2024年 5月 5日 (日)

「生涯現役」へ整備 65歳定年の企業が増えたが、「合理性」めぐって待遇格差でトラブルも...

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   定年を65歳とする企業が増えている。

   厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告 2022年」によると、65歳定年の企業は全体(23万5875社)の22.2%を占める5万2418社で、前年から1.1ポイント増えた。このうち、中小企業は22.8%で1.1ポイント、大企業は15.3%で1.6ポイントの増加だった。2022年12月16日の発表。

   その一方で、退職前に示された勤続延長や再雇用時の業務内容と労働実態がかけ離れていることを起因とする給与や待遇格差が発生。トラブルになり、訴訟に進展するケースもあるという。

  • 高年齢者雇用の状況とは(写真はイメージ)
    高年齢者雇用の状況とは(写真はイメージ)
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どう埋める? 年金受給開始までの「5年間」

   高齢者の継続雇用制度は、定年後に労働者が希望した場合に雇用を継続できる制度だ。少子高齢化の進展で医療や年金財政が厳しいことから、いわゆる年金法の改正で、年金開始年齢が60歳から段階的に65歳まで引き上げられた。

   ところが、多くの企業の定年が60歳であることから、定年から年金開始までの5年分の収入を埋めなければ、定年後の生活が立ちいかなくなる恐れがでてきた。

   「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」は、高齢者が長く働き続けることができる「生涯現役社会の実現」を目指して、企業に(1)「継続雇用制度の導入」(高年齢者雇用確保措置)(2)「定年の引上げ」(3)「定年制の廃止」のいずれかの措置を、65歳まで講じるよう義務付けている。

   さらに2021年4月1日からは、これらの措置を70歳までを対象とすることや、業務委託契約の導入や社会貢献事業に従事できる制度の導入(高年齢者就業確保措置)という雇用以外の措置のいずれかを講じることを努力義務とした。

   厚生労働省は、こうした「高年齢者の雇用等に関する措置」について、従業員21人以上の企業23万5875社(21~300人規模の中小企業:21万8785社と301人以上規模の大企業:1万7090社)を対象に、今年6月1日時点での取り組み状況を調べた。

   調査によると、65歳までの高齢者の雇用確保措置を「実施済み」と答えた企業は、23万5620社で全体の99.9%。前年から0.2ポイント増えた。企業の規模別にみると、中小企業が99.9%で0.2ポイントの増加。大企業は99.9%で、前年から変動はなかった。

   高齢者の雇用確保措置を「実施済み」と報告した企業を内容別にみると、「定年制度の廃止」は9248社で全体の3.9%を占め、前年比0.1ポイントの減少。「定年の引上げ」は6万37社で25.5%。1.4ポイント増加した。また、「継続雇用制度の導入」は16万6335社で70.6%と多く、前年比で1.3ポイントの減少となった。

   65歳以上の「継続雇用制度の導入」を行うことで、雇用確保措置を講じている企業(16万6335社)を対象に、継続雇用制度の内容を見ると、希望者全員を対象とする制度を導入している企業は83.0%にのぼった。前年比で2.1ポイント増えた。

「65歳定年」5万2418社、「定年廃止」は9248社

   報告のあった23万5875社のうち、66歳以上まで働ける制度のある企業は9万5994社で、全体の40.7%とほぼ半数にのぼった。前年から2.4ポイント増えている。詳しく見ていくと、中小企業では41.0%を占め、2.3ポイントの増加。大企業は37.1%で、3.0ポイント増えた。企業では着実に制度整備が進んでいるようだ。

   さらに、70歳以上まで働ける制度のある企業は、9万2118社で全体の39.1%となっている。前年比で2.5ポイントの増加だ。内訳は、中小企業は39.4%で、2.4ポイント増。大企業では35.1%で3.0ポイント増えた。

   一方、「65歳定年」の企業は5万2418社。全体の22.2%で、前年比で1.1ポイント増えた。中小企業は22.8%で1.1ポイント、大企業は15.3%で1.6ポイントの増加だった。

   また、「定年制を廃止している」企業は9248社。全体の3.9%を占め、0.1ポイント減った。「定年を66~69歳とする」企業は2624社で全体の1.1%(前年からの変動はなし)。「定年を70歳以上」とする企業は全体の2.1%を占める4995社で、前年から0.2ポイント増えた。

   これを企業の規模別にみると、中小企業では「定年制を廃止」の企業は4.2%(前年比で変動なし)、「定年を66~69歳」とする企業は1.2%(変動なし)、「定年を70歳以上」とする企業」は2.2%で前年比0.2ポイント増えた。

   また、大企業は「定年制を廃止」している企業が0.6%(変動なし)、「定年を66~69歳」の企業は0.2%(変動なし)、「定年を70歳以上」とする企業は0.6%で、前年比0.1ポイント増えている。

「不合理な差別」のボーダーライン、どこに?

   そうしたなか、雇用延長や再雇用した社員と正社員との待遇格差がトラブルになるケースが少なからず起こっている。労働基準監督署などへの労働相談も「ここ数年で増えてきているように思います」と、ある相談員は言う。

   高齢者の継続雇用制度には、社員を定年退職させることなく、そのまま継続して雇用する「勤務延長」と、定年に達した社員を一度退職させ、その後新たに雇用契約を結ぶ「再雇用」の2通りがある。

   勤務延長制度の場合、定年に達しても、そのまま雇用契約を継続するので、給与などの労働条件は変わらない。

   再雇用制度は、定年に達した時点で退職となるため、いったん退職金を支給し、その後新たに雇用契約(多くの場合が契約社員、嘱託社員)を結ぶため、給与などの労働条件が変更される。多くの場合が「6割支給」「5割支給」と減額されている。

   トラブルの原因の多くは、働き方と業務内容で生じる。勤続延長した社員や再雇用で有期契約を結んだ60歳定年を迎えた社員に、正社員と同じ業務内容なのに給与や待遇の格差があることへの不満だ。

   前出の相談員は、

「とくに中小企業では、『管理職』の肩書を外したことを理由に給料を下げることがありますが、それにもかかわらず、与えられた仕事や責任は管理職のときと変わらないなどの、辞める前に示された業務内容と労働実態がかけ離れているとの訴えが少なくありません」

と話す。

   最近は退職金制度がない企業もあり、「転職先を探すのが面倒だったり、(退職金がないことで)仕方なく働き続けたりする人もいます」(相談員)。ただ、こうしたトラブルはケース・バイ・ケースなので、「(違法性の)判断はなかなか難しいです」。判断材料は、その待遇格差に合理性があるかどうか、にあるそうだ。

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