企画の話を聞いた時に、『絶対にやりたい!』と思いました。小国さんと一緒に仕事をしたいと思いましたし、日ごろから新しい世界観をつくる仕事がしたいと思っていましたから。そして、会社が社会のために目指すことが私自身の自己実現にも通じると感じたからです。そこで、社長の沖中や、もともとプロジェクトを進めていたチームの方たちに『Besupporters!やりたいです!』と伝えるなどして、周りから固めていきました。当時、私はコールセンターでの業務に就いていたのですが、最初は兼職で始めて、2021年夏からこのプロジェクトの専任になりました」ヴィッセル神戸の選手たちに「命つきるときまでサッカーを楽しみなさい」とエールを送る107歳の竹本さんカターレ富山の応援のため、スタジアムに駆け付けたみなさん――プロジェクトを推進するにあたって、大変だったことはありますか。吉村さん「この取り組みが始まった時期は、まさにコロナ禍の真っただ中で、最初やりとりは全てオンラインでした。富山にある高齢者施設の職員さんに、オンラインでカターレ富山の応援状況をヒアリングして、内容を改善しながらプログラムを固めていきました。富山で、導入してくれる施設数や参加者が増えて、そこで認知されたことでだんだんと他の地域にも広がってきました。0から1を生み出さなくてはいけなかったので、どうなるかわからないという不安があり、ある程度形になるまでは、暗闇の中を懐中電灯なしで歩いている感じでした。そんななかでも、このプロジェクトがここまで形になったのは、まさにサントリーの『やってみなはれ』の精神のおかげだな、とつくづく思います」――将来、どのような取り組みをしていきたいのでしょうか。吉村さん「今年9月の敬老の日に合わせて、全国の10のJリーグのクラブと協働して、『人生の先輩からのエール』という特別企画を行いました。合計で74の施設1434人のみなさんから、クラブや地域への力強い応援メッセージが集まりました。こうして集まったメッセージは、クラブごとに横断幕にして、敬老の日に近いホーム試合で掲出しました。今後はこうした取り組みを、他の地域にも拡大していきたいと思っています。最近、健康寿命という言葉を聞きますが、私たちがもう一つ大切にしているキーワードは『幸福寿命』です。健康であってもなくても、毎日をイキイキと自分らしく過ごせるようになってほしい。その取り組みとしての『Besupporters!』の活動をこれからも推進していきたいと思っています」――ありがとうございました。(聞き手:戸川明美)
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