企業だけでなく、私たち個人にも「長期戦略」が必要だ。本書「ロングゲーム」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、個人にとって「長期的な思考」の重要性を説いた一冊。副題は、「今、自分にとっていちばん意味のあることをするために」。「世界のトップ経営思想家50人」に選ばれたアメリカの経営学者による日本初の本である。「ロングゲーム」(ドニー・クラーク著、伊藤守監修、桜田直美訳)ディスカヴァー・トゥエンティワン著者のドニー・クラークさんは、デューク大学フクア経営大学院とコロンビア大学ビジネススクールのエグゼクティブ教育コースで教鞭を執る。2年に1度発表される、世界で最も影響力のある経営思想家ランキング「Thinkers50」に2019年、21年ランキング入りした。オンラインの仕事のおかげで、コロナ禍に打ち克つ 「長期戦略」が功を奏す著者は2013年に最初の本を出版してから、講演の依頼を受けることが多くなった。世界中を飛び回る中で、もっと長い目で見た人生の計画を立てたいと思うようになった。答えはわかっていた。「実際にその場にいなくてもお金を稼げる方法」を見つけることだ。つまり、「自分の時間を売ってお金を稼ぐ」のをやめればいい。そこで始めたのが、オンラインコースの仕事だった。そのころはパンデミックのことは予想もしていなかった。そしてコロナ禍。「長期の思考」で準備を重ねてきたからこそ、オンラインコースのおかげで、最悪の業績になってもおかしくなかった1年を、最も成功した1年にすることができたという。「長期の思考」があれば、危機のときに助けになる。「長期の思考」は、最も大切な目標に向けて歩む力になるという。本書は、「余白」「集中」「信念」の3つのパートに分かれている。最初は「余白」だ。忙しく仕事をしていると、それだけで成功の道を進んでいるように感じてしまう。しかし、間違ったことを優先してしまっている可能性もある。著者は「忙しさ」の定義を考え直すよう提案している。「忙しい人」は、「仕事ができる人」ではない。むしろ、「自分のスケジュールさえコントロールできない人」だと。そう考えれば、忙しさの魅力も半減するだろう。本当に大切なことを中心にスケジュールを組む。やろうと思えば、仕事はいくらでも増やすことができる。だから自分なりの境界線をきちんと決めなければならない。「ノー」と言うことの重要性を説いている。他人の要求ばかリ応えていると、スケジュールがぐちゃぐちゃになるからだ。自分が本当にやりたいものにだけ「イエス」と言おう。依頼や要求を選別するいい方法は、「相手にさらに情報を求めること」だという。多くの人はそこで脱落する。人にものを頼む前にきちんと下調べができないなら、こちらも依頼に応える必要はない。自分の「興味」に最適化これで、「余白」ができた。正しいゴールはどこにあるのか。時間とエネルギーをどこに「集中」するのがベストなのか。著者は「お金」に最適化するのではなく、自分の「興味」に最適化することが大切だという。さらに、グーグルの「20%ルール」を引き合いに、自分の時間の20%を使って、新しい分野に挑戦することを勧める。20%は、その分野が自分に合っているか、大きな可能性を秘めているかを知るには十分な時間だ。一方、うまくいかなくても悲惨な結果になるほどの時間でもない。10年単位で考えることだ。まわりが数カ月単位や数年単位で考えているなら、10年単位で考える人は、それだけでかなり優位に立てる。10年、あるいはそれ以上たったころには大きな成果を上げているだろう。すべてをやることはできない。そこでキャリアを「波で考える」ことが役立つという。1学ぶ 目指す分野について学んで知識を身につける2創造する 自分のアイデアを創造して世の中に伝える3つながる 同じ分野の人たちと積極的につながる。彼らから学び、自分も貢献する4収穫する 自分の分野である程度の地位を築いたら、努力の結果をゆっくり楽しむネットワークづくりには、抵抗を感じる人も少なくないのではないか。そこで、著者はこんなアドバイスをしている。「新しく知り合った人に対しては、最低でも『最初の1年は何も頼まない』。そうすれば互いに関係を築き、相手を利用するつもりはないという意志を伝えることができる」ロングゲームには、孤独、イラ立ちなど、やっかいな問題が付き物だ。「信念」を貫くには、「戦略的忍耐」が必要だという。一流のエキスパートと認められるまでには、最低でも5年は努力しなければならない。結果が出なくて意気消沈したときは、自分に次の3つの質問をして、最初の目的と戦略を思い出そう。「なぜ自分はこれをしているのか?」「ほかの人はどうやって成功したのか?」「信頼できる人は何と言っているか?」うまくいかなかった計画を別の計画に生かしたり、その計画で培った人間関係、費やした時間、完成させた仕事などを、ほかの方法で活用したりすることもアリだ。「長期の思考」を身につける4つのポイント最後に、あらためて「長期の思考」を身につける方法を次のようにまとめている。・小さく始めること・目標を達成するために必要な適切な時間を知ること・仕事に使う時間を制限する・ほかの人よりも長い時間軸で計画を立てる著者は自分の本を出すまでの5年間、表面的には何の進歩もなかったそうだ。しかし、最初の本を出してから5年ほどたった今、彼女は数百万ドルの売上を誇るビジネスをもち、2つの国内トップのビジネススクールで教授に就任し、著作が11カ国語に翻訳されている。さらに、ブロードウェイにも出資し、スタンダップコメディアンとして自分も舞台に立ち、グラミー賞を受賞したジャズアルバムのプロデューサーでもある。こうした実績が本書の記述に説得力を与え、「ウォール・ストリート・ジャーナル」のベストセラー入りを果たした。(渡辺淳悦)「ロングゲーム」ドニー・クラーク著、伊藤守監修、桜田直美訳ディスカヴァー・トゥエンティワン2200円(税込)
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